【ITニュース解説】In court filing, Google concedes the open web is in “rapid decline”
2025年09月09日に「Ars Technica」が公開したITニュース「In court filing, Google concedes the open web is in “rapid decline”」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
Googleが独占禁止法裁判で、オープンウェブは急速に衰退していると認めた。人々が検索エンジンではなく、TikTok等の特定アプリ内で情報を探すようになったため、自社は市場を独占していないと主張している。
ITニュース解説
インターネットの世界で大きな力を持つGoogleが、裁判所に提出した書類の中で「オープンなウェブは急速に衰退している」という見解を公式に認めた。これは、私たちが日常的に利用しているインターネットの構造が、今まさに大きな転換点を迎えていることを示す重要な出来事である。このニュースが意味することを理解するためには、まず「オープンなウェブ」とは何かを知る必要がある。
「オープンなウェブ」とは、特定の企業や組織に所有されることなく、標準化された技術に基づいて誰もが自由に情報を発信し、アクセスできるインターネット空間のことを指す。例えば、個人が立ち上げたブログや企業の公式ウェブサイトなどがこれにあたる。HTMLやCSS、JavaScriptといった共通の技術で作られており、Googleのような検索エンジンがその情報を収集・整理することで、私たちは世界中の膨大な情報の中から必要なものを見つけ出すことができる。このオープンなウェブこそが、インターネットの発展を支えてきた根幹的な仕組みであった。
しかし、近年その状況は大きく変化している。スマートフォンが普及し、人々がインターネットに接続する時間の多くが、特定の企業が提供するアプリケーション、いわゆる「クローズドなプラットフォーム」の中で費やされるようになった。Facebook、Instagram、TikTok、LINEなどがその代表例である。これらのプラットフォーム内では、コンテンツの投稿や閲覧、ユーザー間のコミュニケーションがアプリの中で完結する。外部の検索エンジンがその内部の情報を完全に収集することは難しく、情報はプラットフォームという壁に囲まれた「ウォールドガーデン(壁に囲まれた庭)」の中に留まる傾向が強い。人々、特に若い世代は、何かを調べたいときにGoogleで検索するのではなく、まずTikTokやInstagramのアプリ内で検索するようになっている。
今回のGoogleの発言は、こうした現状を背景としている。Googleは現在、独占禁止法に関する厳しい追及を受けており、その裁判の中で自社の立場を弁護する必要があった。Google側の主張は、自社の検索サービスが直面している競争相手は、もはやMicrosoftのBingのような従来の検索エンジンだけではない、というものだ。むしろ、TikTokやAmazon、その他多くの専門アプリこそが、ユーザーが情報を探す際の強力な競合相手になっていると主張している。そして、その主張を裏付けるために、「人々が情報を探す主戦場であったオープンなウェブは衰退し、情報がクローズドなプラットフォームへ移行している」という事実を、自ら認めざるを得なかったのである。
この発言は、オープンなウェブの最大の受益者であり、その守護者と見なされてきたGoogleが、自らその衰退を認めたという点で非常に象徴的だ。Googleのビジネスは、世界中のウェブサイトをクロールし、インデックスを作成することで成り立っている。その土台であるオープンなウェブが縮小すれば、Google検索の価値も相対的に低下しかねない。一方で、Google自身もYouTubeやAndroid OS、Google Playストアといった巨大なプラットフォームを運営し、ユーザーを自社のエコシステム内に留めようとしている側面も持つ。つまり、Googleはオープンなウェブの衰退を嘆きながらも、自らもその流れを加速させる一因となっているという、複雑な立場に置かれている。
この変化は、これからシステムエンジニアを目指す人々にとっても無視できない。従来、ウェブ技術といえばHTML、CSS、JavaScriptを学び、ウェブサイトやウェブアプリケーションを構築することが中心だった。しかし、これからはそれだけでは不十分になる可能性がある。人々が情報を消費する場所が多様化しているため、開発者もウェブサイトという枠組みだけでなく、各種SNSプラットフォームやモバイルアプリといった環境で、いかに情報を届け、サービスを提供するかを考えなければならない。例えば、外部のサービスとデータを連携させるためのAPI(Application Programming Interface)に関する知識はますます重要になるだろう。また、特定のプラットフォーム上で効果的にコンテンツを配信する技術や、膨大なデータを分析してユーザーの動向を理解するスキルも求められるようになる。インターネットの構造が静的なものではなく、常に変化し続けているという事実を理解し、新しい技術やトレンドを柔軟に学び続ける姿勢が、これからのエンジニアには不可欠となるだろう。