【ITニュース解説】When more threads make things worse
2025年09月11日に「Reddit /r/programming」が公開したITニュース「When more threads make things worse」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
プログラムを同時に動かす「スレッド」は、増やせば速くなるとは限らない。スレッドを増やしすぎると、かえってプログラムの処理が遅くなるケースがある。スレッド間の連携やデータの競り合いが原因で、非効率になるためだ。適切なスレッド数を選ぶことが重要。
ITニュース解説
システム開発において、複数の処理を同時に実行する「マルチスレッド」という技術は、プログラムの高速化や応答性の向上に大きく貢献する。しかし、このマルチスレッドを安易に適用したり、スレッド数を増やしすぎたりすると、かえってプログラムの動作が遅くなる場合がある。その理由はいくつかあり、システムのパフォーマンスを理解する上で重要なポイントだ。
まず、CPUが多数のスレッドを切り替える際に発生する「コンテキストスイッチ」のオーバーヘッドが挙げられる。コンピュータのCPUは、同時に実行できる処理の数に限りがある。例えば、CPUが4つのコアを持っている場合、理論的には最大で4つのスレッドを同時に処理できる。もし100個のスレッドを起動した場合、CPUはこれらのスレッドを非常に短い時間ごとに次々と切り替えながら実行することになる。この切り替え作業そのものに、CPUの時間とリソースが消費される。具体的には、あるスレッドの実行状態(レジスタの値やプログラムカウンタなど)を保存し、次に実行するスレッドの状態を読み込むという一連の処理が必要になる。スレッド数が少なければこのオーバーヘッドは小さいが、スレッド数が非常に多くなると、本質的な処理にかかる時間よりも、この切り替えにかかる時間の方が大きくなり、結果的に全体の処理速度が低下する。
次に、CPUの「キャッシュメモリ」の仕組みと、それに関連する問題がある。CPUは、メインメモリからデータを読み込むよりもはるかに高速にアクセスできる「キャッシュメモリ」を持っている。プログラムが頻繁に使うデータはキャッシュメモリに保存され、処理速度を向上させる。しかし、複数のスレッドが同じデータ、あるいはメモリ上で物理的に近い場所にある異なるデータを同時に操作しようとすると、問題が発生することがある。あるスレッドがキャッシュメモリ上のデータを更新すると、他のスレッドが持っている同じデータのキャッシュは「古くなった」と判断され、無効化される。その結果、他のスレッドは最新のデータをメインメモリから再度読み込まなければならなくなる。この「キャッシュの無効化」が頻繁に発生すると、キャッシュメモリを使うメリットが失われ、メインメモリへのアクセスが頻発するため、処理速度が低下する。特に、「偽共有(False Sharing)」と呼ばれる現象は厄介だ。これは、異なるスレッドがそれぞれ異なるデータを扱っているにもかかわらず、それらのデータがたまたま同じキャッシュライン(キャッシュメモリの最小単位)に存在することで、互いのデータ更新が原因でキャッシュが無効化され、パフォーマンスが悪化する現象である。
また、「ロックの競合」も重要な要因だ。複数のスレッドが同時に同じデータやリソース(例えば、共有のデータ構造やファイル)にアクセスして書き換えようとすると、データの整合性が失われる可能性がある。これを防ぐために、「ロック(ミューテックスなど)」と呼ばれる仕組みを使って、一度に一つのスレッドしかそのリソースにアクセスできないようにする。しかし、スレッド数が増えると、多くのスレッドが同時にロックを要求するようになる。すると、ロックを取得できたスレッド以外のスレッドは、ロックが解放されるまで待機しなければならない。この待機時間が長くなると、複数のスレッドが並行して動いているように見えても、実際にはほとんどのスレッドがロック待ちで停止している状態になり、並列処理のメリットがほとんど得られなくなる。ロックの取得や解放自体にもわずかながらオーバーヘッドがあり、その頻度が高まると全体の処理速度を押し下げる原因となる。
さらに、各スレッドが消費する「メモリ使用量の増大」も問題となり得る。プログラム内で新しいスレッドを生成するたびに、そのスレッド専用のスタック領域やその他の管理情報のために、一定量のメモリが割り当てられる。スレッド数が少なければ問題ないが、非常に多くのスレッドを生成すると、システムが利用できるメモリを使い果たしたり、メモリ管理にかかるオーバーヘッドが大きくなったりする。メモリが不足すると、システムはハードディスクを一時的なメモリとして使用する「スワップ」と呼ばれる動作を始め、これが極端な速度低下を引き起こす原因となる。
スレッドの「生成と破棄にかかるオーバーヘッド」も無視できない。スレッドを生成したり、不要になったスレッドを破棄したりする作業には、システムリソースが消費される。特に、非常に短いタスクのために頻繁にスレッドを生成し、そのたびに破棄するような設計では、タスク本来の処理にかかる時間よりも、スレッドの生成と破棄にかかる時間の方が大きくなり、結果として全体の処理効率が低下する。
最後に、処理の「性質」がマルチスレッドの有効性を左右する。プログラムの処理には大きく分けて二つのタイプがある。「CPUバウンド」な処理と「I/Oバウンド」な処理だ。CPUバウンドな処理とは、複雑な計算など、CPUの計算能力がボトルネックになるような処理を指す。このような処理では、CPUのコア数以上のスレッドを増やしても、CPUがすでに限界まで働いているため、パフォーマンスは向上しない。むしろ、先に述べたコンテキストスイッチやキャッシュのオーバーヘッドによって、処理速度が悪化する可能性が高い。一方、I/Oバウンドな処理とは、ファイルへの読み書き、ネットワーク通信、データベースへのアクセスなど、CPUではなく、ディスクやネットワーク機器といったI/Oデバイスの速度がボトルネックになる処理を指す。このような処理では、あるスレッドがI/O処理の完了を待っている間、CPUはアイドル状態になることが多い。そのため、複数のスレッドを生成し、他のスレッドがI/O処理を待っている間に別のスレッドがCPUを使って計算を行う、といった並列処理が可能になり、全体の処理速度が向上しやすい。つまり、闇雲にスレッド数を増やすのではなく、プログラムがどのような処理を行うのか、その性質を理解した上で最適なスレッド数を検討することが重要だ。
これらの理由から、マルチスレッドは常に処理を高速化する技術ではなく、適切に設計し、慎重に実装しなければ、かえってパフォーマンスを悪化させる可能性を秘めている。並列処理のメリットとデメリット、そしてその背後にあるシステムの動作原理を深く理解することが、効率的で安定したシステムを構築する上で不可欠となる。