【ITニュース解説】第1回:クラウドネイティブとエージェントAIによる次世代アーキテクチャーの全容(前編)

2025年09月10日に「ZDNet Japan」が公開したITニュース「第1回:クラウドネイティブとエージェントAIによる次世代アーキテクチャーの全容(前編)」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

作成日: 更新日:

ITニュース概要

企業の基幹システムを支えるメインフレームが、クラウドやAI技術を取り込み「クラウドネイティブ」な次世代プラットフォームへ進化する。その新しいアーキテクチャーの全体像と構成について解説する。(105文字)

ITニュース解説

多くの大企業や銀行のシステムは、「メインフレーム」と呼ばれる非常に高性能で信頼性の高い大型コンピューターの上で、今も動き続けている。これは社会の基盤を支える重要な存在だが、一方で、システムが作られてから数十年が経過し、技術が古くなったり、その仕組みに詳しい技術者が減ってきたりするという課題を抱えている。そこで、このメインフレームを現代の技術で新しく作り変えようという動きが進んでいる。その目指す姿は、単に古いものを新しくするだけでなく、「クラウドネイティブ」と「エージェントAI」という二つの強力な技術を組み合わせた、全く新しい次世代のシステム基盤である。

まず、「クラウドネイティブ」という考え方について説明する。これは、システムを単にインターネット経由で使えるクラウドサービス上に移すことだけを意味するのではない。クラウドが持つ「必要な時に必要なだけコンピューターの能力を借りられる」「柔軟に規模を拡大・縮小できる」といった利点を最大限に引き出すための設計思想そのものを指す。具体的には、従来の一つの巨大なプログラムとして作られていたシステムを、業務の機能ごとに独立した小さなサービス(マイクロサービス)の集まりとして再構築する。そして、それぞれのマイクロサービスを「コンテナ」と呼ばれる標準化された実行環境に格納する。コンテナは、どのクラウド環境でも同じように動くため、特定のサービスに縛られることなく、自由なシステムの構築が可能となる。このようにシステムを小さな部品に分割しておくことで、特定の部分だけを修正したり、新しい機能を追加したりすることが非常に容易になり、ビジネスの変化に素早く対応できる俊敏性を手に入れることができる。

次に、「エージェントAI」である。これは、自律的に思考し、判断し、タスクを実行する能力を持つAIを指す。与えられた指示に対して答えを返すだけのAIとは異なり、目標達成のために自ら計画を立てて行動する存在だ。このエージェントAIをシステム開発や運用に活用することで、これまで人間が行っていた多くの作業を自動化できる。例えば、システムの設計書を読み込んでプログラムのコードを自動で生成する「開発エージェントAI」や、24時間365日システムの稼働状況を監視し、異常を検知した際には自動で問題を分析して復旧作業まで行う「運用エージェントAI」などが考えられる。これにより、開発スピードが劇的に向上し、人為的なミスが減り、システムの安定性も高まる。さらに、システムに蓄積された膨大なデータを分析し、ビジネス上の課題発見や改善提案を行う「ビジネスエージェントAI」の活躍も期待される。

このクラウドネイティブとエージェントAIを組み合わせた次世代のシステムは、複数の層が連携して機能する構造(アーキテクチャー)を持つ。まず土台となるのが、AWSやAzureといったクラウドサービスが提供する「クラウドプラットフォーム層」だ。ここでコンテナ技術を使い、アプリケーションを動かすための柔軟な基盤を構築する。その上には、メインフレームに保管されていた重要なデータを管理する「データプラットフォーム層」が存在する。データはクラウド上の最新のデータベースに移され、AIが分析しやすいように整理・統合される。次に、実際の業務処理を行う「アプリケーションプラットフォーム層」がある。ここでは、メインフレームで動いていた業務プログラムが、クラウドネイティブの考え方に基づいてマイクロサービスとして再構築される。そして、これらのシステム全体の開発や運用を支えるのが「AIプラットフォーム層」だ。前述した開発エージェントAIや運用エージェントAIは、この層で活動し、システムの自動化と効率化を推進する。最後に、これらすべての層が円滑に連携し、セキュリティやルールが一貫して守られるように全体を管理・統制する「統合プラットフォーム層」が置かれる。ここでは、開発からテスト、公開までの一連の流れを自動化する仕組み(CI/CDパイプライン)も整備される。

このように、メインフレームはクラウドネイティブとエージェントAIの力を借りて、過去の資産を活かしながらも、全く新しいプラットフォームへと生まれ変わろうとしている。この変革は、単なる技術の更新ではない。企業が直面するシステムの老朽化という課題を解決するだけでなく、ビジネス環境の急速な変化に柔軟かつ迅速に対応できる能力を獲得することを意味する。システムエンジニアにとっても、この新しいアーキテクチャーは、日々の定型的な作業をAIに任せ、より創造的で付加価値の高い、システム全体の設計や改善といった業務に集中できる未来をもたらす可能性を秘めている。これは、これからのITインフラのあり方を大きく変える、重要な一歩となるだろう。