【ITニュース解説】Nepal lifts social media ban after 19 people were killed during protests
2025年09月09日に「Engadget」が公開したITニュース「Nepal lifts social media ban after 19 people were killed during protests」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
ネパール政府は、国内での登録を義務付ける新法に従わないとしてFacebookなどを禁止。これに反発した若者たちの抗議デモが激化し、多数の死傷者が出たため、政府は禁止を解除した。この混乱を受け首相は辞任した。(117文字)
ITニュース解説
ネパールで政府が一度禁止したFacebookやX(旧Twitter)といったソーシャルメディア(SNS)へのアクセス制限を解除した。この決定の背景には、SNSの利用禁止をきっかけに発生した大規模な抗議デモと、それによって少なくとも19人が死亡するという悲劇的な事態があった。この一連の出来事は、テクノロジー、特にインターネットとSNSが現代社会においていかに重要な役割を担っているか、そしてその利用を巡る国家と市民の対立がどのような結果を招くかを浮き彫りにしている。
まず、国家が特定のウェブサイトやSNSへのアクセスを遮断する、いわゆる「インターネット・シャットダウン」が技術的にどのように行われるかを理解する必要がある。一般的な手法はいくつか存在する。一つは「DNSブロッキング」である。インターネット上の住所録にあたるDNS(ドメイン・ネーム・システム)サーバーに働きかけ、特定のドメイン名(例えば "facebook.com")に対応するIPアドレスを返させないようにする。これにより、ユーザーは目的のサイトにたどり着けなくなる。もう一つは「IPブロッキング」で、特定のIPアドレスへの通信そのものを、国内のインターネットサービスプロバイダ(ISP)が管理するルーターやファイアウォールで遮断する方法だ。さらに高度な手法として「DPI(ディープ・パケット・インスペクション)」がある。これは通信データの中身(パケット)を監視し、特定のアプリケーションやサービスで使われる通信パターンを検出してブロックする技術である。これらの技術は本来、サイバー攻撃からの防御やネットワークのトラフィック管理などに用いられるが、国家による情報統制や検閲の手段としても利用される側面を持つ。
ネパール政府がSNSを遮断した公式な理由は、国内での登録を義務付ける新しい法律にプラットフォーム事業者が従わなかったため、とされている。しかし、この突然の措置に対し、ネパールのジャーナリスト連盟やデジタル権利擁護団体は、政府による情報流通のコントロール、すなわち「言論統制」であると強く批判した。現代社会においてSNSは、単なるコミュニケーションツールにとどまらず、重要な情報源であり、市民が意見を表明し、議論を交わす公共の広場としての機能も果たしている。そのため、政府による一方的なアクセス遮断は、表現の自由や知る権利を侵害する行為と見なされたのである。
政府のSNS遮断措置は、特に「Gen Z」と呼ばれる若い世代の強い反発を招き、全国規模の抗議デモへと発展した。彼らにとってSNSは、生活に不可欠なインフラであり、その利用を奪われることは社会からの断絶を意味した。しかし、デモの根本的な原因はSNSの禁止だけではなかった。若者たちの間には、国のエリート層に蔓延する汚職や、将来への希望が見いだせない経済状況に対する根深い不満が蓄積していた。この不満の炎に油を注いだのが、皮肉にもアクセスが遮断されなかった動画共有プラットフォーム「TikTok」であった。TikTok上では、政治家の子供たちが高級品を身につけ、豪華な旅行を楽しむ様子を撮影した動画が拡散された。一般市民が経済的な困難に苦しむ一方で、特権階級が富を誇示する姿は、社会の不公平さを可視化し、若者たちの怒りを増幅させる結果となった。デモは次第に激化し、首都カトマンズではデモ隊が国会議事堂へ侵入を試み、警察と衝突した。警察は放水銃や警棒、ゴム弾で対抗したが、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは実弾も使用されたと指摘しており、この衝突で多数の死傷者を出す惨事となった。
深刻な事態を受け、ネパール政府はSNSの遮断を解除し、首相は混乱の責任を取る形で辞任した。しかし、政府が譲歩した後も市民の抗議活動は続いている。彼らが求めているのは、単にSNSが使えるようになることだけではなく、汚職のない公正な社会、そして誰もが教育や医療に平等にアクセスできる未来である。この一連の出来事から、システムエンジニアを目指す者として学ぶべき点は多い。第一に、技術は中立であるが、その使われ方次第で社会に絶大な影響を与えるという事実である。インターネットのアクセスを制御する技術は、社会の安定を守るためにも、市民の権利を抑圧するためにも利用されうる。技術者は自らが関わる技術の社会的意味を常に意識する必要がある。第二に、SNSのような情報プラットフォームの「可用性」、つまりいつでも安定して利用できる状態がいかに重要かということだ。システムの停止が、単なるサービスの不便にとどまらず、社会的な混乱や人権問題にまで発展しうることをこの事件は示している。そして第三に、ITが社会問題を映し出す鏡の役割を果たす点である。TikTokの動画が格差を可視化したように、テクノロジーは時に社会の歪みを浮き彫りにし、変革のきっかけを生み出す力を持っている。
ネパールでのSNS遮断とそれに続く混乱は、インターネットが現代国家における重要な社会基盤であり、その自由な利用が市民の基本的な権利と密接に結びついていることを改めて示した。政府による情報統制の試みが、かえって市民の強い反発を招き、政治体制を揺るがす事態にまで発展したこの事例は、情報化社会における権力と市民の関係性を象徴している。システムエンジニアは、単にシステムを構築・運用するだけでなく、自らの技術が社会の中でどのような役割を果たし、人々の生活にどのような影響を与えるのかを深く洞察する視点を持つことが、今後ますます重要になるだろう。