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【ITニュース解説】Lattice-Based Cryptography: Can It Save Us From Quantum Computers?

2025年09月14日に「Medium」が公開したITニュース「Lattice-Based Cryptography: Can It Save Us From Quantum Computers?」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

量子コンピュータは現在の暗号を容易に解読する可能性がある。これに対抗するため、「ラティスベース暗号」という新しい技術が注目されている。これは、将来のデジタルセキュリティを保護する量子耐性暗号として期待されている。

ITニュース解説

現在のデジタル社会において、インターネット上で安全に情報をやり取りすることは、私たちの日常生活や経済活動の基盤を形成している。銀行取引、オンラインショッピング、機密性の高い業務連絡、個人的なメッセージの交換など、あらゆる場面で情報は暗号化によって保護されている。この暗号技術がなければ、私たちの個人情報は容易に盗み見され、財産やプライバシーは危険に晒されてしまう。

現在広く利用されている暗号技術の多くは、公開鍵暗号方式に基づいている。この方式では、暗号化に使う鍵(公開鍵)と復号に使う鍵(秘密鍵)がペアになっており、公開鍵は誰もが利用できる状態に置かれているが、秘密鍵は本人だけが知っている。代表的な公開鍵暗号であるRSA暗号や楕円曲線暗号は、巨大な数の素因数分解の困難さや、楕円曲線上の離散対数問題の困難さという数学的な問題に安全性の根拠を置いている。これらの数学的問題を従来のコンピュータで効率的に解くことは、事実上不可能であるとされており、これが現在のデジタルセキュリティを支える要となっている。

しかし、この安全性の根拠が、将来的に揺らぐ可能性が指摘されている。その脅威の源が、量子コンピュータの登場である。量子コンピュータは、従来のコンピュータとは根本的に異なる計算原理を持つ。古典的なコンピュータが情報を0か1のビットで表現するのに対し、量子コンピュータは「量子ビット(キュービット)」という単位を用い、0と1の両方の状態を同時に取りうる「重ね合わせ」や、量子ビット間が影響しあう「量子もつれ」といった量子の特性を利用して計算を行う。これにより、特定の問題において、従来のコンピュータでは考えられないほどの高速な計算が可能になると期待されている。

特に、量子コンピュータの持つ計算能力は、現在の公開鍵暗号を危機に陥れる可能性を秘めている。1994年にピーター・ショアによって考案された「ショアのアルゴリズム」は、量子コンピュータを用いることで、現在の暗号技術の安全性の根拠となっている素因数分解問題や離散対数問題を、非常に効率的に解くことができることを示した。もし実用的な大規模量子コンピュータが開発され、ショアのアルゴリズムが実装されれば、現在利用されているRSA暗号や楕円曲線暗号は、もはや安全ではなくなる。これは、私たちの銀行口座の情報、クレジットカード番号、医療記録、企業秘密、国家機密といったあらゆるデジタル情報が、容易に解読されてしまうことを意味する。

このような未来が現実になる前に、私たちは「ポスト量子暗号(PQC:Post-Quantum Cryptography)」と呼ばれる、量子コンピュータの攻撃に耐えうる新しい暗号技術の開発と導入を進める必要がある。現在の暗号システムを新しいものへ移行するには、数十年単位の時間がかかると予想されており、量子コンピュータが実用化される前に、準備を完了させることが極めて重要となる。なぜなら、一度暗号化されたデータは、たとえ現在の時点では安全であっても、将来的に量子コンピュータで解読されてしまう「今すぐ収集し、後で復号する(Store Now, Decrypt Later)」という攻撃の対象になりうるからである。

ポスト量子暗号の有力な候補の一つとして注目されているのが、「格子暗号(Lattice-Based Cryptography)」である。格子暗号は、その名の通り、「格子(Lattice)」と呼ばれる数学的な構造に基づいた暗号方式である。ここでいう格子とは、多次元空間において、規則的に配置された点の集合を指す。例えば、二次元空間で原点から出発して、二つの決められたベクトル(方向と大きさを持つ量)を整数倍して足し合わせることで到達できるすべての点が格子を構成する。三次元、あるいはそれ以上の高次元空間でも同様に考えることができる。

格子暗号の安全性は、格子が持つ特定の数学的な問題の困難さに依存している。最も代表的なのが、「最短ベクトル問題(SVP: Shortest Vector Problem)」や「最近ベクトル問題(CVP: Closest Vector Problem)」と呼ばれる問題である。これらの問題は、格子の中から最も短いベクトルを見つけ出したり、格子上の任意の点から最も近い格子点を見つけ出したりするもので、従来のコンピュータでも、また量子コンピュータでも、効率的に解くことが非常に難しいとされている。つまり、格子暗号は量子コンピュータの攻撃に耐性があると考えられているのだ。

格子暗号には、量子耐性以外にも多くのメリットがある。例えば、比較的高い性能を持つこと、柔軟性が高く様々な暗号プリミティブ(暗号の基本的な構成要素)を構築できること、そして既存のシステムに比較的容易に組み込める可能性があることなどが挙げられる。また、格子暗号は「学習を伴うエラー(LWE: Learning With Errors)」問題のような、ランダムなノイズを含む線形方程式系を解く困難さに基づくものも多く、これは効率的でありながら強力な安全性を実現できるとされている。NTRU暗号やCRYSTALS-Kyber、CRYSTALS-Dilithiumなどが、代表的な格子暗号ベースのスキームとしてNISTのポスト量子暗号標準化プロセスで選定されている。

もちろん、実用化に向けてはいくつかの課題も存在する。例えば、鍵のサイズが従来の暗号方式に比べて大きくなる傾向があること、計算コストが増加する可能性があること、そして実装上の複雑さやサイドチャネル攻撃(暗号処理の際に発生する電力消費や電磁波などから秘密情報を推測する攻撃)への耐性を確保する必要があることなどである。これらの課題に対しては、現在も活発な研究開発が進められており、より効率的で安全な実装方法が模索されている。

米国国立標準技術研究所(NIST)は、来るべき量子コンピュータ時代に備え、ポスト量子暗号の標準化プロジェクトを推進している。このプロジェクトでは、世界中から提案された様々な暗号アルゴリズムが厳密に審査され、その安全性、効率性、実用性などが評価されている。格子暗号は、この標準化プロセスにおいて非常に有望な候補として位置づけられており、いくつかの格子暗号ベースのアルゴリズムが既に標準化の最終段階にあるか、既に一部標準化されている。

このように、格子暗号は、量子コンピュータという未来の脅威から私たちのデジタル情報を守るための鍵となる技術の一つである。その数学的な堅牢さと実用化に向けた研究の進展は、デジタル社会の安全な未来を築く上で不可欠な要素となっている。私たちは、この新しい暗号技術の動向を注視し、その導入に備える必要がある。

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