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NIST(ニスト)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

NIST(ニスト)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

作成日: 更新日:

読み方

日本語表記

米国国立標準技術研究所 (ベイコクコウリツヒョウジュンギジュツケンキュウジョ)

英語表記

NIST (ニスト)

用語解説

NISTは、National Institute of Standards and Technologyの略で、アメリカ国立標準技術研究所と訳される、アメリカ合衆国商務省に属する連邦政府機関である。その主な使命は、測定科学、標準、技術を推進することにより、経済的繁栄と生活の質の向上を支援することにある。一見すると、システムエンジニア(SE)を目指す初心者にとって直接的な関係が薄いように思えるかもしれないが、実は情報技術(IT)とサイバーセキュリティの分野において、NISTが策定する標準やガイドラインは、システム開発や運用に携わるすべてのプロフェッショナルにとって不可欠な知識の源となっている。

NISTの活動は多岐にわたるが、IT分野で特に注目すべきは、情報セキュリティに関する標準とガイドラインの策定である。これは、アメリカ政府機関が利用する情報システムだけでなく、世界中の民間企業や組織の情報セキュリティ対策の事実上の基盤として広く採用されている。NISTが提供するこれらの文書は、中立的な立場から厳密な科学的根拠に基づいて作成されており、その信頼性と実用性が高く評価されているためである。システムエンジニアは、NISTが示す方向性を理解し、それを自身のプロジェクトや組織のセキュリティ戦略に落とし込む能力が求められる。

NISTは、1901年に国立標準局(National Bureau of Standards, NBS)として設立され、その後1988年に現在のNISTに改称された。その歴史を通じて、度量衡の標準化から始まり、物理学、化学、工学、情報技術など、さまざまな分野で国の技術革新と産業競争力向上に貢献してきた。情報技術の分野においては、初期のコンピューティング技術の標準化から、インターネットの普及に伴うサイバーセキュリティの脅威増大への対応に至るまで、常に最前線で技術的な指針を提供し続けている。

NISTの貢献の中でも、システムエンジニアにとって最も重要なのは、情報セキュリティに関する出版物群である「NIST Special Publication 800シリーズ(NIST SP 800シリーズ)」だろう。このシリーズには、情報システムのセキュリティ管理策、リスクアセスメント、インシデント対応、暗号技術など、情報セキュリティのあらゆる側面をカバーする詳細なガイドラインが含まれている。

例えば、「NIST SP 800-53」は、連邦政府の情報システムにおけるセキュリティとプライバシーの管理策を定義している。これは、アクセス制御、監査と説明責任、構成管理、識別と認証、インシデント対応、システムと情報保全など、膨大な数の管理策をカテゴリ分けし、それぞれに詳細な要件と実装指針を示している。企業が情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)を構築する際や、特定の情報システムに対してセキュリティ要件を定義する際に、この800-53は非常に強力なリファレンスとなる。初心者SEが、情報システムが満たすべきセキュリティ要件の全体像を理解し、具体的な対策を検討する上で、この文書は必読と言える。

また、「NIST SP 800-171」は、連邦政府以外の組織が保有する、未分類の管理対象情報(Controlled Unclassified Information, CUI)を保護するための要件を定めている。これは、政府と取引のある民間企業が、政府の機密性の低い情報を扱う際に準拠すべきセキュリティ基準であり、サプライチェーン全体のセキュリティを確保するために極めて重要である。SEは、自社が政府機関と連携する場合や、そのような情報を扱うシステムを設計・構築する際に、このガイドラインの要件を確実に満たす必要がある。

さらに、「NIST SP 800-61」は、コンピュータセキュリティインシデント対応ガイドラインであり、組織がサイバー攻撃やシステム障害などのインシデントに効果的に対応するためのプロセスと体制を詳述している。インシデント対応計画の策定、検知、分析、封じ込め、根絶、復旧といった各フェーズにおける具体的な行動指針が示されており、SEがシステムの運用保守やセキュリティ運用に携わる上で、いざという時の備えとして非常に役立つ。

NISTの取り組みは、特定の技術標準の開発にも及ぶ。過去には、データ暗号化標準(DES)や、その後継である高度暗号化標準(AES)の選定と標準化を通じて、セキュアな通信とデータ保存の基盤を築いてきた。これらの暗号アルゴリズムは、今日のインターネット通信、オンライン取引、クラウドサービスなど、あらゆる場所で利用されており、NISTの関与がなければ、これほどまでに信頼性の高いセキュリティは実現されなかっただろう。

近年では、「NIST Cybersecurity Framework (CSF)」が特に注目されている。これは、組織がサイバーセキュリティのリスクを管理し、全体的なセキュリティ態勢を改善するための枠組みを提供するものである。CSFは、特定(Identify)、保護(Protect)、検知(Detect)、対応(Respond)、復旧(Recover)という5つの主要な機能から構成され、組織が現在のセキュリティレベルを評価し、目標とするセキュリティレベルを設定し、そのギャップを埋めるためのロードマップを作成するのに役立つ。このフレームワークは、技術的な詳細よりも、組織全体のリスク管理とガバナンスに焦点を当てており、経営層と技術者が協力してセキュリティ課題に取り組むための共通言語を提供する。SEがプロジェクトマネージャーやビジネス部門のステークホルダーとセキュリティについて議論する際、CSFの枠組みを用いることで、共通認識を形成しやすくなる。

また、NISTはクラウドコンピューティング、IoT(Internet of Things)、人工知能(AI)といった新しい技術分野においても、標準化の取り組みを進めている。これらの新技術がもたらす新たなセキュリティリスクやプライバシー課題に対応するため、用語の定義、参照アーキテクチャ、セキュリティガイドラインなどを策定し、技術の健全な発展と安全な利用を促進している。SEは、これらの新技術を導入する際にも、NISTが提供するガイドラインを参考にすることで、潜在的なリスクを評価し、適切な対策を講じることが可能となる。

NISTが提供する標準やガイドラインは、法的な拘束力を持つものではない場合が多い。しかし、その内容が高度な専門性と中立性に基づいており、多くの政府機関や業界団体によって推奨されているため、実質的に国際的な標準として機能している。システムエンジニアがキャリアを積む上で、NISTの知識は、単に技術的な要件を理解するだけでなく、情報セキュリティに関する深い洞察と、業界全体のベストプラクティスを理解するための基盤となる。それは、より安全で信頼性の高いシステムを設計し、構築し、運用するための羅針盤であり、変化の激しいIT業界で信頼されるプロフェッショナルとして成長するための重要な要素なのである。

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