【ITニュース解説】Incident Report for Anthropic

2025年09月09日に「Reddit /r/programming」が公開したITニュース「Incident Report for Anthropic」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

AI開発企業Anthropicのサービス「Claude」で、APIとWebサイトに遅延やエラーが発生する障害が起きた。原因は最近導入したプログラムがシステムに過負荷をかけたため。プログラムを元に戻す対応で約2時間後に復旧した。

出典: Incident Report for Anthropic | Reddit /r/programming公開日:

ITニュース解説

2024年5月28日、AI開発企業であるAnthropic社が提供する対話型AIサービス「Claude」において、大規模なシステム障害が発生した。この障害により、開発者向けのAPIと一般ユーザー向けのWebサイト「claude.ai」の両方で、応答が著しく遅延したり、エラーが頻発したりする事態となった。同社は障害発生後、その原因と対応策を詳述したインシデントレポートを公開した。このレポートは、現代の複雑なWebシステムが抱える課題や、システムエンジニアが直面する現実的な問題を知る上で、非常に示唆に富む内容となっている。

障害の根本的な原因は、ある中核システムに対して行われた一つの「設定変更」であった。システム開発において、機能改善やパフォーマンス向上のために設定変更は日常的に行われる。しかし、今回のケースでは、この変更が予期せぬ副作用を引き起こした。具体的には、その設定変更が、別のシステムで稼働していた「キャッシュ」の動作に悪影響を及ぼしたのである。キャッシュとは、一度アクセスしたデータや計算結果を高速なメモリ上に一時的に保存しておく仕組みのことだ。これにより、毎回低速なデータベースへ問い合わせる必要がなくなり、システムの応答速度を大幅に向上させることができる。多くのWebサービスにとって、キャッシュはパフォーマンスを維持するための生命線とも言える重要な技術である。

今回の障害では、設定変更の影響でこのキャッシュが意図通りに機能しなくなり、その効率が著しく低下した。その結果、本来であればキャッシュで処理されるはずだった大量のリクエストが、防波堤を失ったかのように、後段のデータベースに直接送り込まれることになった。データベースは、アプリケーションの根幹となるデータを永続的に保存・管理する重要なコンポーネントであるが、一度に処理できるリクエストの量には限界がある。想定をはるかに超える負荷がデータベースに集中したため、データベースは過負荷状態に陥り、リクエストへの応答が極端に遅くなったり、処理しきれずにエラーを返したりするようになった。このデータベースの不調が、それに依存するClaude APIやWebサイト全体のサービス停止という形で現れたのである。一つの小さな変更が、システムの別の箇所に連鎖的な影響を及ぼし、最終的に大規模な障害へと発展した典型的な事例だ。

Anthropic社のエンジニアチームは、障害を検知すると直ちに調査を開始した。各種モニタリング情報からデータベースへの負荷が急増していることを突き止め、その原因を遡って調査した結果、問題の引き金となった設定変更を特定した。原因特定後、チームは迅速に対応策を実行した。最も確実で即効性のある対応は、原因となった変更を元に戻す「ロールバック」である。設定を障害発生前の状態に戻すことで、キャッシュシステムは正常な動作を取り戻し、データベースへの負荷は徐々に軽減された。その後、システム全体のパフォーマンスが安定したことを確認し、障害対応は完了となった。

この一連の出来事は、システムエンジニアを目指す者にとって多くの教訓を含んでいる。第一に、現代のシステムは多数のコンポーネントが相互に依存しあっており、一部分への変更が全体に予期せぬ影響を及ぼす可能性があるという点だ。特に、キャッシュのようなシステム全体のパフォーマンスに大きく関わる部分の挙動を正確に予測することは非常に難しい。第二に、キャッシュはパフォーマンスを向上させる強力な武器であると同時に、障害の発生源にもなりうる諸刃の剣であるということだ。キャッシュ戦略の設計やテストの重要性があらためて示された。そして第三に、変更管理プロセスの重要性である。どんな変更作業も、入念なテストと影響範囲の分析を行った上で、万が一問題が発生した際に即座に元に戻せるロールバック計画を準備しておくことが不可欠である。Anthropic社がインシデントレポートを詳細に公開したこと自体も、技術コミュニティ全体で知見を共有し、同様の障害を防ぐための貴重な貢献と言えるだろう。