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【ITニュース解説】Bob Stein and Voyager (2021)

2025年09月08日に「Hacker News」が公開したITニュース「Bob Stein and Voyager (2021)」について初心者にもわかりやすく解説しています。

作成日: 更新日:

ITニュース概要

1980年代後半、ボイジャー社はCD-ROMを使い、本に音声や映像を組み合わせた「拡張された本」を開発。これは現在の電子書籍やウェブコンテンツの原型となった先駆的な試みであり、インタラクティブな体験を提供した。

出典: Bob Stein and Voyager (2021) | Hacker News公開日:

ITニュース解説

私たちが今日、スマートフォンやタブレットで当たり前のように利用している電子書籍や、音声や動画が組み込まれたインタラクティブなウェブサイト。その原型となるアイデアが、インターネットが一般に普及するよりも前の1980年代後半から1990年代にかけて、ある一人の人物と彼が率いた企業によって精力的に探求されていた。その中心人物がボブ・スタインであり、企業の名は「The Voyager Company」である。彼らの物語は、新しいテクノロジーが登場したとき、それがどのようにして新たな文化や表現を生み出すのかを教えてくれる貴重な事例だ。

1980年代後半、パーソナルコンピュータの世界では大きな変革が起きていた。特にAppleのMacintoshは、グラフィカルな操作画面(GUI)によって、専門家でなくても直感的にコンピュータを扱える道を切り開いた。この時期に登場した二つの技術が、Voyagerの挑戦の鍵となる。一つは、Appleが開発した「HyperCard」というソフトウェアだ。これは、テキストや画像を「カード」という単位で作成し、それらを「リンク」で結びつけることで、プログラミングの専門知識がなくてもインタラクティブなアプリケーションを構築できる画期的なツールだった。もう一つは「CD-ROM」の登場である。フロッピーディスクとは比較にならないほどの記憶容量を持つこのメディアは、高品質な音声や画像、さらには動画といった、当時としては大容量のデータをコンピュータで扱うことを可能にした。

ボブ・スタインは、これらの新しい技術に、単なる情報処理の効率化以上の可能性を見出していた。彼はコンピュータを、本や映画に続く新しい表現のためのメディアと捉え、読者が一方的に情報を受け取るだけでなく、自ら操作し、探索できるような新しい「読み物」の形を構想した。これがVoyagerの「Expanded Books(拡張された本)」プロジェクトの始まりである。Expanded Booksは、単に紙の本の文章をデジタル化したものではなかった。そこには、デジタルならではの付加価値がふんだんに盛り込まれていた。例えば、読者は本の中の任意の単語やフレーズで全文検索ができ、気になった箇所にメモを残したり、ハイライトを引いたりすることができた。さらに、特定の箇所に関連する著者のインタビュー音声や解説動画へのリンクが埋め込まれており、読者はテキストを読み進めながら、より深く作品世界に没入することができた。これは、現在の電子書籍リーダーが持つ基本的な機能の多くを先取りする試みだった。

Voyagerは、マイケル・クライトンの『ジュラシック・パーク』のようなベストセラー小説をはじめ、様々なジャンルの作品をExpanded BooksとしてCD-ROMで出版した。彼らの思想の根底には、映画の分野で先行して成功を収めていた「Criterion Collection」の経験があった。Criterion Collectionは、映画本編に監督や批評家による解説音声、関連ドキュメンタリーなどを特典として加え、作品をより深く理解するためのパッケージとして提供するもので、Voyagerが手がけていた事業の一つだった。この「本編に付加価値を加えて、新たな体験を創造する」という考え方が、Expanded Booksにも応用されたのだ。

Voyagerの挑戦は、まだインターネットがダイヤルアップ接続で細々と利用されていた時代のものであり、コンテンツの配布はCD-ROMという物理的なメディアに依存していた。しかし、彼らがHyperCardを使って構築した、情報と情報がリンクで結びつき、ユーザーがそれをたどっていくという構造は、その後に爆発的に普及するワールド・ワイド・ウェブのハイパーリンクの思想と本質的に同じものであった。彼らはウェブの登場前夜に、デジタルコンテンツがどのように構成され、消費されるべきかのモデルを提示した先駆者と言える。

最終的に、インターネットの急速な普及とビジネスモデルの変化の中で、Voyagerはかつての勢いを失っていく。しかし、彼らが残した功績は計り知れない。ボブ・スタインとVoyagerは、新しい技術を前にして、それをいかにして人間の知性や創造性を拡張するために活用できるかを問い続けた。彼らの実践は、その後の電子書籍、マルチメディアコンテンツ、そしてウェブサイトの設計思想に大きな影響を与えた。システムエンジニアを目指す者にとって、この物語は単なる過去の技術史ではない。新たなテクノロジーと向き合い、それを用いてどのような新しい価値や体験を社会に提供できるかを考える上で、時代を超えた重要な示唆を与えてくれるのである。

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