SACD(エスエーシーディー)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
SACD(エスエーシーディー)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
スーパーオーディオCD (スーパーオーディオシーディー)
英語表記
SACD (スーパーオーディオシーディー)
用語解説
SACDとは、Super Audio CD(スーパーオーディオシーディー)の略称であり、従来のオーディオCD(コンパクトディスク)をはるかに上回る高音質再生を目的としてソニーとフィリップスが共同開発した光ディスク形式である。2000年代初頭に登場し、オーディオ愛好家や高音質コンテンツの提供を求める音楽業界の一部に支持されたが、広く一般に普及するには至らなかった。しかし、その根幹技術であるDSD(Direct Stream Digital)方式は、今日のハイレゾオーディオ技術にも影響を与えている。
SACDの最大の技術的特徴は、音声をデジタル化する方式としてDSDを採用している点にある。従来のオーディオCDが採用するPCM(Pulse Code Modulation)方式では、アナログ信号を一定時間ごとにサンプリングし、その時点での音の大きさを多段階の数値(ビット深度)で表現する。例えばCDの場合、1秒間に44,100回サンプリングし(44.1kHz)、各サンプリングポイントを16ビット(約65,536段階)で表現することでデジタル化する。これに対し、DSD方式は、アナログ信号の大小を1ビットのパルス密度の高低で表現する。具体的には、非常に高いサンプリング周波数(SACDでは2.8224MHz、これはCDのサンプリング周波数44.1kHzの64倍に相当する)でアナログ信号をデジタル化し、音の大小をパルスの「密度」で表現する。パルスが密であれば音が大きく、疎であれば音が小さい、という仕組みである。この方式は「1ビット方式」とも呼ばれ、アナログ信号の波形をより直接的に、滑らかに表現できるとされ、PCM方式に比べてより自然で原音に近い音質が得られると評価された。また、可聴帯域外の高周波数領域にノイズを集中させる「ノイズシェーピング」技術を用いることで、実質的なS/N比(信号とノイズの比率)を向上させている点も特徴である。
ディスクの物理的な構造は、直径12cmの光ディスクという点でCDと共通するが、SACDはDVDと同じ赤色レーザー(波長650nm)を使用し、CDの約4.7GBという大容量を実現した。これはCDの約650MBと比較して約7倍もの情報量を記録できることを意味し、高音質ステレオ音声だけでなく、5.1chサラウンドなどの多チャンネル音声の記録も可能とした。 SACDにはいくつかのディスクタイプが存在した。一つは単層SACD、もう一つは2層SACDである。そして最も普及が期待されたのが「ハイブリッドSACD」である。ハイブリッドSACDは、片面にSACD層(DSDデータ)とCD層(PCMデータ)の2層構造を持つことで、SACD対応プレーヤーでは高音質のDSD音源が再生でき、従来のCDプレーヤーではCD層のPCM音源が再生できるという互換性を持たせた。これは、新しいフォーマットの普及において、既存の再生環境との互換性をいかに確保するかが重要であるというSE的な視点からも興味深い戦略であった。
SACDを再生するには、SACD対応の専用プレーヤーが必要であった。初期のPlayStation 3の一部モデルもSACDの再生に対応していたが、一般的なCDプレーヤーではDSD音源を再生できなかった。著作権保護の観点から、SACDのDSDデジタル出力は厳しく制限されており、初期のプレーヤーではデジタル出力を介さずにDSDデータを直接取り出すことは不可能であった。これはデジタル著作権管理(DRM)技術の一例であり、SEがデータセキュリティやコンテンツ保護技術を理解する上で重要な要素である。そのため、DSDデータを外部に出力する場合は、デジタルアナログコンバーター(DAC)を介してアナログ音声として出力するのが基本であった。しかし、近年ではHDMI接続を介してDSDデータをデジタル伝送できるAVアンプや、DSDファイルを直接再生できるネットワークオーディオプレーヤーも登場し、SACDの技術的遺産は形を変えて現代のオーディオ環境に引き継がれている。
SACDは、その卓越した音質によってオーディオファンからは高い評価を得たものの、専用の再生機器が高価であったこと、そして高音質コンテンツのラインナップが十分でなかったことなどから、DVD-Audioと共に次世代オーディオの主流となるには至らなかった。インターネットによる音楽配信が普及し始め、可逆圧縮形式(FLACなど)のハイレゾ音源ダウンロードが一般的になったことも、物理メディアとしてのSACDの普及を妨げた一因である。しかし、SACDが採用したDSD方式は、現在でもハイレゾ音源の一つの形式として確立されており、その高音質技術は現代のデジタルオーディオ技術の発展に大きく貢献している。SACDの歴史は、新しい技術がいかにして市場に受け入れられ、あるいは受け入れられないか、そしてその技術がどのようにして次の世代の技術へと繋がっていくかを示す良い事例と言えるだろう。