オブジェクトコード(オブジェクトコード)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
オブジェクトコード(オブジェクトコード)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
オブジェクトコード (オブジェクトコード)
英語表記
object code (オブジェクトコード)
用語解説
コンピュータ上でソフトウェアが実行されるまでには、人間が理解できる形で書かれたプログラム(ソースコード)が、コンピュータが直接理解できる形式へと段階的に変換される過程がある。この変換過程において生成される中間的なプログラム表現の一つが「オブジェクトコード」である。オブジェクトコードとは、コンパイラによってソースコードが機械語に近い形式に変換されたものであり、プログラムの部品としての役割を持つ。これは、人間が記述した高級言語の命令を、特定のCPU(中央演算処理装置)が実行できる基本的な命令セットに翻訳したものであるが、まだ単独では完全な実行可能なプログラムではない。
詳細について述べる。プログラマがC言語やJava、Pythonといったプログラミング言語で記述するものが「ソースコード」である。このソースコードは、人間にとっては理解しやすいが、コンピュータはそのままでは実行できない。コンピュータが理解できるのは、0と1の羅列で表現される「機械語」と呼ばれる命令である。ソースコードを機械語に変換する役割を担うのが「コンパイラ」というソフトウェアである。
コンパイルの過程において、ソースコードはまずコンパイラによって解析され、文法や意味が正しいかどうかがチェックされる。その後、コンパイラはソースコードの命令を、ターゲットとなるCPUの命令セットに対応する機械語の命令へと変換する。この段階で生成されるのがオブジェクトコードである。オブジェクトコードは、一般的に「オブジェクトファイル」と呼ばれるファイル形式で保存される。Windows環境では拡張子が.objとなることが多く、Unix/Linux環境では.oとなることが一般的である。
オブジェクトコードの特徴はいくつか挙げられる。第一に、その内容は人間が直接読んで理解することは非常に困難である点だ。これは、高級言語の命令がCPUの実行命令に非常に近い低水準な形式に変換されているためである。例えば、printfのような関数呼び出しが、実際のメモリ操作やレジスタ操作といった複雑な機械語の羅列として表現される。
第二に、オブジェクトコードは特定のCPUアーキテクチャに依存するという点である。例えば、Intel製のCPU(x86アーキテクチャ)向けにコンパイルされたオブジェクトコードは、ARMプロセッサを搭載したデバイスではそのまま実行できない。これは、それぞれのCPUアーキテクチャが独自の命令セットを持っているためである。
第三に、オブジェクトコードは単体では完全な実行可能なプログラムではないという点だ。プログラムは多くの場合、複数のソースファイルに分割されて記述される。それぞれのソースファイルが個別にコンパイルされると、それぞれが独立したオブジェクトコード(オブジェクトファイル)となる。これらのオブジェクトファイルには、そのファイル内で定義された関数や変数の情報(シンボル情報)や、他のファイルで定義されている関数や変数への参照(未解決の参照)が含まれている。
これらのオブジェクトコードの部品を一つにまとめ上げ、最終的に実行可能なプログラムを作成する役割を担うのが「リンカ」という別のツールである。リンカは、生成された複数のオブジェクトファイルと、プログラムが利用する外部のライブラリ(OSの機能や標準的な処理を提供するあらかじめコンパイルされたコードの集まり)を結合する。この結合処理の中で、リンカはオブジェクトファイル間に存在する未解決の参照を解決し、各関数や変数のメモリ上の最終的なアドレスを確定させる。これにより、すべてのプログラム部品が適切に連携できるようになり、コンピュータが直接ロードして実行できる形式の「実行可能ファイル」(Windowsでは.exe、Linuxでは実行権限を持つファイル)が生成される。
オブジェクトコードの利用には多くの利点がある。最も重要な利点の一つは、プログラムの「モジュール性」を高めることだ。大規模なソフトウェア開発において、プログラムを複数の小さなモジュール(ファイル)に分割して開発することは一般的である。各モジュールは独立してコンパイルされ、オブジェクトコードとして生成される。もしプログラムの一部だけを変更した場合、変更されたモジュールだけを再コンパイルし、他の未変更のオブジェクトコードはそのまま再利用できる。これにより、プログラム全体の再コンパイルにかかる時間を大幅に短縮し、開発効率を向上させることができる。
また、オブジェクトコードは「再利用性」にも貢献する。例えば、特定の機能を提供するライブラリを作成する場合、そのソースコードを公開せずに、コンパイル済みのオブジェクトコード(またはそれをまとめたライブラリファイル)として配布することが可能である。これにより、利用者はライブラリの内部実装を知る必要なく、その機能を利用できる。これは、知的財産の保護や、より安定したインターフェースの提供に役立つ。
システムエンジニアを目指す上で、オブジェクトコードの概念を理解することは、プログラムのコンパイルと実行のメカニズム、リンカの役割、そしてソフトウェア開発におけるモジュール化と再利用の重要性を深く理解するために不可欠である。コンピュータがどのようにプログラムを解釈し、実行しているのか、その基礎をなす重要な要素の一つがオブジェクトコードなのである。