稼働率 (カドウリツ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
稼働率 (カドウリツ) の読み方
日本語表記
稼働率 (カドウリツ)
英語表記
Uptime (アップタイム)
稼働率 (カドウリツ) の意味や用語解説
稼働率とは、ITシステムが正常に動作し、サービスをユーザーに提供できている時間の割合を示す重要な指標である。システムの安定性や信頼性を測る上で不可欠な要素であり、ビジネスの継続性や顧客満足度に直接影響を与えるため、システムエンジニアが常に意識すべき概念の一つである。稼働率は通常パーセンテージで表現され、その数値が高いほどシステムが停止することなく安定して稼働していることを意味する。例えば、稼働率が99.9%であれば、年間の総稼働時間のうち0.1%だけ停止していたことを示す。この指標は、システム設計、構築、運用、そして改善のあらゆるフェーズで中心的な役割を果たす。 詳細として、稼働率の計算方法からその意味、そして稼働率を維持・向上させるための具体的なアプローチについて解説する。稼働率は一般的に「稼働時間 ÷ 全体時間」という式で算出される。ここで言う稼働時間とは、システムが実際にユーザーに対してサービスを提供できていた時間を指し、全体時間とは、システムが稼働を期待される全ての時間を指す。全体時間は、カレンダー上の全時間(例えば年間365日24時間)を用いる場合もあれば、システムがサービスを提供する計画上の時間帯のみを用いる場合もある。例えば、年間8760時間(365日×24時間)の全体時間に対し、計画的なメンテナンスによる停止が20時間、予期せぬ障害による停止が10時間発生した場合、稼働時間は8760時間から合計30時間を引いた8730時間となる。この場合、稼働率は8730 ÷ 8760 × 100 ≒ 99.66%となる。稼働率の「9」の数でシステムの可用性を表現することがあり、例えば「スリーナイン」は99.9%、「ファイブナイン」は99.999%を意味する。ファイブナインの稼働率は年間約5分間の停止しか許容しない極めて高い信頼性を要求されるシステムで用いられる。 稼働率が低下する主な要因は多岐にわたる。具体的には、ハードウェアの故障(サーバー、ストレージ、ネットワーク機器)、ソフトウェアの不具合(オペレーティングシステムやアプリケーションのバグ、設定ミス)、ネットワークの障害(回線断、通信機器の故障)、電力供給の停止、自然災害、そして人為的な操作ミスなどが挙げられる。また、システムを最新の状態に保つための計画的なメンテナンス(パッチ適用、バージョンアップ、リソース増強)も、サービスを一時的に停止させるため、稼働率に影響を与える要因となり得る。しかし、計画的な停止は将来的な非計画停止のリスクを減らすために不可欠な活動である。 稼働率を向上させるためには、これらの低下要因に対する事前対策と事後対応能力の強化が重要となる。まず、システム全体または重要なコンポーネントの「冗長化(多重化)」が基本となる。これは、同じ機能を持つ機器や部品を複数用意し、一つが故障しても残りが機能を継続する仕組みである。例えば、サーバーを二重化したり、ネットワーク経路を複数用意したり、データを複数のストレージに複製したりする。次に、「障害監視」を徹底し、異常を早期に検知してアラートを発するシステムを導入する。これにより、問題が深刻化する前に対応できる可能性が高まる。さらに、障害発生時に自動的に予備システムへ切り替える「フェイルオーバー」機能の実装や、「負荷分散」装置による処理能力の最適化も有効である。計画的なメンテナンスは、システムの老朽化や脆弱性による障害を未然に防ぎ、システムの性能を最適に保つ上で不可欠であるが、その実施時間や手順は慎重に計画し、サービスへの影響を最小限に抑える必要がある。バックアップとリカバリ戦略も重要であり、データ損失を防ぎつつ、障害発生時の「目標復旧時間(RTO: Recovery Time Objective)」や「目標復旧時点(RPO: Recovery Point Objective)」を達成できるよう計画する。 稼働率に関連する重要な概念として、「サービスレベルアグリーメント(SLA: Service Level Agreement)」がある。これは、サービス提供者と利用者間で合意されるサービス品質の保証であり、稼働率はSLAにおける最も中心的な項目の一つとなる。また、「平均故障間隔(MTBF: Mean Time Between Failures)」と「平均復旧時間(MTTR: Mean Time To Recovery)」も稼働率と深く関連する。MTBFはシステムが故障せずに稼働し続ける平均時間を示し、MTTRは故障発生からシステムが完全に復旧するまでの平均時間を示す。稼働率はこれらの指標を用いて「MTBF ÷ (MTBF + MTTR)」という関係式でも表現できる。つまり、故障しにくいシステム(MTBFが長い)であり、かつ故障してもすぐに復旧できる(MTTRが短い)システムほど、稼働率が高くなる。システムエンジニアは、これらの指標を理解し、設計段階でMTBFを最大化するような信頼性の高いコンポーネントを選定し、運用段階でMTTRを短縮するための迅速な障害対応プロセスや自動復旧機構を構築・運用する責任を負う。 このように稼働率は、単にシステムが動いているかどうかだけでなく、その安定性、信頼性、そしてビジネスの継続性を包括的に示す極めて重要な指標である。システムエンジニアは、技術的な知識だけでなく、ビジネス要件を理解し、コストと性能のバランスを取りながら、最適な稼働率を設計、構築、運用、そして継続的に改善していく役割を担うことになる。