Webエンジニア向けプログラミング解説動画をYouTubeで配信中!
▶ チャンネル登録はこちら

【ITニュース解説】Learning the soroban as an adult (2022)

2025年09月06日に「Hacker News」が公開したITニュース「Learning the soroban as an adult (2022)」について初心者にもわかりやすく解説しています。

作成日: 更新日:

ITニュース概要

大人がそろばんを学ぶ体験談。暗算力や集中力を高める効果に加え、数を物理的なビーズで操作する仕組みは、コンピュータのレジスタや二進法の概念理解に通じる。抽象的な計算のメンタルモデル構築に役立つと紹介。

出典: Learning the soroban as an adult (2022) | Hacker News公開日:

ITニュース解説

現代のプログラマーやエンジニアが、伝統的な計算道具である「そろばん」の学習に注目している。デジタル技術が浸透した現代において、なぜこのアナログなツールが再び価値を見出されているのか。その背景には、そろばんが持つ構造と操作方法が、コンピュータサイエンスの根源的な概念と深く結びついているという事実がある。大人になってからそろばんを学ぶプログラマーの経験は、システムエンジニアを目指す者にとって、技術の根底にある思考法を理解する上で重要な示唆を与えてくれる。

まず、そろばんの仕組みそのものが、コンピュータにおけるデータの表現方法と類似している点は注目に値する。そろばんの一つの桁は、上段にある一つの珠(五珠)と、下段にある四つの珠(一珠)で構成されている。五珠は「5」を表し、一珠はそれぞれ「1」を表す。これらの珠の組み合わせによって、0から9までの数字を表現する。例えば、「7」を表現する場合、五珠を一つ下げ、一珠を二つ上げる。この構造は、限られた物理的要素で効率的に情報を表現する仕組みであり、コンピュータのデータ表現に通じるものがある。コンピュータ内部では、すべての情報が0と1の羅列である2進数で処理されるが、特定の応用、例えば金融計算などでは、10進数の各桁を4ビットの2進数で表現するBCD(2進化10進数)という方式が用いられることがある。そろばんが五珠と一珠を用いて10進数を表現する仕組みは、このBCDの発想と概念的に非常に近いと言える。つまり、そろばんの一桁は、コンピュータのメモリやレジスタの一区画が特定の値を保持している状態と見なすことができ、珠を動かす行為は、その状態を変化させる操作に他ならない。

次に、そろばんの計算プロセスは、アルゴリズム的思考の優れた訓練となる。そろばんで足し算や引き算を行う際には、定められた一連の手順に従って珠を正確に操作する必要がある。例えば、ある桁で足し算をした結果が10以上になる場合、「繰り上がり」という操作が発生する。この時、その桁の珠をリセットし、一つ上の桁の珠を一つ加えるというルールに従う。この一連の操作は、プログラミングにおける条件分岐(if文)と処理の逐次実行そのものである。「もし合計が10以上なら、この操作を行う」という判断と実行の連続が、計算を成り立たせている。この手順を体で覚えることは、抽象的なロジックを組み立て、問題を解決するための手順を体系的に考えるアルゴリズム的思考を養う上で非常に効果的である。プログラムのデバッグにおいて、処理の流れを一つ一つ追って問題箇所を特定する作業は、そろばんで計算の途中経過を確認し、間違いを修正するプロセスと本質的に同じ思考を要求される。

さらに、そろばん学習は、ハードウェアとソフトウェアの関係性を直感的に理解する助けとなる。そろばん本体は、計算という機能を実現するための物理的な装置、すなわち「ハードウェア」である。一方、計算を行うための手順やルールは、そのハードウェア上で実行される「ソフトウェア」や「アルゴリズム」と考えることができる。現代のエンジニアは、高度に抽象化されたプログラミング言語や開発環境の上で作業することが多く、コンピュータの物理的な動作を意識する機会は少ない。しかし、そろばんという物理的なデバイスを自分の手で操作し、決められたルールに従って計算を実行する経験は、ハードウェアという制約の上でいかにソフトウェアが機能するかという、コンピュータの最も基本的な動作原理を体感的に学ばせてくれる。この経験は、パフォーマンスの最適化や低レイヤーのシステム設計を考える際に、より深い洞察をもたらす可能性がある。

最後に、そろばんの学習を通じて得られる集中力や暗算能力の向上は、エンジニアとしての基礎体力を高める上で直接的な利益となる。そろばんの操作には高い集中力が求められ、継続的な練習は精神的な持久力を鍛える。また、練習を重ねるうちに、頭の中にそろばんの盤面をイメージして計算を行う「暗算(珠算式暗算)」が可能になる。この能力は、複雑なシステムの動作を頭の中でシミュレートしたり、複数のタスクを並行して管理したりする際に求められるワーキングメモリの強化に繋がる。デジタルツールに頼らず、自らの頭脳で数値を処理し、論理を組み立てる力は、問題解決の速度と質を向上させる上で不可欠なスキルである。

結論として、プログラマーがそろばんを学ぶという行為は、単なる懐古趣味や計算ドリルの域を超え、コンピュータサイエンスの核心に触れる知的探求である。データの表現方法、アルゴリズム的思考、ハードウェアとソフトウェアの関係性といった、システムエンジニアにとって必須の概念を、物理的な手触り感を持って学ぶことができる。このアナログなツールから得られる洞察は、デジタルな世界で活躍するための強固な思考の基盤を築く上で、計り知れない価値を持っていると言えるだろう。

関連コンテンツ