【ITニュース解説】GHG排出量の具体的な算定方法--スコープ3
2025年09月30日に「ZDNet Japan」が公開したITニュース「GHG排出量の具体的な算定方法--スコープ3」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
サプライチェーン全体での温室効果ガス(GHG)排出量の可視化と開示が求められている。記事では、算定が複雑なスコープ3におけるGHG排出量の具体的な算定手順を解説する。
ITニュース解説
現代社会において、企業活動における温室効果ガス(GHG)排出量の可視化と開示は、持続可能な社会の実現と企業の社会的責任という観点から、非常に重要な課題として認識されている。地球温暖化の進行は、世界中で気候変動による異常気象を引き起こし、私たちの生活や経済活動に深刻な影響を与えているため、各国政府や国際機関は、企業に対してGHG排出量の削減を強く求めている。これに伴い、企業は自社の排出量を正確に把握し、その情報を公開することが求められるようになった。この課題に取り組むためには、ITシステムの活用が不可欠であり、システムエンジニアを目指す者にとっても、その仕組みを理解しておくことは将来のキャリアにおいて大きな意味を持つ。
GHG排出量の算定にあたっては、「スコープ」という概念が用いられる。これは、排出源を分類するための国際的な基準であり、主にスコープ1、スコープ2、スコープ3の三つに分けられる。スコープ1は、企業が直接排出するGHGを指す。例えば、自社の工場や事業所で燃料を燃焼させた際に発生する排出量や、自社所有の車両から排出されるGHGなどがこれに該当する。スコープ2は、企業が購入した電気や熱、蒸気などのエネルギーの使用に伴う間接的な排出量を指す。自社で直接燃焼させていないものの、エネルギー供給元の発電所でGHGが排出されているため、これを自社の排出量として計上する。そして、最も広範で複雑なのがスコープ3である。これは、スコープ1とスコープ2以外の、企業の事業活動に関連する全てのサプライチェーンにおける間接排出量を指す。つまり、製品が作られ、消費者の手に届くまでの全ての過程において、自社以外の他の企業や活動によって発生した排出量であっても、自社の製品やサービスの生産、流通、消費、廃棄といったプロセスに関わるものであれば、全てスコープ3として算定の対象となる。
スコープ3の重要性は、その排出量が企業のGHG排出量全体の大部分を占めることが多い点にある。例えば、製品を製造する際に購入する原材料の生産過程で発生する排出量や、製品を顧客に届けるための輸送過程で発生する排出量、さらには製品が顧客によって使用され、最終的に廃棄されるまでの過程で発生する排出量など、非常に多岐にわたる。スコープ3はさらに15のカテゴリに細分化されており、それぞれのカテゴリで異なる算定アプローチが求められる。主なカテゴリとしては、「購入した製品・サービス」「資本財」「燃料・エネルギー関連活動」「輸送・配送(上流)」「廃棄物」「事業における出張」「従業員の通勤」「リース資産(下流)」「販売した製品の加工」「販売した製品の使用」「販売した製品の廃棄」などが挙げられる。これらのカテゴリは、製品やサービスのライフサイクル全体を網羅しており、企業がサプライチェーン全体における環境負荷を把握するために不可欠な要素となっている。
スコープ3の排出量を具体的に算定するには、いくつかのステップを踏む必要がある。最初のステップは、自社にとって算定すべきスコープ3のカテゴリを特定することである。全てのカテゴリが全ての企業に適用されるわけではなく、企業の業種や事業内容、GHG排出に対する影響度を考慮して、関連性の高いカテゴリを選定する。次に、選定したカテゴリごとの活動量データを収集する。活動量データとは、例えば製品の製造に使用した原材料の量、輸送距離、消費した電力、従業員の通勤距離、出張の回数など、排出量計算の基礎となる具体的な活動の数値である。このデータは、自社の会計システムや生産管理システムから取得できるものもあれば、サプライヤーや物流業者から提供してもらう必要があるもの、あるいは業界平均値や公表データを利用するものなど、様々な情報源から集めることになる。
活動量データと並行して、「排出係数」も収集する。排出係数とは、特定の活動量あたりのGHG排出量を示す数値であり、例えば、ガソリン1リットルあたりのCO2排出量や、電力1kWhあたりのCO2排出量などがこれに該当する。これらの排出係数は、国や地域、燃料の種類によって異なるため、信頼できる公的機関や研究機関が公表しているデータを利用することが重要である。活動量データと排出係数が揃えば、これらを掛け合わせることでGHG排出量を算定できる。これが「原単位法」と呼ばれる基本的な算定方法である。しかし、全ての活動量データが詳細に取得できるわけではない場合もある。その際には、例えば製品の購入金額やサービスの利用金額といった支出額から排出量を推計する「支出額アプローチ」などの代替手法が用いられることもある。これらの算定は、GHGプロトコルという国際的な基準に沿って行われることが一般的であり、透明性と信頼性を確保するために不可欠である。
算定されたGHG排出量は、単に数字を出すだけでなく、それを可視化することが求められる。可視化とは、グラフや表、ダッシュボードといった形で、誰にでも分かりやすく排出量の状況を示すことである。これにより、企業は排出量の多いプロセスやサプライヤーを特定し、効果的な削減策を検討できるようになる。また、外部への開示を通じて、投資家や顧客、その他のステークホルダーに対して、企業の環境への取り組みを示す重要な情報となる。
ITシステムは、この複雑なGHG排出量算定プロセスにおいて中心的な役割を果たす。膨大な活動量データの収集、異なる情報源からのデータの統合、正確な排出係数の適用、そして多様なカテゴリにわたる排出量の自動計算は、手作業では非常に困難であり、時間とコストがかかるだけでなく、ヒューマンエラーのリスクも高まる。そこで、専用のGHG排出量算定・管理システムや、既存のERP(統合基幹業務システム)などとの連携が重要となる。データベースを活用して活動量データや排出係数を一元管理し、クラウドベースのプラットフォームでサプライヤーとのデータ連携をスムーズにし、データ分析ツールで排出量の傾向を可視化し、レポーティング機能で必要な形式での開示資料を自動生成するといった形で、システムエンジニアが設計・開発するITソリューションが、この課題解決に大きく貢献するのである。
このように、GHG排出量の可視化と開示、特にスコープ3の算定は、現代の企業経営において避けて通れないテーマである。そして、その複雑なプロセスを効率的かつ正確に実行するためには、ITの力が不可欠である。システムエンジニアを目指す者にとって、このような環境課題に対するITソリューションの需要は今後ますます高まることが予想される。データ管理、分析、セキュリティ、クラウド技術など、幅広いITスキルが求められる分野であり、社会貢献と技術革新の両面でやりがいのある仕事につながる可能性を秘めている。GHG排出量算定の仕組みを理解することは、将来、持続可能な社会をITで支えるシステムを構築する上で、重要な基礎知識となるだろう。