ストリクトソースルーティング (ストリクトソースルーティング) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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ストリクトソースルーティング (ストリクトソースルーティング) の読み方

日本語表記

厳格ソースルーティング (ゲンカクソースルーティング)

英語表記

Strict Source Routing (ストリクト・ソース・ルーティング)

ストリクトソースルーティング (ストリクトソースルーティング) の意味や用語解説

ストリクトソースルーティングは、IPパケットのルーティング方式の一つであり、送信元がパケットの経由経路を完全に指定するメカニズムを指す。通常、ネットワークにおいてパケットは、ルータが持つルーティングテーブルに基づいて最適な経路を判断し、宛先へと転送される。しかし、ストリクトソースルーティングでは、このルータによる自律的な経路選択を排除し、パケットを送信するホスト(送信元)があらかじめ指定したルータのリストを厳密にたどって宛先に到達するよう強制する。これは、柔軟性よりも特定の経路を保証する制御を重視する場面で理論上用いられる。 通常のIPルーティングでは、パケットの宛先IPアドレスのみを参照して、ルータがその時点でのネットワーク状況に基づいて最も効率的と判断される経路を選択し、次のルータやホストへとパケットを転送する。このルーティングプロトコルによって自律的に経路が決定される仕組みは、ネットワークの動的な変化に対応しやすく、高いスケーラビリティと耐障害性を提供する。これに対し、ストリクトソースルーティングでは、送信元ホストがIPヘッダの「オプション」フィールドに、パケットが経由すべきルータや中間ホストのIPアドレスを順序立ててすべて記述する。パケットが次にどこへ転送されるかは、宛先IPアドレスではなく、このオプションフィールドに記載された次の経由地IPアドレスによって厳密に決定される。 具体的には、パケットを送信するホストは、最終的な宛先ホストまでの間に存在するすべてのルータやネットワークセグメントを把握し、それらのIPアドレスをリストとしてパケットに埋め込む。パケットが最初のルータに到達すると、ルータはオプションフィールド内の最初の経由地IPアドレスを参照し、そのアドレスへパケットを転送する。パケットが次のルータに到達すると、同様にオプションフィールド内の次の経由地IPアドレスを参照し、さらに転送する。このプロセスが繰り返され、オプションフィールドに指定された経由地をすべてたどった後、最終的にパケットはリストの最後の経由地から最終的な宛先ホストへと届けられる。もし指定された経由地が到達不可能であったり、リストに存在しない場合は、ルーティングが失敗し、パケットは破棄されることになる。 この方式の理論的な利点としては、特定のセキュリティゾーンを経由させたり、特定のネットワークデバイスを必ず通らせることで、ネットワークトラフィックの挙動を詳細に制御できる点が挙げられる。また、ネットワークの特定の経路が正しく機能しているかをテストしたり、トラブルシューティングの際に特定の経路での通信を強制したりするといったデバッグ用途も考えられる。例えば、特定の通信が問題なく行われるかを確認するため、意図的に特定の経路をたどらせて性能を測定するといった利用方法が理論上は存在した。 しかし、ストリクトソースルーティングは現代のIPネットワークにおいてはほとんど利用されていない。その最大の理由は、セキュリティ上の深刻な懸念と運用上の複雑さである。悪意のある攻撃者がこの機能を利用した場合、ネットワークのセキュリティポリシーを迂回したり、ファイアウォールや侵入検知システム(IDS)などのセキュリティデバイスを意図的に素通りさせたりすることが可能になる。また、攻撃者はストリクトソースルーティングを用いて、ネットワークの内部構造に関する情報を収集することもできてしまうため、ネットワークの秘匿性も損なわれる。さらに、運用面では、送信元ホストがネットワーク全体の最新のトポロジ(接続形態)を常に正確に把握していなければならず、ネットワーク構成が少しでも変更されると、送信元ホストは新しい経路情報に合わせてパケットのオプションフィールドを更新する必要があるため、非常に高い管理コストが発生する。 加えて、IPヘッダのオプションフィールドのサイズには限りがあるため、経由できるルータの数にも制限がある。また、ルータがオプションフィールドを解析してルーティングを行う処理は、通常のルーティング処理よりも負荷が高く、ネットワーク全体のパフォーマンスに影響を与える可能性もある。これらの理由から、多くのルータやファイアウォールは、セキュリティ上の脆弱性を防ぐために、デフォルトでストリクトソースルーティングを含むソースルーティングオプションを無効にしている。もし有効になっていても、途中のルータがこのオプションをサポートしていなければ、パケットは正しく転送されない。現代のネットワークでは、特定の経路を制御する必要がある場合、よりセキュアで管理しやすいVPN(Virtual Private Network)やMPLS(Multi-Protocol Label Switching)といった技術が用いられるのが一般的であり、ストリクトソースルーティングが実際に使用されることは非常に稀である。これは、過去の技術的な選択肢の一つとして認識されるべきルーティング方式と言える。

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