【ITニュース解説】Bad Apple but it's played inside Super Mario Bros
2025年09月29日に「Hacker News」が公開したITニュース「Bad Apple but it's played inside Super Mario Bros」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
人気動画「Bad Apple!!」が、古いゲーム「スーパーマリオブラザーズ」のゲーム画面内で再生された。これは、既存の限られたシステム環境を詳細に解析し、プログラムを工夫することで、本来の用途を超えた新たな表現を可能にした技術的偉業だ。古いシステムでも、深い理解と応用で高度なことが実現できる。
ITニュース解説
有名なレトロゲーム「スーパーマリオブラザーズ」の中で、人気のアニメーション動画「Bad Apple!!」が再生されたという驚くべき技術的偉業について解説する。これは、一見すると不可能に思える組み合わせだが、ゲームの仕組みを深く理解し、高度な技術を駆使することで実現された。
この偉業がなぜこれほど驚きをもって迎えられたかというと、スーパーマリオブラザーズが動作するファミリーコンピュータ、通称ファミコンの性能の低さに理由がある。ファミコンは今から約40年前に発売されたハードウェアで、現代のスマートフォンやパソコンとは比較にならないほど非力だ。たとえば、CPU(中央演算処理装置)はたったの1.79MHz、メモリ(RAM)もわずか2KB程度しか搭載していない。グラフィック表示能力も限られており、同時に表示できる色数や画面上の動くキャラクター(スプライト)の数には厳しい制約がある。このような非力なハードウェアで、高精細な動画をスムーズに再生することは、ゲーム開発者が想定しておらず、通常のゲームプレイでは到底実現できない。
この不可能を可能にした主要な技術の一つが「ツールアシステッドスピードラン(TAS)」の技術だ。TASは、エミュレーターの巻き戻し、一時停止、ゲームのフレーム単位(1秒間に約60回画面が更新される際の1回分)での操作といった機能を使い、人間には不可能な精度でゲームを操作する手法である。これによって、通常のプレイでは絶対にできないような特殊な状況や内部処理を作り出すことができる。
そして最も重要な技術が「任意コード実行(Arbitrary Code Execution, ACE)」だ。これは、ゲーム内に存在するバグや予期せぬ挙動を悪用し、ゲーム本来のプログラムとは異なる、外部から持ち込んだプログラムコードを強制的に実行させる技術である。スーパーマリオブラザーズには、特定の操作を組み合わせることで、ゲームのメモリ上に存在するデータの一部を、本来のプログラムコードとして誤認させ、実行させることのできる仕組みが発見された。この仕組みを「脆弱性」と呼ぶ。この脆弱性を利用して、Bad Apple!!の動画を再生するためのプログラムをゲーム内部で動かすことに成功したのだ。
任意コード実行によって、ゲームは本来の動作から逸脱し、実行者が用意したプログラムが動き出す。このプログラムの主な役割は、Bad Apple!!の動画データをファミコンが理解できる形に変換し、それを画面に描画することである。ファミコンのグラフィックは「ピクチャー・プロセッシング・ユニット(PPU)」という専用のチップが処理する。PPUは、ゲームのキャラクターや背景を「タイル」と呼ばれる小さな四角い画像としてメモリに保存し、それを組み合わせて画面を構成する。また、動くキャラクターには「スプライト」という個別の表示領域が割り当てられる。
動画を再生するには、Bad Apple!!の各フレームの画像データを、ファミコンの限られた色数(同時に表示できるのは64色中25色程度)と解像度(横256ピクセル、縦240ピクセル)に合わせて、モノクロのタイルデータやスプライトデータに変換する必要がある。そして、この変換されたデータをリアルタイムでファミコンのメモリ(特にPPUが参照するビデオRAM)に書き込み続ける。任意コード実行によって得られた制御権限で、このメモリ書き込みを高速かつ正確に行う。毎秒数十回も画面を更新する中で、新しいフレームの画像データをメモリに送り込み、PPUに描画させるのだ。このプロセスは非常に精密で、一瞬でもタイミングがずれると画面が乱れたり、ゲームがクラッシュしたりする可能性がある。TASのフレーム単位の正確な操作が、この複雑なデータ転送と描画を安定して行うことを可能にしている。
この「スーパーマリオブラザーズでBad Apple!!再生」という偉業は、単なるエンターテインメントに留まらない、システムエンジニアリングにおける非常に重要な教訓を含んでいる。一つは、ハードウェアの限界を理解し、それを突破するための発想力と技術力だ。古いゲーム機という制約の多い環境で、開発者が想定していなかった利用方法を見つけ出し、新しい価値を生み出す。もう一つは、システムの内部構造を深く掘り下げて分析する能力だ。ゲームのプログラムコード、メモリの動作、ハードウェアの特性(PPUの挙動など)を隅々まで調べ上げ、バグや脆弱性を見つけ出し、それを制御下に置く。これは、情報セキュリティの診断やシステム最適化など、現代のシステムエンジニアの仕事にも通じる重要なスキルである。これはまさに、与えられた制約の中で最大限のパフォーマンスを引き出し、不可能を可能に変えるエンジニアの執念と創造性の結晶と言えるだろう。
この事例は、技術が単なる道具ではなく、人間の探求心と創造性によって無限の可能性を秘めていることを示している。システムと真摯に向き合い、その本質を理解することで、予期せぬ革新的な成果を生み出せるというメッセージを強く伝えている。