【ITニュース解説】「AirPods」の目玉機能「ライブ翻訳」、EUのユーザーは利用できず
2025年09月12日に「CNET Japan」が公開したITニュース「「AirPods」の目玉機能「ライブ翻訳」、EUのユーザーは利用できず」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
AirPods向け新機能「ライブ翻訳」がiPhone 17発表で注目されたが、欧州連合(EU)のユーザーは現時点ではこの機能を利用できない。
ITニュース解説
アップルがiPhone 17の発表イベントで披露したAirPodsの新機能「ライブ翻訳」は、まるでSFの世界から飛び出してきたかのような画期的な技術として大きな注目を集めた。この機能は、ユーザーがAirPodsを装着している状態で話すと、その言葉がリアルタイムで別の言語に翻訳され、相手に音声で伝えられるというものだ。これにより、異なる言語を話す人々の間のコミュニケーションの障壁が劇的に低減され、海外旅行や国際的なビジネスシーンなど、様々な場面での利用が期待されている。
この「ライブ翻訳」機能の実現には、高度な人工知能(AI)技術が不可欠である。具体的には、AirPodsがユーザーの音声を高精度で拾い上げ(音声入力)、その音声をテキストに変換する「音声認識」技術、テキストを別の言語に瞬時に変換する「機械翻訳」技術、そして翻訳されたテキストを自然な音声として出力する「テキスト読み上げ」技術が組み合わされている。これらの一連の処理がiPhoneの強力な処理能力とクラウド上のAIと連携しながら、非常に短い時間で実行されるため、ユーザーはほとんど遅延を感じることなく会話を続けることができる。
しかし、この期待の新機能が欧州連合(EU)のユーザーにはすぐに利用できないというニュースは、単に技術的な問題だけでなく、グローバルなシステム開発とサービス提供において、法規制や倫理的な側面がいかに重要であるかを明確に示している。EUで「ライブ翻訳」機能が制限される主な理由は、厳格なデータプライバシー規制と、人工知能(AI)に対する新たな法的枠組みの動きにあると考えられている。
EUには、一般データ保護規則(GDPR)という、個人情報の取り扱いに関する世界でも最も厳しいとされる法規制が存在する。GDPRは、個人情報の収集、処理、利用について企業に詳細な義務を課しており、特に個人の声や発言内容は、個人を特定できる可能性から「個人情報」として扱われることが多い。「ライブ翻訳」機能は、ユーザーの音声を継続的に収集し、それをサーバーで処理する性質上、大量の個人情報を扱うことになる。このため、アップルはGDPRの定める「明確な同意の取得」「利用目的の透明性」「適切なセキュリティ対策」「データ主体(ユーザー)の権利の保証」といった要件を、EU域内で完全に満たすための準備に時間を要していると考えられる。ユーザーの音声データがどこで処理され、どのように保存されるのか、また、そのデータがどのように利用されるのかといった点を、透明性高く説明し、ユーザーから適切な同意を得るプロセスを確立する必要がある。
さらにEUは、AIシステムの利用に関する新たな法的枠組みとして「AI法案(AI Act)」の制定を進めている。この法案は、AIがもたらすリスクのレベルに応じて、その開発と利用を規制しようとするもので、特に医療や教育、公共サービスなど、人々の権利や安全に大きな影響を与える可能性のある「高リスクAIシステム」に対しては、厳格な要件を課す方針が示されている。「ライブ翻訳」のようなAIを活用したサービスは、誤訳がコミュニケーションに深刻な影響を与えたり、個人のプライバシーを侵害したりするリスクをはらんでいるため、AI法案の対象となりうる。AI法案が求める「AIシステムの透明性」「説明可能性」「公平性」「堅牢性」といった要件を満たすためには、AIモデルの設計段階からこれらの基準を考慮し、十分なテストと検証を行う必要がある。
システムエンジニアを目指す皆さんにとって、このニュースは非常に示唆に富んでいる。優れた技術を開発するだけでは、グローバルなサービス展開はできないという現実を突きつけているからだ。将来、システムエンジニアとして働く上で、技術的なスキルだけでなく、開発するシステムが利用される国や地域の法規制、文化、倫理といった社会的な側面を深く理解し、それに適合するようにシステムを設計・構築する能力が不可欠となる。例えば、データ処理のアーキテクチャを設計する際には、データの保存場所や処理方法が各国の規制に準拠しているかを確認し、必要であれば特定の地域でのデータ処理を限定するなどの対応が求められる。また、AIを搭載したシステムでは、その判断基準や結果が公平で、差別的でないかを検証し、説明責任を果たすための仕組みを組み込むことも重要になる。
IT業界はグローバルな性質を持つため、開発したシステムやサービスが世界中で利用される機会は多い。この時、法務部門やコンプライアンス部門と密接に連携し、事前に法的リスクを評価し、適切な対応策を講じるプロセスは、システム開発の重要な一部となる。技術の進化が加速する中で、法規制や社会の要請も常に変化しているため、システムエンジニアは常に学び続け、技術と社会のバランスを理解し、より安全で信頼性の高いシステムを構築していくことが求められる。この「ライブ翻訳」の事例は、まさにそのことを示す現代のシステム開発における重要な教訓と言えるだろう。