【ITニュース解説】在 WebAssembly 中使用 SIMD(二)

2025年09月09日に「Dev.to」が公開したITニュース「在 WebAssembly 中使用 SIMD(二)」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

WebAssemblyでC言語コードを高速化するSIMD技術を紹介。コンパイラemscriptenのオプション指定だけで、既存コードを自動でSIMD対応に変換可能。SIMDは複数のデータを一度に処理する並列化技術で、画像処理のような重い計算のパフォーマンスを大幅に向上させる。

出典: 在 WebAssembly 中使用 SIMD(二) | Dev.to公開日:

ITニュース解説

Webブラウザ上で高速なアプリケーションを実現する技術として、WebAssembly(Wasm)が注目されている。これは、C/C++やRustといったプログラミング言語で書かれたソースコードを、Webブラウザが直接実行できる形式にコンパイルする技術である。ネイティブアプリケーションに近いパフォーマンスをWeb上で実現できるため、ゲームや動画編集、画像処理といった高い処理能力が求められる分野で活用が進んでいる。

このWebAssemblyのパフォーマンスをさらに引き出すための重要な技術が「SIMD(Single Instruction, Multiple Data)」である。SIMDとは、直訳すると「単一命令、複数データ」となり、一つの命令で複数のデータに対して同じ演算を同時に実行する並列処理技術の一種だ。例えば、4つの数値それぞれに10を加えるという計算を行う場合、通常の処理(逐次処理)では「A+10」「B+10」「C+10」「D+10」と4回の足し算命令が必要になる。しかし、SIMDを利用すると、これら4つの足し算を一度の命令で完了させることができる。これにより、大量のデータを一括で処理する際の速度が劇的に向上する。特に、画像処理のように、何百万ものピクセルデータに対して同じ計算を繰り返すようなタスクでは、SIMDの有無がパフォーマンスに大きな影響を与える。

C言語で書かれたプログラムをWebAssemblyにコンパイルする際、このSIMD技術を活用するには主に二つの方法がある。一つ目は、コンパイラの「自動ベクトル化」機能を利用する方法だ。これは、emscriptenというコンパイラツールに特定のオプション(-msimd128)を指定するだけで、コンパイラがソースコードを解析し、SIMDで並列化できる部分を自動的に判断して、SIMD命令を使ったコードに変換してくれる機能である。プログラマはSIMDを意識した特別なコードを書く必要がなく、手軽にパフォーマンス向上の恩恵を受けられる。

二つ目は、プログラマがコード内で明示的にSIMD命令を使用する方法だ。emscriptenは、C言語のコード内で直接SIMDの機能を使えるように、専用のデータ型(v128_tなど)や関数(wasm_v128_loadなど)を提供している。これらを使うことで、プログラマはどのデータをどのように並列処理するかを細かく制御できる。

では、この「自動」と「手動」の方法では、どちらがより高いパフォーマンスを発揮するのだろうか。元のニュース記事では、画像の各ピクセルの色を反転させる処理を例に、その性能を比較している。実験の結果、SIMDを使わない場合に比べて、自動ベクトル化を使っただけでも大幅な高速化が確認された。しかし、手動でSIMD命令を記述し、処理内容に合わせてアルゴリズムを最適化したコードは、自動ベクトル化されたコードよりもさらに高速に動作した。

この性能差が生まれた理由は、アルゴリズムの違いにある。コンパイラによる自動ベクトル化は、様々な状況に対応できるよう、安全で汎用的な方法でコードを変換する傾向がある。今回の画像処理の例では、コンパイラは各ピクセルのRGBA(赤・緑・青・透明度)データから、R、G、Bの各色データを一度別々のグループにまとめ、それぞれを反転処理するという、やや回り道な手順を生成した。

一方で、手動で実装したコードでは、より効率的なアルゴリズムが採用された。具体的には、まずRGBAの4つの値をまとめて一度に反転処理を行う。この時点では、本来変更すべきでないA(透明度)の値まで反転してしまう。そこで次に、「マスク」と呼ばれる技術を使い、Aの値だけを元の値に戻すという処理を追加した。一見すると手順が増えているように見えるが、データ全体の移動が少ないため、結果としてこちらの方が高速な処理となった。

この事例からわかるように、コンパイラの自動最適化機能は非常に強力で手軽な手段だが、常に最高のパフォーマンスを引き出せるとは限らない。処理の特性を深く理解しているプログラマが、その知識を活かしてアルゴリズムを設計し、手動でSIMD命令を記述することで、機械的な最適化の限界を超えることができる。

結論として、WebAssemblyで高いパフォーマンスが求められるアプリケーションを開発する上で、SIMDは不可欠な技術である。そして、その性能を最大限に引き出すためには、単にコンパイラに任せるだけでなく、SIMDの仕組みやデータ処理の特性を理解し、最適なアルゴリズムを自ら選択・実装する能力が重要となる。これは、システムエンジニアを目指す者にとって、コードがコンピュータ上でどのように実行されるかを深く理解し、より効率的なプログラムを追求する上で非常に価値のある教訓と言えるだろう。

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