【ITニュース解説】中学生がBGPで経路交換して遊んでみた
2025年09月08日に「Zenn」が公開したITニュース「中学生がBGPで経路交換して遊んでみた」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
中学生が、インターネットの経路交換を担うプロトコル「BGP」の実験に挑戦。自宅サーバー上のコンテナ間で実際にBGPを動作させ、ネットワークの経路情報が交換される仕組みを実践的に解説している。
ITニュース解説
インターネットは世界中のコンピュータを繋ぐ巨大なネットワークだが、その全体像を一枚の地図で見ることはできない。無数の独立したネットワークが相互に接続し合うことで、この巨大なシステムは成り立っている。この独立したネットワークの集合体をAS(Autonomous System)と呼び、AS同士が互いの接続情報を交換するためのルールがBGP(Border Gateway Protocol)である。中学生が自宅サーバー環境でこのBGPの仕組みを再現し、経路交換を試みた実践記録は、インターネットの根幹技術を理解する上で非常に示唆に富んでいる。
まず、ASとは何かを理解する必要がある。ASは「自律システム」と訳され、特定の組織やプロバイダが管理するネットワークの塊を指す。例えば、NTTやKDDIといった大手通信事業者や、Google、Amazonといった巨大IT企業は、それぞれが一つまたは複数のASを運用している。これらのASには、AS番号(ASN)という世界で一意の識別番号が割り当てられている。インターネットとは、これらの無数のASが相互にケーブルで接続された巨大な集合体なのである。しかし、単に接続されているだけでは、あるASから別のAS内にあるコンピュータへデータを届けることはできない。どのASを経由すれば目的地にたどり着けるかという経路情報が必要になる。このAS間の経路情報を交換するためのプロトコルがBGPである。BGPは、各ASが持つネットワーク情報(どのIPアドレス帯を管理しているか)と、他のASへの接続情報を交換し合い、インターネット全体の到達可能性を担保する役割を担っている。
BGPには、その役割に応じて主に二つの種類が存在する。一つはeBGP(External BGP)で、異なるAS間で経路情報を交換するために使用される。これがインターネットの根幹をなす、プロバイダ間の通信で使われるBGPである。もう一つはiBGP(Internal BGP)で、同一のAS内部で経路情報を共有するために使われる。あるASがeBGPで外部から受け取った経路情報を、AS内のすべてのルーターに行き渡らせるためにiBGPが利用される。今回行われた実験は、このうちeBGPの動作を小規模な環境でシミュレートするものである。自宅サーバー上に二つの仮想的なコンピュータ(コンテナ)を用意し、それぞれを別々のASと見なす。具体的には、一方にプライベート用のAS番号である65001を、もう一方に65002を割り当てた。そして、この二つの仮想AS間でBGPを用いて経路情報を交換させ、相互に通信可能な状態を作り出すことが実験の目的である。
実験では、コンピュータ上に仮想環境を構築するDockerという技術が用いられた。Dockerコンテナは、ホストマシンから隔離された独立した実行環境を手軽に作成できるため、今回のように複数の独立したネットワーク機器をシミュレートするのに適している。二つのコンテナを起動し、それぞれに異なるIPアドレスとAS番号を割り当て、独立したネットワークとして機能させた。次に、これらのコンテナをBGPルーターとして動作させるため、FRRouting(FRR)というオープンソースのルーティングソフトウェアが導入された。FRRは、一般的なLinuxコンピュータを、専門メーカー製の高性能ルーターと同様に動作させることができるソフトウェアパッケージである。FRRの設定を通じて、各コンテナはBGPスピーカーとしての役割を担うことになる。具体的な設定としては、まずBGPプロセスを開始し、自身のAS番号を定義する。その後、通信相手となるもう一方のコンテナのIPアドレスとAS番号を「ネイバー(neighbor)」として指定する。これにより、二つのBGPルーターは互いをピアリング相手として認識し、BGPセッションの確立を試みる。最後に、自身のASが管理しているネットワークアドレスの範囲を「ネットワーク(network)」コマンドで指定し、この情報を相手に広告(announce)するよう設定する。
設定後、各コンテナでBGPの状態を確認するコマンドを実行すると、ネイバーとのセッションが「Established(確立済み)」状態になっていることが確認できる。これは、二つの仮想AS間でBGPの通信が成功し、経路情報を交換する準備が整ったことを意味する。続けて経路情報を表示させると、それぞれのBGPテーブルに、相手のASから広告されたネットワークへの経路が登録されていることがわかる。例えば、AS65001のルーターは、「AS65002が管理するネットワークへは、AS65002のルーターを経由すれば到達できる」という情報を学習する。この経路情報に基づいて、実際にデータパケットの転送が可能となる。実験の最終段階として、片方のコンテナからもう一方のコンテナへpingコマンドで通信を試み、応答が返ってくることを確認した。これは、BGPによって交換された経路情報が正しく機能し、二つの独立したネットワーク間での通信が成功したことを証明している。
この一連の実験は、インターネットの中核を担うBGPというプロトコルが、実際にどのようにして経路情報を交換し、ネットワーク間の接続性を確立するのかを具体的に示したものである。通常は大規模なネットワーク機器で構成されるインターネットの仕組みを、コンテナという身近な技術を用いて手元で再現した点は、技術学習において非常に価値が高い。システムエンジニアを目指す初心者にとって、ネットワークの理論を学ぶだけでなく、実際に手を動かしてプロトコルの動作を検証することは、知識を深く定着させる上で極めて重要である。BGPのような基盤技術の原理を理解することは、将来的にネットワークの設計や障害対応を行う際に、問題の本質を的確に捉える能力に繋がる。この実践例は、複雑な技術であっても、基本的な要素に分解し、小規模な環境で試行錯誤することの重要性を示している。