【ITニュース解説】Canon's tiny C50 cinema camera can shoot widescreen and vertical video simultaneously
2025年09月09日に「Engadget」が公開したITニュース「Canon's tiny C50 cinema camera can shoot widescreen and vertical video simultaneously」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
キヤノンが小型シネマカメラ「EOS C50」を発表。映画品質の横長動画を撮影しながら、同時にTikTokなどSNS向けの縦長動画を切り出して出力できる。1台で複数フォーマットのコンテンツを効率的に制作可能にした。
ITニュース解説
キヤノンが発表した「EOS C50」は、プロ向けの映像制作機材であるシネマカメラのラインナップにおいて、最も小型・軽量なモデルである。このカメラは、単に小さくて高性能なだけではなく、特にYouTubeやTikTokといった複数のプラットフォームで映像コンテンツを発表する現代のクリエイターが抱える課題を解決するための、画期的な機能を搭載している点が最大の特徴だ。
まず、このカメラの基本的な性能から見ていこう。「EOS C50」は、新開発の「フルフレームセンサー」を搭載している。カメラにおけるセンサーは、レンズを通して入ってきた光を電気信号に変換する、いわば映像の心臓部にあたる部品である。フルフレームとは、このセンサーのサイズが大きい規格のことを指し、多くの光を取り込めるため、高画質で、暗い場所での撮影に強く、背景を美しくぼかした表現が得意という利点がある。この高性能なセンサーにより、「EOS C50」は最大で7K解像度、秒間60フレーム(60p)という極めて高精細で滑らかな映像を、内部のメモリーカードに直接記録することができる。さらに、この記録は「RAW」形式に対応している。RAWデータとは、センサーが捉えた光の情報をほとんど加工せずに生のまま保存する方式のことである。後から映像編集ソフトウェアで色や明るさを自由自在に調整できるため、制作者の意図を細かく反映させることが可能になる。これは、いわば料理における加工前の新鮮な食材のようなものであり、プロの現場では極めて重要視される。
そして、この記事のタイトルにもなっている最も注目すべき機能が「同時クロップ記録」である。現在の映像コンテンツは、YouTubeのような横長の16:9という画面比率が主流である一方、スマートフォンの視聴に最適化されたTikTokやInstagramのリール動画では、縦長の9:16といった比率が一般的となっている。従来、クリエイターはまず横長の映像を撮影し、その後、編集作業で映像の中央部分などを切り抜いて縦長の動画を別途作成するという手間が必要だった。この作業は時間がかかるだけでなく、切り抜くことで画質が劣化する可能性もあった。「EOS C50」の同時クロップ記録機能は、この問題を根本から解決する。4Kの横長映像を撮影しながら、カメラ内部でリアルタイムに処理を行い、SNS向けの縦長(2K解像度)映像を同時に生成し、別のファイルとして記録することができるのだ。これにより、一度の撮影で主要なプラットフォームに対応した二種類の映像を同時に手に入れることができ、コンテンツ制作のワークフローを劇的に効率化させることが可能になる。
この効率化をさらに後押しするのが「3:2 オープンゲート記録」機能である。これは、カメラに搭載されているセンサーの記録領域を最大限、つまりほぼ全体を使って撮影するモードを指す。一般的な動画撮影では、16:9といった最終的な出力フォーマットに合わせて、センサーの一部領域しか使用しないことが多い。しかし、オープンゲートで撮影しておけば、センサーが捉えた広い範囲の情報が記録されるため、後から編集で横長の映像にも縦長の映像にも、画質の損失を最小限に抑えながら自由に切り出すことができる。撮影時に最終的な画面比率を固定する必要がなく、後工程での柔軟性が格段に向上する。
その他にも、「EOS C50」はプロフェッショナルの要求に応えるための機能を豊富に備えている。例えば「デュアルISOシステム」は、暗い場所での撮影品質を向上させる技術だ。カメラには光に対する感度を示すISO感度という設定があるが、このカメラはノイズが少なく最も綺麗に撮れる基準となる感度が二つ(ISO 800と6400)設定されている。これにより、明るい場所でも暗い場所でも、それぞれの状況に適した最適な基準感度を用いることで、ノイズの少ないクリアな映像を記録できる。音質面では、プロ用のマイクを接続するためのXLR端子を搭載し、高品位な音声収録に対応する。また、キヤノンが得意とする高速・高精度な「デュアルピクセルオートフォーカス」にAIによる被写体追跡機能が組み合わさり、人物や動物の瞳や顔、体を自動で認識してピントを合わせ続けてくれるため、撮影者は構図や演出に集中することができる。ただし、小型化を優先したためか、カメラ本体に手ブレ補正機構は搭載されておらず、手ブレ補正機能付きのレンズや、ジンバルなどの外部機材との組み合わせが推奨される。
このように、「EOS C50」は、高画質な映像を撮影できるという基本性能の高さに加え、「同時クロップ記録」や「オープンゲート記録」といったソフトウェア的なアプローチによって、現代の多様なメディア環境における映像制作の非効率を解消する、強力なソリューションを提供するカメラである。これは、ハードウェアとソフトウェアが密接に連携し、ユーザーが直面する具体的な課題を解決するという、優れたシステム設計の一例と言えるだろう。