【ITニュース解説】Apple isn't making any carbon neutral claims with its Series 11 smartwatch

近年のIT業界では、製品やサービスが環境に与える影響をいかに低減するかが、企業の社会的責任として、また競争力を高める上での重要な要素となっている。特にAppleのような世界的なテクノロジー企業は、製品の環境性能を積極的にアピールしてきた。しかし、同社が発表した最新のスマートウォッチ「Apple Watch Series 11」では、環境に関する表現に注目すべき変化が見られた。これは、企業の環境への取り組みに関する主張、いわゆる「グリーンクレデンシャル」のあり方について、IT業界全体に重要な問いを投げかける出来事である。

まず背景として、「カーボンニュートラル」という言葉の意味を理解する必要がある。これは、ある製品の製造、輸送、使用、廃棄といったライフサイクル全体を通じて排出される二酸化炭素（CO2）などの温室効果ガスの量と、植林や森林保護といった活動によって吸収・除去される温室効果ガスの量が等しく、差し引きで実質ゼロになる状態を指す。企業がこれを達成するためには、主に二つのアプローチがある。一つは、製造工程で再生可能エネルギーを利用したり、製品のエネルギー効率を高めたりすることで、そもそも排出される温室効果ガスの量を削減すること。もう一つは、削減しきれなかった排出量を、他の場所で温室効果ガスを削減・吸収するプロジェクトに投資することなどで埋め合わせる「カーボンオフセット」と呼ばれる手法である。

Appleはこれまで、Apple Watch Series 9や10の一部のモデルについて、このカーボンニュートラルを達成したと大々的に宣伝してきた。これは、環境意識の高い消費者に対する強力なアピールポイントとなっていた。しかし、最新のApple Watch Series 11の公式発表では、この「カーボンニュートラル」という言葉が完全に姿を消した。この方針転換の背景には、ドイツの裁判所が下した一つの判決が大きく影響している。

ドイツの地方裁判所は、AppleがApple Watchをカーボンニュートラルと主張することに対し、その根拠が不十分であるとの判断を下した。問題視されたのは、Appleが採用していたカーボンオフセットの手法だ。Appleは、温室効果ガス吸収のために特定の土地を利用する契約を結んでいたが、その契約期間が2029年までとなっていた。裁判所は、製品のライフサイクル全体でのカーボンニュートラルを主張するには、2029年以降のオフセット計画が不明確であり、永続的な中立性が保証されていないと指摘した。このため、Appleの主張は消費者に誤解を与える可能性があり、競争法に違反するという結論に至ったのである。この判決は、企業が環境貢献をうたう際に、その主張に長期的かつ具体的な根拠と透明性が求められることを明確に示した事例となった。

この法的な指摘を受け、AppleはSeries 11における環境性能のアピール方法を大きく変更した。包括的で解釈の余地が大きい「カーボンニュートラル」という表現を避け、より具体的で検証可能な数値データを前面に押し出す戦略に切り替えたのだ。具体的には、製品に含まれるリサイクル素材の割合を詳細に示している。例えば、バッテリーには再生コバルトを100%、ケースには再生アルミニウムまたは再生チタンを100%使用していると明記している。さらに、製造プロセスにおける技術革新も強調しており、チタン製ケースの製造に3Dプリンティング技術を導入することで、従来の方法に比べて原材料の使用量を半分に削減したと述べている。加えて、製品の組み立てや部品製造といったサプライチェーン全体で、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを100%使用していることもアピールしている。

この一連の動きは、システムエンジニアを目指す人々にとっても重要な示唆を含んでいる。現代の製品開発は、単に機能や性能を追求するだけでなく、その製品が環境に与える負荷をいかに低減するかという視点が不可欠になっている。Appleの事例が示すように、環境配慮の主張には技術的な裏付けと法的な正当性が厳しく問われる。これは、将来エンジニアとして開発に携わる際、省電力なソフトウェア設計や、エネルギー効率の高いハードウェア構成、リサイクル可能な材料の選定といった課題に直面することを意味する。企業の環境への取り組みはもはや単なるマーケティングではなく、技術力と倫理観が試される領域なのである。Appleはスマートウォッチ単体でのカーボンニュートラル主張は取り下げたものの、企業全体の事業運営としてはカーボンニュートラルであるとの主張は続けている。この違いからも、主張の範囲と根拠を明確にすることがいかに重要かがうかがえる。今後、IT業界では、より透明性が高く、具体的な数値に基づいた環境性能のアピールが標準となっていく可能性が高い。