【ITニュース解説】1TB Raspberry Pi SSD on sale now for $70
2025年09月05日に「Hacker News」が公開したITニュース「1TB Raspberry Pi SSD on sale now for $70」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
Raspberry Pi公式から1TBの大容量SSDが70ドルで発売された。Raspberry Pi 5に接続することで、従来のmicroSDカードより高速で安定したストレージ環境を構築可能。小型コンピューターでの開発や学習がより快適になる。
ITニュース解説
手のひらサイズの安価なコンピュータとして、教育現場から趣味の電子工作、さらには本格的なシステム開発まで幅広く活用されているRaspberry Piに、その性能を飛躍的に向上させる公式のストレージ製品が登場した。Raspberry Pi財団が発表した1TBのNVMe SSDは、これまでストレージ性能に課題を抱えていたRaspberry Piの可能性を大きく広げるものとして注目されている。システムエンジニアを目指す上で、このようなハードウェアの進化がもたらす影響を理解することは非常に重要である。
これまで、Raspberry Piの主要な記憶装置はmicroSDカードが一般的であった。microSDカードは小型で手軽に入手できる利点がある一方で、いくつかの欠点を抱えていた。一つは読み書きの速度が遅いことだ。これにより、OSの起動やアプリケーションの読み込みに時間がかかり、システム全体の応答性が低下する原因となっていた。もう一つの大きな問題は、耐久性である。microSDカードは頻繁なデータの書き込みに弱く、特にログの記録やデータベースの更新が常時発生するサーバーのような使い方をすると、比較的短期間で故障してしまうリスクがあった。この問題を解決するため、USBポートに外付けのSSDを接続する方法も用いられてきたが、USBインターフェースの速度限界や、接続の安定性といった別の課題も存在した。
こうした状況を一変させたのが、2023年に登場したRaspberry Pi 5である。Raspberry Pi 5には、シリーズで初めて「PCI Express(PCIe)」と呼ばれる高速なデータ転送インターフェースが搭載された。PCIeは、パソコンのマザーボードでグラフィックボードや高速なストレージを接続するために使われる標準的な規格であり、USBよりもはるかに高速で安定したデータ通信が可能だ。このPCIeインターフェースを活用するために、Raspberry Pi財団は「M.2 HAT+」という拡張ボードをリリースした。これは、Raspberry Pi本体の上部に装着することで、M.2規格のSSDを接続できるようにするものである。
そして今回、このM.2 HAT+と組み合わせて使用することを前提とした、公式の1TB NVMe SSDが70ドルという価格で発売された。この製品は、単なる大容量SSDではない。まず、「NVMe」という規格に対応している点が重要だ。NVMeは、PCIeの高速な性能を最大限に引き出すために設計された通信プロトコルであり、従来のSATA接続のSSDと比較して桁違いの速度を実現する。この公式SSDは、最大で読み込み900MB/s、書き込み1000MB/sという公称スペックを誇る。これは、一般的なmicroSDカードの10倍以上の速度であり、Raspberry Pi上でのあらゆる操作が劇的に快適になることを意味する。OSの起動やソフトウェアのインストールはもちろん、大容量のデータを扱うデータベースサーバーやファイルサーバーとして利用する際の性能が大幅に向上する。
さらに、このSSDはRaspberry Pi 5で安定して動作するように、ファームウェアが特別に最適化されている。特に重要なのが消費電力の管理だ。Raspberry Pi 5のPCIeインターフェースは供給できる電力に5Wという上限があるが、このSSDは高負荷時でもその範囲内に収まるように設計されている。市場には多種多様なNVMe SSDが存在するが、製品によっては消費電力がこの上限を超えてしまい、動作が不安定になる可能性がある。公式製品であるこのSSDは、そうした互換性の心配をすることなく、安心して導入できるという大きな利点を持つ。
この公式高速SSDの登場は、Raspberry Piを単なる学習用デバイスから、より実用的な小型サーバーやエッジコンピューティングデバイスへと昇華させるものだ。例えば、Webサーバーを構築した場合、データベースへのアクセス速度が向上し、Webサイトの表示速度が改善される。自宅でファイルサーバー(NAS)を構築すれば、大容量のファイルを高速に読み書きでき、快適なデータ共有環境が実現する。また、ソフトウェア開発の場面では、プログラムのコンパイルや仮想環境の操作が高速化し、開発効率の向上に直結する。これまで性能的な制約からRaspberry Piでの実現が難しかった、より高度で負荷の高いシステム構築にも挑戦できるようになったのだ。
システムエンジニアは、ソフトウェアだけでなく、それが動作するハードウェアの特性を深く理解する必要がある。今回のニュースは、ストレージという一つの要素がシステム全体の性能にいかに大きな影響を与えるかを示す好例である。安価で高性能な小型コンピュータと、それに最適化された高速ストレージの組み合わせは、システム設計の選択肢を広げ、新たな可能性を生み出す。このような技術の進化を追いかけ、その特性を活かしたシステムを構築する能力は、これからのエンジニアにとって不可欠なスキルとなるだろう。