アレイプロセッサ(アレイプロセッサ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

アレイプロセッサ(アレイプロセッサ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

アレイプロセッサ (アレイプロセッサ)

英語表記

array processor (アレイプロセッサ)

用語解説

アレイプロセッサとは、多数のシンプルなプロセッサ(処理要素、PE)を規則的に配列し、それらが連携して処理を行うことで、高速な並列計算を実現するコンピュータアーキテクチャの一種である。主にデータ並列性の高い処理、つまり大量のデータに対して同じ種類の操作を同時に適用するようなタスクで威力を発揮する。例えば、大規模な科学技術計算、画像処理、信号処理、機械学習といった分野でその特性が活かされる。このアーキテクチャの根幹にあるのは、SIMD (Single Instruction, Multiple Data) という並列処理モデルである。SIMDモデルでは、一つの制御装置(コントローラ)がただ一つの命令を発行し、その命令が配列されたすべてのプロセッサエレメント(PE)によって、それぞれが持つ異なるデータに対して同時に実行される。これにより、複数のデータに対する演算を実質的に一瞬で行うことが可能となり、処理速度の大幅な向上が期待できる。

アレイプロセッサの具体的な構成は、多数のPE、一つの制御装置、そしてPE間のデータ転送やPEと主記憶との間のデータ転送を行うための相互接続網からなる。PEは演算論理ユニット(ALU)と少量のローカルメモリを持ち、独立してデータを保持し与えられた命令を実行する。PEの数は数十から数万に及ぶことがあり、その数が多いほど並列処理能力は高まる。制御装置は、プログラムの命令をフェッチし、それをデコードしてPE群にブロードキャストする役割を担う。また、PE群全体の同期を取り、処理が適切に進むように調整する。相互接続網は、PEが隣接するPEとデータを交換したり、共有メモリやホストコンピュータとデータをやり取りするための経路であり、バス、メッシュ、リング、ハイパーキューブなど、様々なトポロジーが採用される。

アレイプロセッサの最大の利点は、その高い並列性による処理能力の向上である。多数のPEが同期して同じ命令を異なるデータに適用するため、膨大な量のデータを高速に処理できる。これは、数値計算における行列演算やベクトル演算、画像処理における画素ごとのフィルタリング、機械学習におけるニューラルネットワークの順伝播・逆伝播計算など、データ並列性が本質的に高い問題に対して特に有効である。また、各PEの設計が比較的シンプルであるため、集積回路としての実装効率も良い場合が多い。

現代においてアレイプロセッサの概念を色濃く受け継ぎ、広く普及しているのがグラフィックスプロセッシングユニット(GPU)である。GPUは、もともとコンピュータグラフィックスにおける画像描画、特に大量のピクセルや頂点に対して同じ計算を繰り返すという処理を高速化するために開発された。GPU内部には、多数のシンプルな演算器が配列されており、それらが並列に動作することで、膨大なグラフィックスデータを瞬時に処理する。近年では、GPUのこの並列計算能力が画像処理だけでなく、科学技術計算(GPGPU: General-Purpose computing on GPUs)や特に機械学習、ディープラーニングの分野で絶大な威力を発揮し、その需要が爆発的に高まっている。GPUは、数千から数万もの演算器を内蔵し、SIMDの考え方をさらに発展させたSIMT (Single Instruction, Multiple Threads) というモデルで動作することが多い。SIMTでは、PEに相当するスレッドプロセッサのグループが同じ命令を実行するが、個々のスレッドは異なる実行パスを辿ることも可能であり、より柔軟な並列処理を実現している。

しかし、アレイプロセッサにはいくつかの課題も存在する。一つはプログラミングの複雑さである。高い並列性を引き出すためには、問題をデータ並列な形に分解し、それに適したアルゴリズムを設計する必要がある。一般的な逐次処理のプログラムをそのまま実行しても、アレイプロセッサの性能を十分に引き出すことは難しい。また、PE間のデータ転送やPEと主記憶間のデータ転送がボトルネックとなる可能性もある。データ並列性の低いタスク、例えば条件分岐が多く、各データごとに実行すべき処理が大きく異なるようなタスクには、アレイプロセッサは不向きである。このようなタスクでは、各PEが多くの時間をアイドル状態で過ごすことになり、効率が著しく低下する。そのため、アレイプロセッサは、その特性が最も活かせる特定の種類の計算問題に特化して利用されることが多い。

総じて、アレイプロセッサは、多数のシンプルなプロセッサを並列に配置し、主にSIMDモデルに基づき協調動作させることで、特定の種類の並列計算を極めて高速に実行するアーキテクチャである。その概念は、スーパーコンピュータから現代のGPUに至るまで、高性能計算の進化において重要な役割を果たし続けている。

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