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【ITニュース解説】After nearly half a century in deep space, every ping from Voyager 1 is a bonus

2025年09月09日に「Hacker News」が公開したITニュース「After nearly half a century in deep space, every ping from Voyager 1 is a bonus」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

打ち上げから約半世紀、探査機ボイジャー1号は今も太陽系外からデータを送信している。旧式のコンピュータと限られた電力で稼働するシステムの長期運用は、技術的な挑戦であり、得られるデータは全てが貴重である。

ITニュース解説

1977年に打ち上げられたNASAの宇宙探査機ボイジャー1号は、太陽系を脱出して星間空間を飛行し続けている人類史上最も遠くにある人工物である。打ち上げから半世紀近くが経過した現在、その設計寿命を遥かに超えて活動しており、探査機から地球に届く一つ一つの信号は、科学的にも技術的にも極めて貴重なものとなっている。この驚異的な長寿命は、未来のシステムエンジニアにとっても多くの学びを与えてくれる。

ボイジャー1号がこれほど長く稼働できている背景には、いくつかの重要な技術的要因が存在する。第一に、開発当初からの堅牢な設計思想が挙げられる。探査機は、極低温や強力な宇宙放射線といった過酷な宇宙環境に長期間耐えられるよう、信頼性の高い部品で構成されている。また、システムには冗長性が確保されている。これは「フォールトトレラント設計」と呼ばれる考え方で、主要なシステムに故障が発生した場合に備えて、バックアップのシステムがその機能を代替できるようになっている。この設計により、一部の部品が故障してもミッション全体が停止することを防いできた。第二に、動力源としてプルトニウムの放射性崩壊熱を利用する原子力電池(RTG)を搭載している点である。太陽光がほとんど届かない深宇宙では太陽光発電は利用できないため、このRTGが長期間にわたって安定した電力を供給し続けている。そして第三に、探査機を制御するソフトウェアの存在がある。約68キロバイトという、現代の基準では極めて小さいメモリ容量で動作するこのソフトウェアは、シンプルながら安定性が高く、さらに地球からコマンドを送ることで内容を更新することも可能である。これらの要素が組み合わさることで、ボイジャー1号は奇跡的な運用期間を実現している。

しかし、長年の運用により電子機器は劣化し、いつ重大な問題が発生してもおかしくない状態にあった。そして2023年11月、ボイジャー1号は実際に深刻な危機に直面した。探査機から送られてくるデータが、科学的観測データも探査機自身の状態を示す工学データも、すべて意味をなさないパターンに陥ってしまったのである。地球の管制チームは探査機との通信は確立できているものの、健全なデータを受け取ることができなくなった。問題解決をさらに困難にしたのは、その圧倒的な距離である。ボイジャー1号は地球から約240億キロメートル離れており、光の速さでも信号が片道で届くのに22.5時間以上かかる。つまり、コマンドを一つ送信し、その結果を確認するまでに2日近くを要する。この極端な通信遅延と限られた通信帯域の中で、エンジニアたちは手探りで原因究明にあたることになった。

調査の結果、問題の原因は探査機に搭載された3台のコンピューターのうちの1台、「フライト・データ・サブシステム(FDS)」にあることが突き止められた。FDSは、各観測機器からの科学データや探査機の状態に関するデータを集約し、地球に送信するための単一のデータパッケージにまとめる重要な役割を担っている。システム工学の観点から見れば、データ収集、整形、伝送を担う中核的なサブシステムだ。そのFDSのメモリチップの一部が、長年の宇宙線被曝などによって物理的に破損し、保存されていたプログラムコードの一部が壊れてしまったことが、今回の異常の根本原因であった。

物理的に修理することが不可能な状況で、NASAのエンジニアチームは極めて創造的なソフトウェアによる解決策を考案した。まず、破損したメモリチップのアドレスを特定し、その領域を使わないようにする必要があった。彼らは、FDSのメモリ全体の内容を地球に送信させる「メモリダンプ」という手法で状態を把握し、破損箇所を正確に突き止めた。次に、破損したメモリに格納されていたプログラムコードを、FDS内の他の正常なメモリ領域に分散して配置し直すという、ソフトウェアのパッチを開発した。これは、一つの大きなプログラムを複数の小さな断片に分割し、空いているスペースにパズルのように配置し直す作業に似ている。この巧妙な「ワークアラウンド(回避策)」により、破損したハードウェアを避けつつ、ソフトウェアの機能全体を維持することに成功した。2024年4月、この修正コードがボイジャー1号に送信され、適用された結果、探査機の状態を示す工学データの受信が正常に再開された。さらに5月には、科学データの受信も再開し、ボイジャー1号は5ヶ月ぶりに完全な復活を遂げた。この一連の作業は、限られたリソースと極端な制約下で、いかにしてレガシーシステムを維持し、問題を解決するかという、システムエンジニアリングの真髄を示す好例となった。

このように、ボイジャー1号から現在送られてくるすべてのデータは、まさに「ボーナス」と呼ぶにふさわしい。それは、人類が初めて直接観測する星間空間の貴重な科学データであると同時に、何十年も前の技術で構築されたシステムを、現代のエンジニアたちの知恵と粘り強さで維持し続けるという、技術的な偉業の証でもあるのだ。

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