他人受入率 (エフエーアール) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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他人受入率 (エフエーアール) の読み方

日本語表記

他人受入率 (タニンウケイリツ)

英語表記

False Acceptance Rate (フォールス・アクセプタンス・レート)

他人受入率 (エフエーアール) の意味や用語解説

他人受入率とは、生体認証システムにおける精度の評価指標の一つであり、本人ではない未登録者、すなわち他人を誤って本人として認証してしまう確率を示す。英語ではFalse Acceptance Rateと表記され、頭文字をとってFARと略される。この指標は、システムのセキュリティレベルを直接的に示すため、特に安全性が重視されるシステムを設計・評価する上で極めて重要な役割を担う。 生体認証システムは、指紋、顔、虹彩、静脈といった個人の身体的特徴や、声紋、署名といった行動的特徴を用いて個人を識別する技術である。システムの動作は、まず利用者の生体情報を事前に登録し、特徴を抽出して数値データ化した「テンプレート」を作成することから始まる。認証時には、センサーが読み取った生体情報から同様に特徴データを抽出し、登録済みのテンプレートと比較照合する。このとき、二つのデータがどの程度一致するかを「一致度スコア」として算出し、あらかじめ設定された基準値である「しきい値(Threshold)」と比較する。スコアがしきい値以上であれば本人と判定し、未満であれば他人と判定するのが基本的な仕組みである。しかし、生体情報は体調や環境によって微妙に変化するため、認証時のデータが登録時のテンプレートと完全に一致することは稀である。また、他人の生体情報が偶然にも本人のテンプレートと類似している可能性も存在する。他人受入率は、後者のケース、つまり他人の特徴データから算出された一致度スコアが、偶然にもしきい値を超えてしまい、システムが誤って認証を許可してしまう事象の発生確率を指す。FARの値が低いほど、不正なアクセスを許しにくい、セキュリティレベルの高いシステムであると評価される。 他人受入率を理解する上で、対となる概念である「本人拒否率(False Rejection Rate, FRR)」を知ることが不可欠である。本人拒否率とは、正当な登録者本人であるにもかかわらず、システムが誤って他人と判断し、認証を拒否してしまう確率のことである。これは、認証時の指の乾燥や怪我、顔の角度や照明の変化などによって、本人の生体情報とテンプレートの一致度スコアがしきい値を下回った場合に発生する。FARとFRRは、一方が下がればもう一方が上がるというトレードオフの関係にある。この関係は、認証判定の基準となるしきい値の設定によって決まる。しきい値を高く設定し、判定基準を厳しくすると、他人のデータが基準を超える可能性は低くなるため、他人受入率(FAR)は低下する。しかしその一方で、本人のわずかな変化でも基準に満たなくなる可能性が高まり、本人拒否率(FRR)は上昇する。これはセキュリティを最優先するが、利便性が損なわれる設定である。逆に、しきい値を低く設定し、判定基準を甘くすると、本人が認証されやすくなるため、本人拒否率(FRR)は低下する。しかし、他人でも基準をクリアしやすくなり、他人受入率(FAR)は上昇する。これは利便性を重視するが、セキュリティリスクが高まる設定である。 システムエンジニアは、開発するシステムの目的や用途に応じて、このFARとFRRの最適なバランスを考慮し、しきい値を設計する必要がある。例えば、企業の機密情報や金融資産を管理するシステムでは、不正アクセスによる損害が甚大であるため、他人受入率(FAR)を極めて低く抑えることが最優先される。一方、個人のスマートフォンやPCのロック解除といった日常的に利用するシステムでは、本人が何度も認証を拒否されるストレスを避けるため、本人拒否率(FRR)を低く保ち、利便性を高めることが重視される傾向がある。 また、認証アルゴリズム自体の性能を客観的に評価する指標として、「等価エラー率(Equal Error Rate, EER)」が用いられる。これは、しきい値を調整していった際に、他人受入率(FAR)と本人拒否率(FRR)の値が等しくなる点でのエラー率を指す。このEERの値が低いほど、FARとFRRのトレードオフ関係において、両方のエラーを全体的に低く抑えることができる、より高精度な認証システムであると評価される。システム選定の際には、このEERが重要な判断材料の一つとなる。このように、他人受入率は生体認証システムのセキュリティを測る根幹的な指標であり、本人拒否率とのトレードオフ関係を理解した上で、システムの要件に合わせた適切な設計を行うことが、信頼性の高いシステムを構築するために不可欠である。

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