IPマルチキャスト(アイピーマルチキャスト)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
IPマルチキャスト(アイピーマルチキャスト)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
IPマルチキャスト (アイピーマルチキャスト)
英語表記
IP Multicast (アイピーマルチキャスト)
用語解説
IPマルチキャストは、IPネットワークにおけるデータ通信方式の一つであり、特定のグループに属する複数の受信者に対して、一度の送信操作で同時にデータを配信する技術である。これは「一対特定の多」の通信と表現される。ネットワーク上の通信方式には、他に一対一で通信するユニキャストと、同じネットワーク内の不特定多数の全端末に通信するブロードキャストが存在する。IPマルチキャストは、これらの中間に位置付けられる。例えば、ライブ映像配信や株価情報のリアルタイム配信のように、同じ情報を同時に多くの特定のユーザーへ届けたい場合に極めて効率的な通信を実現する。送信者はデータを一度ネットワークに送出するだけでよく、ネットワーク内のルーターが必要に応じてデータを複製し、受信を希望している端末にのみ届ける。これにより、送信元のサーバー負荷やネットワーク全体の帯域消費を大幅に削減できるという大きな利点がある。
IPマルチキャストの仕組みを理解するためには、ユニキャストとブロードキャストとの比較が有効である。ユニキャスト通信では、送信者は受信者一人ひとりに対して個別にデータを送信する。受信者が100人いれば、送信者は100回同じデータを送信する必要があり、受信者の数に比例して送信者の負荷とネットワーク帯域が増大する。一方、ブロードキャスト通信は、同じネットワークセグメント内の全ての端末にデータを送信するため、送信者は一度データを送るだけでよい。しかし、その情報に関心のない端末にもデータが届いてしまい、不要なトラフィックを発生させるとともに、受信した端末側で不要なデータを破棄する処理負荷がかかる。また、ブロードキャストは通常、ルーターを越えて他のネットワークに転送されることはない。IPマルチキャストは、これらの課題を解決する。特定の情報に関心を持つ受信者だけで構成される「マルチキャストグループ」を形成し、そのグループ宛にデータを送信する。データは送信元から一度だけ送出され、途中のルーターが受信者のいるネットワーク方向へデータを複製・転送する。これにより、ユニキャストのように送信者の負荷が増大することなく、またブロードキャストのように無関係な端末にまでデータを送ることなく、効率的に特定の多数へ情報を届けることが可能となる。
IPマルチキャストを実現するためには、いくつかの重要な技術要素が連携して機能する。まず、マルチキャストグループを識別するために、特別なIPアドレスである「マルチキャストアドレス」が用いられる。これは、IPv4では224.0.0.0から239.255.255.255までのクラスDアドレスが割り当てられている。送信者は、この特定のマルチキャストアドレスを宛先としてデータを送信する。次に、受信者がどのマルチキャストグループのデータを受け取りたいかをネットワークに伝えるためのプロトコルとして、IGMP (Internet Group Management Protocol) が存在する。受信したい端末は、IGMPを用いて自身の属するネットワークの最も近いルーターに対し、「このマルチキャストグループに参加したい」という意思表示を行う。ルーターはこの情報を基に、どのマルチキャストのデータを自身の管理するネットワーク内に流すべきかを判断する。逆に、受信を停止したい場合もIGMPを通じてルーターに通知される。つまり、IGMPは受信者端末とルーターとの間で、グループへの参加・離脱を管理する役割を担っている。
さらに、ルーター同士が連携して、送信者から受信者のいるネットワークまでデータの通り道を構築するための仕組みとして、「マルチキャストルーティングプロトコル」が必要である。このプロトコルの中で現在最も広く利用されているのがPIM (Protocol Independent Multicast) である。PIMは、ルーター間でマルチキャストの経路情報を交換し、送信元から受信者グループまでの最適な配送経路網、いわゆる「マルチキャストツリー」を形成する。このツリーに沿ってデータが転送されるため、受信者のいない無関係な経路にデータが流れることはない。PIMには、受信者がネットワーク内に密集していることを想定したPIM-DM (Dense Mode) と、受信者が広範囲に分散していることを想定したPIM-SM (Sparse Mode) があるが、拡張性の高さから、現在ではPIM-SMが主流となっている。このように、マルチキャストアドレス、IGMP、そしてPIMという三つの要素が協調して動作することで、IPマルチキャストによる効率的な一対多の通信が実現される。
IPマルチキャストは、ネットワーク帯域を効率的に利用できるため、高品質な映像のライブストリーミング、多人数が参加するオンラインゲーム、金融機関における市場データのリアルタイム配信、企業内でのOSイメージの一斉配信など、リアルタイム性と広帯域を要求されるアプリケーションにおいて非常に有効である。しかし、その利用は主に企業内ネットワークや通信事業者の閉域網などに限定されることが多い。その理由として、IPマルチキャストを利用するためには、経路上にある全てのルーターやスイッチがマルチキャストに対応し、かつ適切に設定されている必要があるため、一般的なインターネット環境全体でこれを実現するのは困難であることが挙げられる。また、通信の信頼性を保証するTCPとは異なり、主にUDP上で利用されるため、データの到達保証や順序保証が必要な場合は、アプリケーション層で別途実装する必要があるという課題も存在する。これらの特性を理解し、適用する場面を適切に選択することが、IPマルチキャスト技術を有効に活用する上で重要となる。