ダイヤルアップ接続 (ダイヤルアップセツゾク) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
ダイヤルアップ接続 (ダイヤルアップセツゾク) の読み方
日本語表記
ダイヤルアップ接続 (ダイヤルアップセツゾク)
英語表記
dial-up connection (ダイヤルアップコネクション)
ダイヤルアップ接続 (ダイヤルアップセツゾク) の意味や用語解説
ダイヤルアップ接続とは、アナログの電話回線を利用してインターネットに接続する方式を指す。これはインターネットが一般に普及し始めた1990年代後半から2000年代初頭にかけて、多くの家庭や企業で主流であった接続方法であり、現在の高速なブロードバンド接続(光回線やADSLなど)が普及する以前の、インターネットアクセスにおける基盤技術の一つであった。 概要として、ダイヤルアップ接続は、パソコンに接続されたモデム(変復調装置)が、電話回線を通じてインターネットサービスプロバイダ(ISP)のアクセスポイントに「電話をかけ」、接続を確立する仕組みである。モデムは、パソコンが扱うデジタル信号を電話回線で送受信可能なアナログ信号に変換し、またその逆の変換を行う役割を担う。この方式の最大の特徴は、既存の電話回線を利用するため、新たに専用回線を引く必要がない点にあった。しかしその反面、通信速度は現代の基準から見ると非常に遅く、また接続中は電話回線が占有され、電話が使えなくなるという制約があった。さらに、多くの場合は接続時間に応じて電話料金が課金される従量制であったため、長時間接続すると高額な料金が発生する可能性があった。現在では、より高速で安定したブロードバンド接続が主流となり、ダイヤルアップ接続が一般的に使われることはほとんどないが、特定のニッチな用途や、既存のレガシーシステムにおいて見られることがある。システムエンジニアを目指す初学者にとっては、インターネット黎明期の基盤技術として、その原理を理解することは、現代のネットワーク技術の理解を深める上で有益である。 詳細について、ダイヤルアップ接続の技術的な仕組み、メリットとデメリット、そして現代における位置づけを深掘りする。 ダイヤルアップ接続の核となるのは「モデム」である。モデム(MODEM)とは「MOdulator-DEModulator」の略で、変調器と復調器の機能を併せ持つ装置を意味する。パソコン内部のデジタルデータ(0と1の電気信号)を、電話回線(アナログ公衆電話網)で伝送可能な音の波形(アナログ信号)に変換する「変調」と、その逆の「復調」を行う。このアナログ信号は、人間の声と同じように電話回線を介して伝送される。 接続のプロセスは、まず利用者のパソコンからモデムに対し、ISPのアクセスポイントの電話番号に発信するように指示が出される。モデムは実際に電話をかけるように「プー、ガー、ピー」といった特徴的な接続音を発生させながら、ISP側のモデムとの間で信号の同期(ハンドシェイク)を行う。このハンドシェイクは、お互いの通信速度やプロトコル(通信規約)を確認し合う重要な手順である。同期が確立されると、次にPoint-to-Point Protocol(PPP)やSerial Line Internet Protocol(SLIP)といったデータリンク層のプロトコルを用いて、パソコンとISPの間で通信路が確立される。このプロトコルを通じて、ISPはパソコンに対して一時的なIPアドレスを割り当て、ユーザー名とパスワードによる認証を行う。認証が成功すると、パソコンはインターネットに接続された状態となり、ウェブサイトの閲覧や電子メールの送受信が可能になる。 通信速度は、ダイヤルアップ接続の最大の課題であった。当初は2400bps(ビット/秒)程度から始まり、最終的にはV.90やV.92といった規格により最大56kbps(キロビット/秒)まで向上した。しかし、これはあくまで理論上の最高速度であり、実際の回線品質やノイズの影響により、さらに低い速度でしか通信できないことがほとんどであった。例えば、高解像度の画像を含むウェブページ一つを表示するにも、数十秒から数分を要することも珍しくなく、動画コンテンツの視聴や大容量ファイルのダウンロードは実用的ではなかった。 ダイヤルアップ接続のメリットは、当時の状況において非常に大きかった。最も重要なのは、既に広く普及していた電話回線を利用できるため、専用のインフラ工事が不要であり、導入が非常に手軽であったことである。モデムさえ購入すれば、すぐにインターネットに接続できる点が、インターネット普及の大きな後押しとなった。初期費用が比較的安価であることも魅力であった。 一方でデメリットも多かった。まず、前述の通信速度の遅さである。次に、電話回線が占有されるため、インターネット接続中は電話の受発信ができなくなる点が挙げられる。また、電話回線は通話のための設計であるため、データ通信にはノイズの影響を受けやすく、接続が不安定になることが頻繁にあった。接続中に着信があると、インターネット接続が切断されることもあった。さらに、最も大きな経済的デメリットとして、多くのプロバイダが従量制料金体系を採用しており、接続時間に応じて通信料金(電話料金)が発生したため、長時間利用すると電話代が高額になるという問題があった。これが、常時接続が可能なADSLや光回線といったブロードバンド接続への移行を強く促す要因となった。 現代においては、ダイヤルアップ接続が一般的に利用されることは稀である。しかし、光回線などのブロードバンドインフラが整備されていない地域での限定的な利用や、IoT機器の緊急用バックアップ回線、または特定のレガシーシステムや産業機器のリモートメンテナンス用回線として、非常に限定的ながらもその存在価値が残っている場合がある。また、FAXモデムとしての機能もダイヤルアップの技術に基づいている。 システムエンジニアを目指す初学者にとって、ダイヤルアップ接続の知識は、ネットワーク技術の歴史的変遷と基本原理を理解するための貴重な教材となる。モデムによるデジタル・アナログ変換の概念、PPPのようなデータリンク層プロトコルの役割、IPアドレスの動的割り当て、そして通信速度(帯域幅)、遅延、安定性といったネットワーク性能の指標を具体的に実感する上で、ダイヤルアップ接続の体験は非常に分かりやすい。この古い技術の理解を通じて、現代の高速ネットワークがいかに進化してきたか、またどのような課題を克服してきたかを認識することは、今後のネットワーク設計やトラブルシューティングにおいて、より深い洞察をもたらす基礎となるだろう。