【ITニュース解説】12台の56Kモデムを束ねることでダイヤルアップ接続で恐らく世界最速の下り668.8Kbpsという通信速度を実現
2025年09月30日に「GIGAZINE」が公開したITニュース「12台の56Kモデムを束ねることでダイヤルアップ接続で恐らく世界最速の下り668.8Kbpsという通信速度を実現」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
電話回線を使うダイヤルアップ接続で、12台の古い56Kモデムを同時に動かし、当時としては異例の速さとなるダウンロード速度668.8Kbpsを達成した。
ITニュース解説
今回のニュースは、かつて主流だった「ダイヤルアップ接続」というインターネット接続方法で、驚異的なダウンロード速度668.8Kbpsを達成したという内容だ。これは、現代の光ファイバーやADSLといった高速ブロードバンド接続が当たり前になる前の時代を知らない人にとっては、想像もつかないような挑戦かもしれない。まずは、この「ダイヤルアップ接続」がどのようなものだったのかから解説しよう。
ダイヤルアップ接続とは、皆が普段使っている固定電話と同じ電話回線を使ってインターネットに接続する方式のことだ。パソコンに内蔵されたり、外付けされたりする「モデム」という機器が、電話回線を通してインターネットサービスプロバイダ(ISP)のアクセスポイントに電話をかけ、接続を確立する。電話をかける際には「ピーガー、ガー、ゴゴゴ……」といった特徴的な接続音が鳴り響き、接続が完了すると回線がインターネットのために占有されるため、その間は同じ電話回線で通話ができなかった。これがダイヤルアップ接続の大きな特徴であり、不便な点の一つだった。
この接続方式における通信速度は非常に遅く、一般的なモデムの最高速度は「56Kbps」とされていた。これは1秒間に56キロビットのデータを送受信できるという意味で、現在主流の光ファイバーが数Gbps(ギガビット毎秒)という単位でデータをやり取りできることを考えると、いかに遅かったかがわかるだろう。当時のインターネット利用は、テキストベースのウェブサイトを閲覧する程度が精一杯で、画像を多く含むページや動画の再生などは、途方もない時間がかかった。まさに、インターネットの世界がまだ「電話線の中」に閉じ込められていたような状態だったのだ。
そんなダイヤルアップ接続の時代に、最高速度とされた56Kbpsを大幅に超える668.8Kbpsという速度が達成されたというのが、今回のニュースの驚くべき点である。これはどのようにして実現されたのだろうか。挑戦者は、単一のモデムで通信するのではなく、なんと12台もの56Kモデムを同時に利用した。複数のモデムと複数の電話回線を束ねて、あたかも一本の太い回線であるかのように扱うことで、データの転送能力を飛躍的に向上させたのだ。
この技術的なアプローチは「チャンネルボンディング」や「マルチリンクPPP(Point-to-Point Protocol)」と呼ばれるものに似ている。複数の物理的な回線を論理的に一本の回線として扱うことで、個々の回線の帯域幅を合計した速度を実現するという考え方だ。例えば、幅1メートルのパイプ12本を並べれば、全体として幅12メートルのパイプのような効果が得られるのと同じ理屈である。今回の挑戦では、12台の56Kモデムそれぞれが個別の電話回線に接続し、同時にデータをダウンロードすることで、それぞれのモデムが処理できるデータの合計値として、最終的に668.8Kbpsという速度を叩き出したのである。
しかし、これを実現するのは並大抵のことではない。まず、12本もの電話回線を確保する必要がある。そして、それぞれのモデムからのデータを適切に集約し、あたかも一本のデータストリームとしてパソコンに送るための特別なハードウェアやソフトウェアが必要となる。ISP側も、これだけの数の回線を同時に処理できるモデムプールと呼ばれる設備を持っていなければならない。さらに、通常のダイヤルアップ接続では、回線の品質やノイズの影響で、56Kbpsという理論上の最高速度に到達することは稀だった。今回の挑戦では、そうした多くの困難を乗り越え、回線品質やシステムの最適化を徹底した上で、この記録的な速度を達成したと推測される。
668.8Kbpsという速度は、現代のブロードバンドと比較すればまだ遅いと感じるかもしれない。しかし、ダイヤルアップ接続という枠組みの中で見れば、これは当時の技術的限界を極限まで押し上げた、まさに「世界最速」と呼ぶにふさわしい偉業だ。当時のADSL接続が数Mbpsから数十Mbps、光ファイバー接続がさらに高速だったことを考えると、ダイヤルアップでブロードバンド並みの速度を出そうとしたこの挑戦は、技術者としての探求心と、既存の枠にとらわれない発想の結晶と言えるだろう。
このニュースは、古い技術であっても、工夫次第で新しい可能性を引き出せることを示している。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、これは非常に重要な教訓だ。既にある技術や常識に満足するだけでなく、「もっと良くするにはどうすればいいか」「別の角度からアプローチしたらどうか」といった問いを常に持ち続けることが、新しい技術やサービスを生み出す原動力となる。今回の挑戦は、一見すると無駄に見えるかもしれないが、技術の限界を探り、それを突破しようとするエンジニアリングの精神そのものを示しているのだ。現代の高速インターネットが当たり前である今だからこそ、このような過去の挑戦に目を向けることで、技術の進化の道のりや、その裏にある人々の情熱を感じ取ることができるだろう。