加入電話網 (カニュウデンワモウ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
加入電話網 (カニュウデンワモウ) の読み方
日本語表記
加入電話網 (カニュウデンワモウ)
英語表記
PSTN (ピーエスティーエヌ)
加入電話網 (カニュウデンワモウ) の意味や用語解説
加入電話網とは、一般の利用者が電話機を用いて音声通話を行うために、電気通信事業者によって構築・提供されてきた公衆電気通信ネットワークの総称である。主に固定電話サービスを支える基盤として、長年にわたり社会の重要なインフラとして機能してきた。その最も特徴的な点は、回線交換方式を採用していることだ。これは、通話が開始されてから終了するまでの間、発信者と受信者の間に専用の物理的な通信経路(回線)が確立され、その経路が占有される通信方式を指す。この仕組みにより、通話中は安定した音声品質が保証される一方で、通話が行われていない間も回線は占有されたままであるため、資源の効率性という点では課題も抱えていた。また、一般的にはアナログ信号で音声を伝送する仕組みを指すことが多いが、デジタル化されたISDN網なども広義の加入電話網の一部として機能していた時代もある。 詳細な仕組みを見ていこう。加入電話網は、大きく分けて「加入者線」「交換局」「中継線」という要素で構成される。加入者線とは、利用者の家庭やオフィスに設置された電話機と、最寄りの電話局(交換局)とを結ぶ物理的なケーブルのことだ。日本では主に銅線が用いられてきた。この加入者線を通じて、電話機から発せられた音声のアナログ電気信号が交換局まで伝送される。 交換局は、加入電話網の心臓部とも言える施設で、多数の加入者線を収容し、着信があった際に適切な宛先へ接続する役割を担う。昔は手動交換士が配線盤を操作して接続していたが、その後は自動交換機が導入され、電話番号に基づいて機械的に回線を確立するようになった。この自動交換機は、当初は電気機械式のリレーやスイッチを用いた複雑な装置だったが、時代とともに電子交換機へと進化し、より高速かつ信頼性の高い接続が可能になった。交換機は、加入者線から送られてくるアナログ信号をデジタル信号に変換する機能(PCM:パルス符号変調)も持っており、これにより、より長距離の伝送や、後のデジタル通信サービスへの発展の道が開かれた。 複数の交換局の間を結び、より広範囲な通話を可能にするのが中継線である。例えば、隣の市町村やさらに遠く離れた地域への通話は、複数の交換局を経由して行われる。中継線には、かつては銅線による多重化技術が使われたが、通信量の増加に伴い、光ファイバーケーブルや無線通信(マイクロ波回線)が導入され、大容量かつ高速な通信が可能になった。これにより、全国規模、さらには国際規模での通話網が構築された。 歴史的な変遷を見ると、加入電話網はアナログ回線からスタートし、長距離回線のデジタル化、そしてISDN(サービス総合デジタル網)の導入によって、音声だけでなくデータ通信も可能なデジタル回線へと進化を遂げた。ISDNは、一本の電話回線で二つの通話チャンネルと一つのデータチャンネルを同時に利用できるという画期的なサービスで、ダイヤルアップ接続によるインターネット接続や、企業の内線電話システム(PBX)などでも広く利用された。しかし、その後、インターネットの普及とともに、パケット交換方式を採用するIPネットワークが主流となり、音声通信もIP電話へと移行が進んだ。 現代において「加入電話網」という言葉は、しばしば従来の回線交換方式による電話網、特にアナログ電話サービスを指すことが多い。通信事業者は、設備の老朽化や維持コストの問題から、このレガシーな加入電話網(PSTN: Public Switched Telephone Network)をIPネットワークへと完全に移行させる「PSTNマイグレーション」と呼ばれる計画を進めている。これにより、既存の固定電話サービスも、物理的なアナログ回線ではなく、IPネットワーク上で提供されるようになる。 システムエンジニアを目指す初心者にとって、加入電話網の知識は、一見すると古い技術に思えるかもしれない。しかし、企業においては依然としてFAX通信、警備システム、POSシステムなど、特定の用途で加入電話回線が利用されているケースが少なくない。また、レガシーシステムと新しいIPネットワークとの連携を設計する際には、加入電話網の仕組みや制約を理解していることが不可欠となる。IP電話の技術を深く理解するためにも、その前身である回線交換方式の電話網の知識は、通信技術の基礎として非常に有用だ。さらに、通信キャリアが提供する各種サービスの背景にある技術基盤を理解することは、より適切なシステム設計やトラブルシューティングに繋がる。このように、加入電話網は過去の遺物ではなく、現代の通信技術を理解するための重要なステップであり、未来のシステム構築を担うSEにとって、その基礎知識は今なお価値を持つと言えるだろう。