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【ITニュース解説】Everything Wrong With Developer Productivity Metrics

2025年09月13日に「Reddit /r/programming」が公開したITニュース「Everything Wrong With Developer Productivity Metrics」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

開発者の「生産性」をコード量などの数値で測るのは難しい。DORA指標はチーム改善用で、個人評価には不向きだ。問題解決や設計といった思考が開発の本質であり、それは数値化しにくいからだ。多くの指標ツールには注意が必要だ。

ITニュース解説

システムエンジニアという職業を目指す上で、開発者の仕事の「生産性」をどのように捉えるべきか、という問いは非常に重要だ。多くの企業では、開発者の働きを数値化し、管理しようとする動きが強まっているが、これには根本的な問題が潜んでいる。

まず、DORA Fourと呼ばれる指標群について説明しよう。これは「ソフトウェアデリバリー性能指標」と位置づけられており、具体的には、コードを本番環境へデプロイする頻度、変更が始まってからデプロイされるまでの時間(リードタイム)、デプロイ後に問題が発生する割合(変更障害率)、そしてサービス障害が発生した際の復旧にかかる時間という四つの項目から構成される。これらの指標は、もともとソフトウェア開発チームが、自分たちの開発プロセスを客観的に見つめ直し、どこに改善の余地があるのかを把握するためのフィードバックツールとして考案された。例えば、デプロイ頻度が低いチームは、リリースプロセスに何か非効率な点がないか、あるいは変更のリードタイムが長いチームは、コードレビューやテストに時間がかかりすぎているのではないか、といった具合に、自己改善のきっかけとして利用することが本来の目的だ。

しかし、残念ながら、DORA Fourは本来の目的から逸脱して使われることが増えている。組織によっては、これらの指標を用いて異なるチーム間のパフォーマンスを比較したり、さらには個々の開発者の「生産性」を評価したりする基準として利用されるようになってしまった。DORAの公式ウェブサイトですら、これらの指標は「生産性指標」ではなく「ソフトウェアデリバリー性能指標」であると明言しているにもかかわらず、表面的な数字だけを追いかける風潮が広がっているのが現状だ。

なぜ個人の開発者の生産性を数値で測ることがこれほど難しいのか、あるいは「愚かな企て」とまで言われるのか。その理由は、システムエンジニアの仕事の本質にある。著名なIT専門家であるマーティン・ファウラーが指摘するように、私たちが書く「コード」は、エンジニアが実際に行っている作業のほんの一部しか表現していないのだ。

システムエンジニアの仕事は、単にキーボードを叩いてコードを書くことだけではない。実際、コードを書く行為は、エンジニアが費やす時間の半分以下であることも珍しくない。むしろ、多くの時間は、解決すべき問題の本質を深く理解し、その問題に対する最適なアプローチを考案し、複数の解決策のメリット・デメリット(トレードオフ)を比較検討し、システム全体の設計を行うといった「思考」のプロセスに費やされる。例えば、複雑なユーザー要求をどのように技術的な仕様に落とし込むか、将来的な拡張性や保守性を考慮した上で、どのようなアーキテクチャを採用すべきか、あるいはパフォーマンスとコストのバランスをどう取るかといった議論は、コードの変更履歴であるコミットログには直接記録されない。

ソフトウェア開発の世界で影響力のあるケント・ベックやリッチ・ヒッキーといった思想家たちも、開発において最も価値のある部分は「思考」であり、「タイピング」ではないと力説している。これは、エンジニアの本質的な貢献が、どれだけ多くのコードを書いたか、どれだけ頻繁にコードを変更したかといった表面的な数値では測れないことを示唆している。深く熟考した結果、既存のコードをよりシンプルに改善したり、まったく新しいコードを書かずに既存の機能で要件を満たすといった解決策に至ることもある。こうした知的作業は、一般的に「生産性指標」と見なされがちなコード量やコミット数といった数字にはほとんど反映されない。つまり、開発の真の価値である「思考」は、既存の指標ではほとんど捕捉できないのである。

このような背景から、現在、開発者の「生産性」を測定するための様々なITツールが市場に登場している。これらのツールは、コードのリポジトリやタスク管理ツールと連携し、多岐にわたる40以上の指標をダッシュボードに表示する。もちろん、これらの指標の中には、チームの作業の流れを可視化したり、ボトルネックを発見したりする上で有用なものも存在する。例えば、特定の機能の開発サイクルにかかる時間の平均値や、テストカバレッジの推移などは、チームがプロセスを改善するための貴重な情報となるだろう。

しかし、問題は、これらのツールが提示する指標の一部が、開発者の本質的な貢献を誤解させる使い方をされがちであることだ。中には、安易なコード量やコミット数を個人の生産性と結びつけるような設計がされているものもある。このような指標を過度に重視すると、開発者は思考を深めるよりも、とにかく手を動かして数字を増やすことに意識が向きかねない。その結果、コードの品質が低下したり、熟考されない変更が頻繁に発生したりして、長期的なシステムの保守性や安定性を損なう可能性すらある。つまり、開発者の本当の仕事を理解しないまま作られた、あるいは利用される指標は、かえって有害な影響をもたらす危険性があるのだ。

システムエンジニアを目指す者は、このような開発の現場における「生産性」測定の現状と課題を理解しておくべきだ。表面的な数字や指標に惑わされることなく、開発という仕事の奥深さ、特に問題の本質を理解し、最適な解決策を導き出す「思考」のプロセスこそが、真の価値を生み出す源泉であることを認識することが重要だ。技術スキルを磨くことは当然として、それ以上に、本質的な課題を見極め、より良いシステムを設計・構築できる能力を養うことが、将来の成功につながる道だと言える。指標はあくまで参考であり、開発者の真の貢献やチームとしての成長は、数字だけでは決して測りきれないことを肝に銘じておくべきである。

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