【ITニュース解説】Ubuntu 24.10(oracularの開発) / リリース前の最後の一週間、Confidential VM技術の展開
2024年10月04日に「Gihyo.jp」が公開したITニュース「Ubuntu 24.10(oracularの開発) / リリース前の最後の一週間、Confidential VM技術の展開」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
Linux OSの一種、Ubuntuの次期版24.10が間もなくリリースされる。現在はインストール用ファイルの作成や最終テストが行われている段階だ。データを暗号化して保護するConfidential VMという新しいセキュリティ技術も導入される。
ITニュース解説
オペレーティングシステム(OS)の一つであるUbuntuの最新バージョン、「Ubuntu 24.10」(開発コード名: Oracular Ocelot)のリリースが間近に迫っている。Ubuntuは半年ごとに新しいバージョンが公開される開発サイクルを持っており、今回の24.10は通常版に位置付けられる。ソフトウェア開発において、リリース直前の最終週は非常に重要な期間となる。この時期は「Final Freeze」と呼ばれ、OSの基本的な機能や含まれるソフトウェアのバージョンを固定し、これ以上の大きな変更は原則として行われなくなる。開発チームの主な作業は、バグの修正や、ユーザーがインストールするために使用する「ISOイメージ」の作成と最終テストに移行する。ISOイメージとは、OSのインストールに必要なすべてのファイルが一つにまとめられたもので、これを元にインストール用のUSBメモリなどを作成する。この最終段階で致命的な問題が発見されない限り、予定通りに全世界へ公開されることになる。
今回のUbuntu 24.10で注目されている技術の一つに、「Confidential VM(機密仮想マシン)」の本格的な展開がある。この技術を理解するためには、まず仮想化とクラウドコンピューティングの基本的な仕組みを知る必要がある。仮想化とは、一台の物理的なコンピュータ(サーバー)の上で、あたかも複数の独立したコンピュータがあるかのように見せかけ、それぞれで異なるOSやアプリケーションを動作させる技術である。この仮想的なコンピュータを仮想マシン(VM)と呼ぶ。Amazon Web Services (AWS) や Google Cloud Platform (GCP) といったクラウドサービスは、この仮想化技術を基盤としており、世界中のユーザーにコンピューティングリソースを提供している。
しかし、この仮想化環境にはセキュリティ上の課題が存在した。通常、VMが動作しているとき、そのデータはサーバーの物理メモリ上に展開される。このメモリ上のデータは、物理サーバーを管理する権限を持つクラウド事業者の管理者などからは、理論上アクセス可能であった。これは、非常に機密性の高い情報を扱う企業や組織にとって大きな懸念点となっていた。この問題を解決するのが「Confidential Computing(機密コンピューティング)」という考え方であり、その具体的な実現方法がConfidential VMである。
Confidential VMは、VMが動作している間、そのメモリ上のデータを常に暗号化し続ける技術だ。これにより、たとえ物理サーバーの管理者であっても、VMのメモリ内容を読み取ることは極めて困難になる。データはCPU内で処理される瞬間だけ復号され、処理が終わると即座に再び暗号化されてメモリに戻される。この一連の処理は、CPUに組み込まれた「TEE (Trusted Execution Environment)」と呼ばれる特殊なセキュリティ領域で行われる。この機能は、ハードウェアレベルで保護されているため、OSや他のソフトウェアからの干渉を受けない。代表的な技術として、AMD社の「SEV (Secure Encrypted Virtualization)」やIntel社の「TDX (Trust Domain Extensions)」がある。
Ubuntu 24.10では、OSとしてこれらのハードウェア技術を全面的にサポートし、ユーザーがConfidential VMを容易に作成・管理できる環境を整備した。これまでは専門的な知識や複雑な設定が必要だったが、UbuntuがOSレベルで対応したことにより、クラウド上や自社のデータセンターで、より手軽に高度なセキュリティを持つ仮想マシンを構築できるようになった。具体的には、AzureやGCPといった主要なパブリッククラウド上で、UbuntuをOSとして選択するだけでConfidential VMの機能を利用できるようになったほか、仮想マシンを管理するためのツールにおいても、Confidential VMを有効にするための設定が簡素化されている。これは、金融、医療、政府機関など、最高レベルのデータ保護が求められる分野において、クラウド利用の障壁を下げ、技術活用の幅を広げる重要な進歩である。システムエンジニアを目指す者にとって、このようなOSとハードウェアが連携して実現する先進的なセキュリティ技術の仕組みを理解しておくことは、今後のキャリアにおいて大きな強みとなるだろう。