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【ITニュース解説】在 WebAssembly 中使用 SIMD(一)

2025年09月08日に「Dev.to」が公開したITニュース「在 WebAssembly 中使用 SIMD(一)」について初心者にもわかりやすく解説しています。

作成日: 更新日:

ITニュース概要

WebAssemblyのSIMDは、一度の命令で複数データを同時に処理し、計算を高速化する技術である。動画や画像処理など負荷の高い処理で特に有効で、記事では画像の色反転処理がSIMDの利用により約6倍高速化した例が示されている。

出典: 在 WebAssembly 中使用 SIMD(一) | Dev.to公開日:

ITニュース解説

WebAssembly(Wasm)を用いて、Webアプリケーションの処理性能を飛躍的に向上させる技術の一つにSIMDがある。SIMDとは「Single Instruction Multiple Data」の略称で、日本語では「単一命令複数データ」と訳される。これは、文字通り「一つの命令で、複数のデータを同時に処理する」技術であり、CPUが元々持っている強力な機能の一つである。

コンピュータが計算を行う際、通常は一つずつデータを処理していく。例えば、4つの数値「1, 2, 3, 4」にそれぞれ「10」を足す場合、(1+10), (2+10), (3+10), (4+10) という計算を4回繰り返すのが基本的な動作である。しかし、SIMDに対応したCPUでは、「1, 2, 3, 4」というデータのかたまりに対して、「まとめて10を足す」という命令を一度実行するだけで、4つの足し算を並列に処理できる。これにより、単純計算で4倍の速度向上が期待できる。このような、データをかたまり(ベクトル)として扱う演算能力は、特に音声や動画のエンコード・デコード、リアルタイムの画像処理、科学技術計算といった、大量のデータを扱う計算集約型のアプリケーションで絶大な効果を発揮する。

WebAssemblyは、このCPUのSIMD機能をWebブラウザ上から利用可能にするための標準仕様を定めている。ただし、WebAssemblyは特定のCPUアーキテクチャに依存しない汎用的なプラットフォームであるため、そのSIMD命令セットは比較的保守的なものに限定されている。現在の標準では、128ビット(16バイト)の固定長データを扱う命令セットが採用されている。これは、例えば8ビットの整数なら16個、16ビットの整数なら8個、32ビットの整数や浮動小数点数なら4個、64ビットなら2個を、それぞれ一つのデータのかたまりとして一度に演算できることを意味する。

この強力な機能は、すでに多くの実行環境でサポートされている。Chrome、Firefox、Safariといった主要なWebブラウザや、サーバーサイドのJavaScript環境であるNode.jsの比較的新しいバージョンでは、WebAssemblyのSIMDが利用可能である。しかし、すべてのユーザーが最新の環境を使っているとは限らないため、開発者はSIMDが使えない環境にも配慮する必要がある。ここで重要になるのが「プログレッシブ・エンハンスメント(段階的強化)」という考え方である。これは、まず基本的な機能(非SIMD版)をすべてのユーザーに提供し、SIMDのような高度な機能が使える環境のユーザーに対しては、より高性能なバージョン(SIMD版)を提供するというアプローチである。具体的には、JavaScript側でwasm-feature-detectのようなライブラリを使い、実行時にユーザーの環境がSIMDをサポートしているかを判定する。サポートしていればSIMD版のWebAssemblyモジュールを、していなければ非SIMD版のモジュールを動的に読み込むように実装することで、幅広い環境でアプリケーションを動作させつつ、最新環境の性能を最大限に引き出すことが可能となる。

SIMDの具体的な効果を理解するために、画像のネガポジ反転処理を例に見てみよう。画像はピクセル(画素)の集合であり、各ピクセルは通常、赤(R)、緑(G)、青(B)、透明度(A)の4つの要素(各8ビット、合計32ビット)で構成される。ネガポジ反転は、各ピクセルのR, G, Bの値をそれぞれ「255から元の値を引く」ことで実現できる(透明度のAは変更しない)。

SIMDを使わない従来の方法では、プログラムは画像の全ピクセルに対してループ処理を行う。ループの中で、まず1ピクセル目のRの値をメモリから読み込み、255から引いて、結果をメモリに書き戻す。次にGの値を、そしてBの値を、というように、一つのピクセルを処理するだけでも複数の読み込み、計算、書き込みの命令が必要になる。これを全ピクセル分繰り返すため、非常に多くの命令を実行することになる。

一方、SIMDを使うと処理は劇的に効率化される。128ビットのSIMDでは、一度に16バイトのデータを扱える。これはピクセルデータ4つ分(4バイト/ピクセル × 4ピクセル = 16バイト)に相当する。まず、メモリから4ピクセル分のデータ(R,G,B,A, R,G,B,A, ...)を一つの命令(v128.load)でまとめて読み込む。次に、すべての要素が255である128ビットのデータを用意し、引き算の命令(i8x16.sub)を一度実行するだけで、4ピクセル分の12個の色情報(R,G,B × 4)が一括で計算される。この時点では透明度のAも計算されてしまうが、v128.bitselectという命令を使い、元のデータのAの値だけを計算結果に合成することで、透明度を維持できる。最後に、この16バイトの結果を一つの命令(v128.store)でメモリに書き戻す。このように、SIMDはループの回数を減らし、命令の実行数を大幅に削減することで、処理全体を高速化する。実験結果によれば、この画像処理においてSIMDを利用した場合は、利用しない場合に比べて約6倍もの性能向上が見られた。

ただし、SIMDを扱う際には注意点もある。SIMDは決まった単位(この場合は16バイト)でデータを処理するため、全体のデータサイズがその単位の倍数でない場合、最後の端数部分の処理でメモリの範囲を超えてアクセスしてしまう危険性がある。これを「メモリ汚染」と呼び、他のデータを破壊して予期せぬバグを引き起こす原因となり得るため、慎重な取り扱いが求められる。

結論として、WebAssemblyのSIMDは、Web上でネイティブアプリケーションに匹敵するような高いパフォーマンスが要求される処理を実現するための鍵となる技術である。その仕組みと適切な使い方を理解することは、将来高性能なWebアプリケーションを開発する上で非常に重要となるだろう。

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