遠隔バックアップ(エンカクバックアップ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
遠隔バックアップ(エンカクバックアップ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
遠隔バックアップ (エンカクバックアップ)
英語表記
remote backup (リモートバックアップ)
用語解説
遠隔バックアップとは、システムやデータの重要な複製を、本番環境が存在する場所とは地理的に離れた別の場所に保管するデータ保護手法である。これは、万一本番環境に大規模な障害や災害が発生した場合でも、データの損失を防ぎ、事業の継続性を確保することを主な目的としている。地震、火災、洪水といった自然災害、大規模な停電、あるいはランサムウェア攻撃のようなサイバー攻撃によって本番環境が完全に破壊されたり、アクセス不能になったりするリスクに備えるための極めて重要な対策の一つと位置づけられる。
この手法の根底には、単一障害点のリスクを排除するという考え方がある。本番システムとバックアップデータが同じ物理的場所に保管されている場合、その場所で発生した災害は本番システムとバックアップデータの両方に同時に影響を及ぼし、結果としてデータが完全に失われる可能性が高い。例えば、データセンター全体が停電したり、火災に見舞われたりした場合、ローカルに保管されたバックアップではデータを復旧できない。遠隔バックアップは、このような事態を避けるために、地理的に十分に離れた場所へデータを隔離することで、本番環境の損害がバックアップデータに及ばないようにする。これにより、組織は災害発生後も迅速にデータを復旧し、事業活動を再開できる能力、すなわちディザスタリカバリ能力を高めることができる。
遠隔バックアップの具体的な実装には、いくつかの方法がある。一般的には、ネットワークを通じてデータを遠隔地のストレージシステムへ転送する。この遠隔地のストレージは、自社が所有する別のデータセンターであったり、専門のデータセンターサービスプロバイダが提供する設備であったり、あるいはクラウドサービスプロバイダが提供するクラウドストレージであったりする。特に、クラウドを利用した遠隔バックアップは近年主流となっており、Backup as a Service(BaaS)として提供されることが多い。これにより、企業は自前で高価なインフラを構築・運用する手間を省き、必要なストレージ容量を柔軟に拡張できるメリットがある。
バックアップの対象となるデータは、ファイル、データベース、アプリケーションの設定ファイル、オペレーティングシステム全体、仮想マシンイメージなど多岐にわたる。バックアップの方式には、全てのデータを複製するフルバックアップ、前回のフルバックアップ以降に変更されたデータのみを複製する差分バックアップ、前回のあらゆるバックアップ(フル、差分、増分)以降に変更されたデータのみを複製する増分バックアップなどがある。これらの方式を組み合わせることで、ストレージ容量の消費を抑えつつ、効率的なバックアップ運用を実現できる。
データをネットワーク経由で遠隔地へ転送する際には、セキュリティ対策が不可欠である。データが転送される途中で傍受されたり、改ざんされたりするリスクがあるため、SSL/TLSやVPNといった暗号化プロトコルを利用してデータを保護する必要がある。また、遠隔地に保存されたバックアップデータ自体も、不正アクセスから保護するために強力な暗号化を施し、厳格なアクセス制御を適用することが求められる。
遠隔バックアップは、単にデータを保管するだけでなく、実際に災害が発生した際に、いかに迅速にシステムを復旧させるかという視点も重要である。システムが停止してから許容される復旧までの目標時間を定めたRTO(目標復旧時間)と、どの時点までのデータまで復旧させるかを定めたRPO(目標復旧時点)という指標を設定し、これらを達成できるようなバックアップ戦略と復旧手順を確立する必要がある。定期的な復旧テストを実施することで、バックアップデータが破損しておらず、実際に利用可能であること、そして確立された復旧手順が正しく機能することを確認し、緊急時への備えを万全にする。
遠隔バックアップを導入・運用する上では、いくつかの考慮事項がある。まず、ネットワーク帯域幅の要件が挙げられる。特に初回バックアップやフルバックアップの際には大量のデータを転送するため、十分な帯域幅がないとバックアップに長時間を要し、本番システムのパフォーマンスに影響を与える可能性がある。次に、コストも重要な要素である。ストレージ容量に応じた費用、データ転送量に応じた費用、バックアップソフトウェアやサービスのライセンス費用など、継続的な運用コストを把握し、予算内で収まるように計画する必要がある。さらに、データの保管場所に関する法律や規制(データガバナンス、コンプライアンス)への準拠も怠ってはならない。データの整合性を確保するためには、バックアップ実行中にデータが不整合にならないようにするスナップショット機能の活用や、バックアップ後のデータ検証プロセスも有効である。複数世代のバックアップを保持することで、特定の時点に遡ってデータを復旧できる柔軟性が向上し、誤操作や論理的なデータ破損からの回復にも対応しやすくなる。これらの要素を総合的に検討し、自社のニーズに合致した最適な遠隔バックアップ戦略を策定することが、データの安全性と事業継続性を高める上で不可欠となる。