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【ITニュース解説】The madness of SaaS chargebacks

2025年09月15日に「Hacker News」が公開したITニュース「The madness of SaaS chargebacks」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

SaaS事業では、顧客がカード会社に支払いを拒否するチャージバックが発生すると、少額の取引でもシステム運用側に追加手数料や事務コストがかかり、大きな損失となる場合がある。この不合理な仕組みが課題だ。

出典: The madness of SaaS chargebacks | Hacker News公開日:

ITニュース解説

SaaS(Software as a Service)という言葉を聞いたことがあるだろうか。これは、ソフトウェアをインターネットを通じて提供するサービス形態のことだ。皆さんが普段使っているWebメールやオンラインストレージ、ビジネス向けのCRM(顧客関係管理)ツールなどもSaaSの一種である。従来のソフトウェア購入と異なり、利用者はソフトウェアを自分のパソコンにインストールすることなく、月額や年額の料金を支払って利用する。インターネット環境さえあればどこからでもアクセスできる手軽さや、常に最新機能が利用できる点が大きなメリットだ。

しかし、このSaaSビジネスには「チャージバック」という、一見すると地味ながらも非常に厄介な問題が潜んでいる。チャージバックとは、クレジットカード決済において、カード所有者が利用明細に記載された支払いに納得できない、あるいは身に覚えがないとして、カード会社に支払いを取り消してもらう手続きのことを指す。例えば、サービス内容に不満があった、不正利用された疑いがある、誤って二重に決済された、といった場合に顧客はカード会社に連絡し、チャージバックを要求する。

カード会社は顧客からのチャージバック要求を受け付けると、まずその取引を一時的に無効化し、SaaS企業などの加盟店から支払われた代金を回収する。SaaS企業側は、チャージバックが発生したことをカード会社から通知され、その取引が正当なものだったかどうかを証明するための証拠を提出するよう求められる。このプロセスは「異議申し立て」と呼ばれ、通常、SaaS企業はサービスの利用履歴やログイン情報、IPアドレスなどの記録を収集し、カード会社に提示して自社の正当性を主張する。しかし、この異議申し立てが成功する保証はない。顧客の主張が受け入れられれば、SaaS企業は売上を取り消されるだけでなく、さらに高額なチャージバック手数料をカード会社に支払わなければならない。

記事では、わずか10ドルのサービス利用料が、SaaS企業にとって43.95ドルものコストになった具体例が挙げられている。これは、売上である10ドルを失うだけでなく、チャージバック手数料、不正検出システムの利用料、そしてその問題解決のために費やした人件費や時間など、目に見えない多くのコストが積み重なった結果だ。このような事態は、SaaS企業にとって大きな痛手となる。特に、月額数百円から数千円といった比較的安価なサービスを提供している場合、一件あたりの利益率が低いため、一つのチャージバックが売上を大きく上回る損失となることも珍しくない。

チャージバックによる損失は、金銭的なものだけではない。チャージバックが発生すると、その解決のために担当者が対応に追われ、本来の業務が滞る。また、チャージバックの発生頻度が高いと、カード会社から「リスクの高い加盟店」と見なされ、利用できる決済手段が制限されたり、場合によっては契約を打ち切られたりする可能性もある。これは、企業の信頼性やブランドイメージにも悪影響を及ぼし、将来の顧客獲得にも影響する可能性がある。

システムエンジニアを目指す皆さんにとって、このようなチャージバックの問題は、単なるビジネス上の課題として捉えるだけでなく、システムの設計や運用において非常に重要な要素であることを理解しておく必要がある。SaaS企業はチャージバックを防ぐために様々な対策を講じているが、それらの多くはシステムによって支えられている。

例えば、クレジットカードの不正利用を防ぐための「3Dセキュア」のような強力な本人認証システムの導入は、決済時に追加のパスワード入力や生体認証を求めることで、不正な取引を大幅に減らす効果がある。しかし、導入には決済システムの改修が必要となる。また、不正利用パターンを検出する「不正検知システム」の導入も重要だ。これは、過去の不正取引データや機械学習アルゴリズムを用いて、怪しい取引をリアルタイムで識別し、決済を停止したり、追加認証を求めたりするものだ。これらのシステムは、高度なデータ分析とセキュリティ技術に基づいているため、その設計、開発、運用にはシステムエンジニアの専門知識が不可欠となる。

さらに、ユーザーがチャージバックを申請する前に問題を解決できるよう、優れたカスタマーサポート体制を構築することも重要だ。顧客が不満を抱いた際に、迅速かつ的確に対応できるシステムやツールを提供することで、チャージバックに至る前の段階で問題を解消できる可能性が高まる。具体的には、問い合わせ管理システム、FAQシステム、チャットボットなどの開発や導入が挙げられる。

SaaSのビジネスモデルは、少額のサービスを多くの顧客に提供することで収益を上げるため、チャージバックの発生率はたとえわずかであっても、その影響は決して小さくない。新規顧客を獲得するためのマーケティング費用も高騰している現代において、せっかく獲得した顧客からの売上がチャージバックによって損失に転じることは、企業経営にとって大きな脅威となる。

システムエンジニアの仕事は、単にコードを書くことだけではない。ビジネスの課題を理解し、それを技術で解決する能力が求められる。チャージバックの問題は、決済システム、セキュリティシステム、顧客管理システム、さらにはビジネス分析ツールなど、SaaSのあらゆる側面に関わってくる。将来、SaaS企業で働く機会があったり、自身でSaaSサービスを開発したりする際には、チャージバックのリスクとその対策について深く理解し、それらを考慮に入れた堅牢なシステムを構築することが求められるだろう。ユーザーにとって安全で、企業にとって持続可能なサービスを提供するためには、このような地道な努力が不可欠なのである。

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