【ITニュース解説】M5Stack LLM8850 モジュールを Raspberry Pi 5 で動かしてみた(LLM編)
2025年10月05日に「Qiita」が公開したITニュース「M5Stack LLM8850 モジュールを Raspberry Pi 5 で動かしてみた(LLM編)」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
M5Stack LLM8850モジュールとRaspberry Pi 5を組み合わせ、AXERA社のAX8850チップでLLM(大規模言語モデル)を動かす実験を紹介する。小型デバイス上でAI処理を実現する具体的な方法が解説されている。
ITニュース解説
今回解説する技術は、M5Stack LLM8850モジュールというAI処理に特化したハードウェアと、広く使われている小型コンピュータであるRaspberry Pi 5(ラズベリーパイ5)を組み合わせ、大規模言語モデル(LLM)と呼ばれるAIを動かす試みである。この試みは、エッジデバイスと呼ばれる小型の機器上で、高度なAI処理を効率的に実行することを目指している。
M5Stack LLM8850モジュールは、AIの推論処理、特にLLMの実行に特化して設計されたM5Stackシリーズの製品だ。その心臓部には、AXERA社が開発した「AX8850」という高性能なチップが搭載されている。AX8850は「SoC(System on a Chip)」と呼ばれる種類のチップで、CPU(中央演算処理装置)やメモリ、そしてAIの計算を高速に実行するための「NPU(Neural Processing Unit)」など、コンピュータシステムに必要な多くの機能を一つの小さなチップに集約している。NPUは、AIが学習したデータを使って新しい情報から答えを導き出す「推論」と呼ばれる処理を、一般的なCPUよりもはるかに少ない電力で、かつ迅速に実行できるように最適化されているのが特徴だ。LLM8850モジュールは、このNPUを内蔵するAX8850チップと、AIモデルのデータを一時的に保持するための1GBのLPDDR4メモリを搭載しており、これによりLLMのようなデータ量の多い複雑なAIモデルも効率的に扱えるようになっている。このモジュールは、USBケーブルを介してホストコンピュータであるRaspberry Pi 5に接続され、Raspberry Pi 5の負担を減らし、AI処理を専門的に加速させる「AIアクセラレーター」として機能する。つまり、重いAIの計算を、メインのコンピュータではなく、この専用モジュールに「オフロード」することで、システム全体の性能を向上させるというわけだ。
一方、Raspberry Pi 5は、小型で手軽に入手できるシングルボードコンピュータであり、教育からIoTデバイス、さらにはプロトタイピングまで、幅広い用途で利用されている。今回のケースでは、M5Stack LLM8850モジュールのホスト(制御役)として機能し、モジュールへの電力供給やデータのやり取り、そしてユーザーからの命令を受け付けてAIの推論を開始する役割を担う。Raspberry Pi 5単体でもLLMを実行することは可能だが、その処理能力には限界があり、特に大規模なモデルでは動作が非常に遅くなるか、メモリ不足で実行できない場合がある。そこで、LLM8850モジュールのAIアクセラレーターとしての能力が活きてくるのだ。
このシステムでLLMを動かすためには、まず開発環境の準備が必要だ。具体的には、AXERA社が提供する「SDK(Software Development Kit)」をRaspberry Pi 5に導入する。SDKには、AX8850チップのNPUを制御するためのドライバやライブラリ、AIモデルを扱ったり推論を実行したりするためのツールが含まれている。これらのソフトウェアを正しくセットアップすることで、Raspberry Pi 5がLLM8850モジュールと連携し、AI処理を指示できるようになる。次に、実行したいLLMのモデルデータを用意する。記事では、Llama2-7B-ChatやMistral-7B-Instructといった、現在広く使われている大規模言語モデルが例として挙げられている。これらのモデルデータは非常に大きいため、今回はSDカードに保存し、それをLLM8850モジュールが読み込む形で利用した。
環境構築とモデルの準備が整ったら、いよいよLLMの推論を実行する。記事では、SDKに含まれるax_llm_runというツールを使って、LLM8850モジュール上でLLMを動作させた。このツールは、指定されたLLMモデルをロードし、ユーザーからの入力(プロンプト)を受け付けて、AI推論を実行する。推論の結果、LLMは入力されたテキストに基づいて適切な文章を生成し、それをRaspberry Pi 5を通してユーザーに表示する。この一連の流れの中で、実際の計算はLLM8850モジュールのNPUが行うため、Raspberry Pi 5のCPUは比較的軽負荷な状態でいられる。
この試みにおける最大の成果は、LLM8850モジュールを活用することで、Raspberry Pi 5単体でLLMを実行する場合と比較して、推論速度が大幅に向上した点である。具体的な数値として、約10倍から数十倍の速度向上が報告されており、これはエッジデバイス上でLLMを実用的な速度で動かす上で非常に重要な進歩と言える。推論速度の向上は、ユーザー体験の改善に直結し、よりリアルタイムに近い応答が期待できるようになる。高性能なAI処理が可能なため、発熱量も無視できない要素となる。記事ではモジュールから熱が発生することが示されており、安定した動作のためには冷却対策が重要である可能性も示唆された。
このように、M5Stack LLM8850モジュールとRaspberry Pi 5の組み合わせは、これまでクラウド上の大規模なサーバーでしか難しかったLLMの処理を、消費電力の少ない小型デバイス上で実現する「エッジAI」の可能性を大きく広げるものだ。これにより、インターネット接続がない環境でもAIが利用できたり、ユーザーのプライバシー保護を強化しながらAI処理を行ったり、あるいは通信コストを削減したりといった様々なメリットが期待できる。システムエンジニアを目指す初心者にとって、このようなハードウェアとソフトウェアが連携して高度な機能を実現する事例は、AI技術がどのように具体的な製品やサービスに組み込まれていくのかを理解する上で、非常に良い学びの機会となるだろう。