【ITニュース解説】How We Built Our lakeFS Iceberg Catalog

2025年09月07日に「Hacker News」が公開したITニュース「How We Built Our lakeFS Iceberg Catalog」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

データ管理ツールlakeFSが、大量データを効率的に扱う「Iceberg」という技術の管理システム(カタログ)をどのように作ったか解説。データバージョン管理を助け、データ分析やAI開発をスムーズにするための技術的工夫を説明する。

出典: How We Built Our lakeFS Iceberg Catalog | Hacker News公開日:

ITニュース解説

データレイクは、企業が生成する大量の多様なデータをそのままの形で保存するための貯水池のようなものだ。しかし、このデータレイクは、データの一貫性を保つことや、間違った変更があった場合に過去の状態に戻す「バージョン管理」を行うことが難しいという課題を抱えている。特に、複数のユーザーが同時にデータを操作する場合、データの状態が予測不能になったり、誤ったデータが混入したりするリスクがある。

このようなデータレイクの課題を解決するための一つのアプローチが、lakeFSというツールだ。lakeFSは、ソフトウェア開発で使われるバージョン管理システム「Git」に似た仕組みをデータレイクに導入する。これにより、データの変更履歴を記録し、特定の時点にデータを巻き戻したり、異なる変更を安全に統合したりすることが可能になる。データエンジニアは、実験的なデータ処理を自由に行い、問題があれば簡単に元に戻せるようになるため、データ活用の幅が広がる。

一方、Apache Icebergは、データレイクに保存された大量のファイルを「テーブル」として整理し、管理するためのオープンソースの技術だ。従来のデータレイクでは、テーブルを構成するファイル群が散らばっており、どのファイルが最新のテーブルデータなのか、テーブルの構造(スキーマ)はどうなっているのかといった情報を管理するのが困難だった。Icebergは、これらの「メタデータ」(データに関するデータ)を一元的に管理することで、データレイク上のテーブルを、まるで一般的なリレーショナルデータベースのテーブルのように扱いやすくする。さらに、データベースで非常に重要な概念であるACIDトランザクション(データの更新が「不可分性」「一貫性」「分離性」「永続性」という四つの特性を満たすこと)をデータレイクでも実現し、データの信頼性を高める。

Icebergがテーブルのメタデータを管理するために必要なのが「Icebergカタログ」だ。このカタログは、Icebergテーブルの名前、保存場所、現在のスキーマ、過去の変更履歴といった情報を保持する目録のような役割を果たす。データ分析ツールがIcebergテーブルにアクセスする際には、まずこのカタログを参照して、必要なテーブルの情報を取得する。

lakeFSが独自のIcebergカタログを構築することに踏み切ったのは、lakeFSの強力なバージョン管理機能と、Icebergによる信頼性の高いテーブル管理を完全に統合するためだ。既存の様々なIcebergカタログ(たとえばAWS Glueカタログなど)を利用することも可能だが、lakeFSのブランチ(データの派生)やコミット(変更の確定)といった独自のバージョン管理モデルと、外部カタログの管理モデルとの間で、データの整合性や競合解決に関して複雑な問題が生じる可能性があった。そのため、lakeFSのバージョン管理モデルに最適化された専用のカタログを自社で構築することで、データレイク全体にわたる一貫したバージョン管理とACIDトランザクション保証を、より効率的かつ堅牢に実現できると考えたのだ。

このlakeFS Icebergカタログは、いくつかの主要な技術を用いて構築された。まず、テーブルのメタデータ、つまりテーブル名やその現在の状態などの情報を永続的に保存するために、広く使われているオープンソースのリレーショナルデータベースであるPostgreSQLが採用された。PostgreSQLはACIDトランザクションを強力にサポートしているため、カタログのメタデータの整合性を保証するのに非常に適している。

カタログの主要なロジックは、Go言語で開発された。Go言語は、高いパフォーマンスと「並行処理」(複数の処理を同時に実行する能力)に優れており、大量のデータ要求を処理する大規模なデータレイク環境での利用に適している。テーブルのメタデータは、Protobufというデータ形式で保存される。Protobufは、データを効率的にシリアライズ(データを特定の形式に変換すること)およびデシリアライズ(元のデータ形式に戻すこと)する能力を持ち、データサイズを小さく保ちながら高速な読み書きを実現する。

lakeFS Icebergカタログは、Icebergの標準的な「REST Catalog API」と互換性を持つように設計された。これにより、Icebergをサポートする様々なデータ分析ツール(例えば、Apache SparkやTrinoなど)から、既存のツールを大きく変更することなくlakeFS Icebergカタログを利用できるようになる。これは、新しいシステムを導入する際の互換性の確保という点で、システム開発において非常に重要な要素だ。

複数のユーザーやプロセスが同時にカタログにアクセスし、テーブル情報を更新しようとした際の「競合」への対処も考慮されている。PostgreSQLのトランザクション機能と、Go言語で実装された適切なロックメカニズムを組み合わせることで、データの整合性を保ちながら安全に並行処理を可能にしている。例えば、あるユーザーがテーブルのスキーマを変更している最中に、別のユーザーが同じテーブルのファイルを変更しようとした場合でも、システムが適切に処理し、データの破損を防ぐ仕組みが組み込まれている。

このシステムを実際に稼働させるためには、サーバーなどのインフラストラクチャが必要だ。lakeFS Icebergカタログは、コンテナ技術であるKubernetes上で動作するように設計されており、システムのデプロイ(配置)や管理を容易にするためにHelmというツールが利用されている。Kubernetesは、アプリケーションのデプロイ、スケーリング、管理を自動化するためのプラットフォームであり、HelmはKubernetes上のアプリケーションの定義、インストール、アップグレードを簡素化するパッケージマネージャーのようなものだ。これにより、システムを安定して運用し、必要に応じて規模を拡大することが可能になる。

このlakeFS Icebergカタログの構築は、データレイクの運用におけるデータの信頼性と効率性を大きく向上させる重要な取り組みだ。システムエンジニアを目指す上で、データの一貫性やバージョン管理といった重要な概念を理解し、それを具体的な技術要素(PostgreSQL、Go言語、Icebergなど)と組み合わせて解決していくアプローチは、非常に参考になる。データ管理の複雑な課題に対して、既存の技術を組み合わせたり、時には独自の工夫を凝らしたりしながら、堅牢で使いやすいシステムを構築する過程が示されている。これは、データレイクにおける次世代のデータ管理のあり方を示唆する取り組みと言えるだろう。