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【ITニュース解説】Death of a lens(man)

2025年09月14日に「Dev.to」が公開したITニュース「Death of a lens(man)」について初心者にもわかりやすく解説しています。

作成日: 更新日:

ITニュース概要

F#では、深くネストされたデータ(レコード)の更新がこれまで複雑だった。イミュータブルなため、更新箇所まで全ての階層を記述する必要があったからだ。F#8で新構文が導入され、深くネストしたデータを直接指定して更新可能に。これによりコードがシンプルになり、開発が効率化される。

出典: Death of a lens(man) | Dev.to公開日:

ITニュース解説

F#というプログラミング言語は、開発者が実際に直面する問題に対応し、利用者のニーズを重視することで進化を続けている。その進化の一例として、深くネストしたデータ構造を扱う際の「更新」に関する課題と、それに対する新しい解決策がある。

想像してみてほしい。F#のドメインで、複数の情報が階層的に組み合わさったデータ構造を扱う場面だ。例えば、社員の情報が、その詳細、住所、さらにその場所といった形で、何重にも入れ子になっているような状況である。具体的には、社員(Employee)という型があり、その中に社員の詳細(Details)、詳細の中に名前(PersonName)と住所(Address)、住所の中に都市名(City)と具体的な場所(Locale)、さらに場所の中に番地(HouseNumber)が含まれるような構造だ。

1type PersonName = {FirstName: string; LastName: string}
2type Locale = {Street: string; HouseNumber: string}
3type Address = {City: string; Locale: Locale}
4type Details = {Name: PersonName; Address: Address}
5type Employee = {Id: int; Details: Details}

この型定義に基づき、シャーロック・ホームズという社員のデータを作成すると、次のような形になる。

1let sherlockHolmes = {
2    Id = 1
3    Details = {
4        Name = {
5            FirstName = "Sherlock"
6            LastName = "Holmes"
7        }
8        Address = {
9            City = "London"
10            Locale = {
11                Street = "Baker"
12                HouseNumber = "221B"
13            }
14        }
15    }
16}

このデータ構造は、まるでJSON形式のデータが多重に入れ子になっているかのようだ。ここで、シャーロック・ホームズが引っ越しをして、住所の番地が「221B」から「222」に変わったとする。この変更をデータ構造にどう反映させるかが問題となる。

F#のレコードは、F#ネイティブのデータ構造全てと同様に、「不変(immutable)」であるという重要な特性を持つ。不変性とは、一度作成されたデータの内容は、後から直接変更できないということだ。これは、プログラムの予期せぬ変更を防ぎ、コードの信頼性を高める上で非常に有益な特性である。

しかし、この不変性が、ネストしたデータの更新を複雑にする要因でもあった。「シャーロック・ホームズの番地を更新する」という操作は、実際にはメモリ上の既存のデータオブジェクトを直接変更するわけではない。代わりに、元のデータのクローンを作成し、その新しいデータ構造に変更内容を適用するという形で「更新」を行う。つまり、F#コンパイラに「このオブジェクトの、3階層奥にあるHouseNumberメンバーだけを更新して、他のデータはそのままにしてほしい」と直接指示する方法は、かつては存在しなかったのだ。これはC#などの言語では1行で簡単にできる操作であり、F#では相当な労力を要する課題だった。

F#8より前の「クラシック」な構文では、このネストしたデータの更新は非常に冗長な記述を必要とした。シャーロック・ホームズの番地を「222」に変更する場合、次のようなコードを書かなければならなかった。

1let sherlockHolmesUpdated = {
2    sherlockHolmes with
3        Details = {
4            sherlockHolmes.Details with
5                Address = {
6                    sherlockHolmes.Details.Address with
7                        Locale = {
8                            sherlockHolmes.Details.Address.Locale with
9                                HouseNumber = "222"
10                        }
11                }
12        }
13}

このコードでは、変更したい一番深い階層であるHouseNumberにたどり着くために、その上位の階層であるLocaleAddressDetailsを全てwithキーワードを使って明示的に再構築する必要がある。変更したいデータが深くネストしているほど、このwith句の連鎖は長くなり、まるで「変更のピラミッド」のように、非常に読みにくいコードになってしまう問題があった。これは正確に動作するが、保守性や可読性の面で大きな課題だったのだ。

関数型プログラミング言語の世界には、「Optics(光学)」と呼ばれる、ネストしたデータ構造を扱うための一連の関数群が存在する。Opticsは、コードが目的のデータに「ピンポイントで焦点を合わせる」ことを可能にする、という意味合いで名付けられた。Opticsの中でも最も一般的で広く使われているパターンが「レンズ」であり、これを使えば深くネストしたデータ構造の中から特定のデータを取得したり設定したりできる。しかし、大きな問題があった。Opticsライブラリは言語に組み込まれているわけではなく、利用者が自身のデータ構造に合わせて、そのフレームワークを実装しなければならなかったのである。このOpticsのフレームワーク自体の実装は非常に複雑で、初心者にとってはその導入自体が高いハードルとなるものだった。

このような背景があった中で、F#8(2025年11月にはF#10がリリースされる予定である)において、Opticsの中でも最も使われるレンズのケースに対応する構文が更新された。これにより、深くネストしたデータの更新が劇的に簡単になったのだ。

シャーロック・ホームズが引っ越して番地を「222」にする場合、新しいF#の構文では次のように書ける。

1let sherlockHolmesUpdated = {
2    sherlockHolmes with
3        Employee.Details.Address.Locale.HouseNumber = "222"
4}

なんと、これだけでよい。従来のwith句を連鎖させる方法と異なり、Employee.Details.Address.Locale.HouseNumberのように、ドットで繋いだパスによって、直接目的のフィールドを指定して更新できるようになった。まさに魔法のように簡潔だ。この新しい構文を使う際の唯一の注意点は、必ず一番上位のネストレベル、この場合はEmployeeからパスを開始する必要があるということである。

複数の変更を一度に行う場合でも、同様に簡潔に記述できる。

1let sherlockInLiverpool = {
2    sherlockHolmes with
3        Employee.Details.Address.City = "Liverpool"
4        Employee.Details.Address.Locale.Street = "Something St."
5        Employee.Details.Address.Locale.HouseNumber = "5"
6    }

この新しい構文は、ネストしたレコードの更新にかかる負担を非常に大きく削減する効果があった。その影響は大きく、いくつかの既存のOpticsライブラリのメンテナーが、プロジェクトのメンテナンスを停止するほどだったという。F#は、クリーンで理解しやすい構文で、命令型スタイルに近い形でネストしたレコードを更新する方法を手に入れたのである。

プログラミング言語の開発者が、利用者からの意見や課題に耳を傾け、それらを解決するために言語を進化させることは、本当に素晴らしいことだ。F#の場合、Microsoftがその役割を担い、時間をかけてではあるが、着実に改善を行ってきた。このような姿勢こそが、言語の活性化と利用者の満足度向上に繋がるのである。

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