【ITニュース解説】When Observability Cookies Become Performance Killers: A Tale of Unintended Consequences
2025年09月12日に「Medium」が公開したITニュース「When Observability Cookies Become Performance Killers: A Tale of Unintended Consequences」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
システムの可観測性を高めるために導入したクッキーが、意図せずパフォーマンスを低下させることがある。特にロードバランサーが利用するクッキーは、見えにくいコストが原因で予期せぬ性能問題を引き起こす場合があり、システム設計時にはその影響を考慮する必要がある。
ITニュース解説
ウェブサイトやアプリケーションを安定して高速に提供するため、システムは様々な技術で構成されている。その中で、一見するとシステムの利便性や監視のために導入された技術が、意図せずパフォーマンスを低下させる「隠れたコスト」となる場合がある。特に、ロードバランサーが発行するクッキーと、システムの可観測性を高めるための仕組みが相互に作用し、性能問題を引き起こすケースがあるのだ。
まず、ロードバランサーの役割について理解しておく必要がある。ロードバランサーとは、ウェブサイトやサービスへの膨大なアクセス要求を、複数のサーバーに均等に振り分ける装置のことだ。これにより、一つのサーバーに負荷が集中するのを防ぎ、システム全体の処理能力を高め、また、万が一どれか一つのサーバーが故障しても、他のサーバーが処理を継続することでサービスが停止しないようにする、といった重要な役割を担っている。
次に、「セッション」と「スティッキーセッション」、そして「クッキー」の関係について説明する。ユーザーがウェブサイトを利用する際、ログイン状態やショッピングカートの中身など、一連の操作は「セッション」として管理される。通常、このセッション情報は、ユーザーがアクセスしている特定のサーバーに保存されていることが多い。もしロードバランサーがユーザーの次のリクエストを別のサーバーに振り分けてしまうと、セッション情報が失われ、ユーザーはログインし直したり、カートの中身が空になったりする可能性がある。このような不便を防ぐために「スティッキーセッション」という技術が使われる。これは、特定のユーザーからの連続したリクエストを、常に同じバックエンドサーバーに送るようにする仕組みだ。スティッキーセッションを実現する一般的な方法の一つが「クッキー」の利用である。ロードバランサーは、ユーザーが最初にアクセスした際に、そのユーザーを識別し、どのサーバーに接続すべきかを示す情報を「クッキー」としてユーザーのブラウザに送る。次回以降、ブラウザがサーバーにリクエストを送る際にはこのクッキーも一緒に送られ、ロードバランサーはその情報を見て、前回と同じサーバーにリクエストを誘導するのだ。
そして、現代のシステム開発において重要視されている概念に「可観測性(Observability)」がある。システムが大規模化・複雑化し、多数の小さなサービス(マイクロサービス)が連携して動作するようになると、どこで問題が発生しているのか、その原因は何かを把握することが非常に難しくなる。可観測性とは、システムが外部に吐き出すデータ(ログ、メトリクス、トレースなど)を分析することで、システム内部の状態を深く理解し、その振る舞いや問題の原因を特定できるようにする能力を指す。この可観測性を高めるために、様々な監視ツールや仕組みが導入される。
しかし、ここにパフォーマンス問題の落とし穴が潜んでいる。多くのロードバランサーや、その周辺に配置されるAPIゲートウェイ、監視ツールなどは、システムの健全性チェックや可観測性向上の目的で、ユーザーのリクエストやレスポンスに独自の情報を追加することがある。特に、前述のスティッキーセッションのためのクッキーとは別に、ロードバランサー自身がバックエンドサービスの状態を追跡したり、リクエストを特定のログコレクターに誘導したりするために、さらに追加のクッキーを挿入することがあるのだ。
この結果、ユーザーのブラウザに送り返されるHTTPレスポンスには、アプリケーション本来の機能に必要なクッキーに加え、ロードバランサーや監視ツールが挿入した複数の「可観測性クッキー」が含まれるようになる。すると、ブラウザが次にサーバーへリクエストを送る際、これらの追加されたクッキーも含めてHTTPリクエストヘッダーに格納し、サーバーへ送信する。これにより、HTTPリクエストヘッダー全体のサイズが肥大化してしまうのだ。
HTTPリクエストはネットワークを通じて送信されるが、ネットワークには一度に送れるデータの最大サイズ「MTU(Maximum Transmission Unit)」という制約がある。このMTUは、ネットワーク上で効率的にデータを転送するための重要な基準だ。もしHTTPヘッダーのサイズがMTUを超えてしまうと、データは一つのまとまりとして送ることができず、複数の小さな「パケット」に分割(フラグメンテーション)されて送られることになる。
このフラグメンテーションは、ネットワーク通信の効率を大きく低下させる。具体的には、以下のような悪影響を引き起こす。
まず、ネットワーク帯域の無駄遣いだ。同じ情報量であっても、データが分割されれば、それを包むためのヘッダー情報(パケットヘッダー)が各パケットに付加されるため、全体としてより多くのパケットが必要となり、ネットワークの帯域を余分に消費してしまう。
次に、レイテンシ(遅延)の増加だ。パケットが細かく分割されて送られると、送信元から受信元へデータが完全に届くまでに時間がかかる。これはユーザーが体感する通信速度の遅延に直結する。さらに、途中でパケットが一つでも失われた場合、受信側は全てのパケットが揃うまで待機し、失われたパケットの再送要求を行う必要があるため、さらに遅延が増大する。
最後に、処理負荷の増大も無視できない。サーバーやルーター、ファイアウォールといったネットワーク機器は、分割されて届いた複数のパケットを適切に処理し、元のまとまったデータに再構築するために、余分なCPUリソースやメモリを消費することになる。これは、システムの応答速度全体に悪影響を与え、サービス提供能力を低下させる可能性がある。
このように、システムの可観測性を高め、利便性を追求するために導入されたロードバランサーのクッキーが、意図せずしてHTTPヘッダーの肥大化を招き、結果としてネットワーク効率の低下やシステムの応答遅延といった深刻なパフォーマンス問題を引き起こすことがある。システムエンジニアは、一見すると無害に見えるこれらの技術的な要素が、複雑なシステム環境下でどのように相互作用し、全体に影響を与えるのかを深く理解し、常に隠れたコストに注意を払う必要がある。パフォーマンスと可観測性は、適切にバランスを取りながら実装されるべき重要な要素なのだ。