【ITニュース解説】Qwen3 30B A3B Hits 13 token/s on 4xRaspberry Pi 5
2025年09月06日に「Hacker News」が公開したITニュース「Qwen3 30B A3B Hits 13 token/s on 4xRaspberry Pi 5」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
Qwen3 30B A3BというAIモデルを、4台の小型コンピューター「Raspberry Pi 5」で動かし、秒間13トークンという速度を達成した。これは、安価なデバイスで高性能なAIを動かす技術の進展を示す。
ITニュース解説
このニュースは、これまで高性能なコンピュータ環境が必須と考えられていた大規模言語モデル(LLM)を、小型で安価なコンピュータであるRaspberry Pi 5を複数台組み合わせることで、実際に動作させることに成功したという画期的な進展を伝えている。具体的には、Alibaba Cloudが開発した「Qwen3」というLLMの300億パラメータ版、通称「Qwen3 30B」を、4台のRaspberry Pi 5上で1秒間に13トークンという速度で推論できるようになったという内容だ。
まず、大規模言語モデル(LLM)とは何かを説明する。これは、人間が使う言葉を理解し、自然な文章を生成する能力を持つ人工知能の一種である。インターネット上の膨大なテキストデータを学習することで、質問応答、文章作成、要約、翻訳など、多岐にわたる言語処理タスクをこなせるようになる。Qwen3 30Bの「30B」という部分は、モデルが持つ「パラメータ」の数を指す。パラメータとは、モデルが学習を通じて調整する内部的な数値のことで、これが多ければ多いほど、モデルはより複雑な情報やパターンを学習できるようになり、一般的にその「賢さ」や「能力」が高まると考えられている。300億というパラメータ数は非常に大きく、通常はNVIDIAの高性能GPUを搭載したサーバーなど、非常に強力な計算資源と大容量のメモリが求められる。
次に、Raspberry Pi 5についてだ。これは、手のひらサイズの小さな基板にCPU、メモリ、入出力ポートなどの基本的なコンピュータ部品が搭載されたもので、数千円から一万円台という非常に安価な価格で手に入る。消費電力も少なく、教育用、趣味の電子工作、組み込みシステムなど、様々な用途で広く利用されている。しかし、その性能は一般的なデスクトップPCやサーバーには遠く及ばず、特にLLMのような膨大な計算能力とメモリを必要とするアプリケーションの実行には不向きだとされてきた。Qwen3 30Bのような大規模モデルを実行するには、数十ギガバイト単位のメモリが必要となるが、Raspberry Pi 5のメモリは最大でも8GBと限られているため、単体で動かすことはほぼ不可能だった。
そこで今回の成功の鍵となるのが、「分散処理」という技術だ。これは、一つの大きなタスクを複数の小さなタスクに分割し、それを複数のコンピュータで分担して処理する手法である。今回のケースでは、4台のRaspberry Pi 5をネットワークで接続し、Qwen3 30Bモデルの各部分をそれぞれのPiに割り当てることで、協力して推論を実行した。これにより、個々のRaspberry Pi 5が持つメモリや計算能力の限界を補い合い、全体としてより大規模なモデルを扱えるようになる。ちょうど、重い荷物を一人で運ぶのが難しいときに、複数人で分担して運ぶようなイメージだ。各Piがモデルの一部を保持し、推論の過程で必要な情報を互いにやり取りしながら処理を進めることで、全体の処理を可能にしている。
さらに、このような小型デバイスでLLMを動かすためには、「量子化」という技術が不可欠である。「A3B」という表記が具体的な量子化手法を指している可能性もあるが、一般的に量子化とは、LLMのパラメータが持つ数値の精度を落とすことで、モデルのファイルサイズを小さくし、メモリ消費量と計算量を削減する技術を指す。例えば、もともと64ビットや32ビットで表現されていた数値を、8ビットや4ビット、あるいはさらに低いビット数に変換することで、データ量を大幅に圧縮する。これにより、メモリ容量が限られたRaspberry Pi 5のようなデバイスでも、大規模なモデルをメモリに読み込み、実行できるようになる。精度を落とすことでモデルの性能がわずかに低下する可能性はあるものの、多くの場合、実用上問題ないレベルに収まるように工夫が凝らされている。
そして、推論速度の「13トークン/秒」について解説する。LLMがテキストを生成する際、単語や句読点といった意味の最小単位を「トークン」と呼ぶ。13トークン/秒とは、1秒間に13個のトークンを生成できる速度を意味する。例えば、一般的な英単語が1〜2トークン程度、日本語のひらがな一文字が1トークン程度に相当する場合が多い。この速度は、非常に高速なリアルタイム対話アプリケーションには十分とは言えないかもしれない。人間が瞬時に応答を返すような速度(例えば、ChatGPTのような応答速度)と比較すると、少し遅く感じることもあるだろう。しかし、オフラインでの文書生成や、ある程度の待ち時間を許容できるアプリケーションであれば、十分に実用的な速度であると言える。特に、これほど小型で安価なデバイスの組み合わせで実現できたことを考えれば、驚くべき技術的成果だ。
この成果が持つ意義は非常に大きい。これまでLLMの利用は、高性能なGPUや大規模なクラウドサービスといった高価なインフラに限定される傾向にあった。しかし、Raspberry Pi 5のような安価なエッジデバイスでLLMが動作するということは、より多くの人がLLMを手軽に利用できるようになる可能性を示している。これは「LLMの民主化」とも呼ばれる現象の一例だ。例えば、工場や農場、災害現場など、インターネット接続が不安定な場所や、厳格なデータプライバシーが求められる環境でも、LLMを搭載した小型デバイスが独自の判断や処理を行えるようになる。将来的には、スマート家電やロボット、IoTデバイスといった身近な機器にLLMが搭載され、より高度な知能を持つようになる道を開くものだ。この技術は、LLMの応用範囲を劇的に広げ、私たちの日常生活や産業のあり方に大きな変革をもたらす可能性を秘めていると言える。まだ発展途上の技術ではあるが、今回のRaspberry Pi 5による分散型LLM実行の成功は、その実現に向けた非常に重要なマイルストーンとなるだろう。