【ITニュース解説】What happens during startup?

2025年08月30日に「Hacker News」が公開したITニュース「What happens during startup?」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

作成日: 更新日:

ITニュース概要

PCの電源を入れると、まずハードウェアをチェックし、OSを起動するプログラムを読み込む。次にOSの核となるカーネルが起動し、必要なドライバやサービスを準備。最後にログイン画面が表示され、操作可能になる。これが起動の一連の流れだ。

出典: What happens during startup? | Hacker News公開日:

ITニュース解説

コンピュータの電源ボタンを押してから、アプリケーションが利用可能になるまでの時間は、ユーザーにとっては単なる待ち時間であるが、その背後では極めて複雑で緻密なプロセスが実行されている。この一連の流れは「起動」または「スタートアップ」と呼ばれ、ハードウェアとソフトウェアが連携してシステムを稼働状態へと導く重要なシーケンスである。システムエンジニアを目指す上で、この基本的な仕組みを理解することは、システムの安定性やセキュリティ、トラブルシューティング能力の基礎を築く上で不可欠である。

コンピュータの起動は、電源が供給された瞬間に始まる。マザーボード上のチップセットに電力が供給されると、まずCPUがリセットされ、あらかじめ定められたメモリ番地にあるプログラムを読み込もうとする。このプログラムが、マザーボード上のROMチップに格納されているBIOS(Basic Input/Output System)またはUEFI(Unified Extensible Firmware Interface)と呼ばれるファームウェアである。同時に、POST(Power-On Self-Test)と呼ばれる自己診断プロセスが実行される。POSTは、CPU、メモリ、グラフィックカード、ストレージといった、システムの根幹をなすハードウェアコンポーネントが物理的に接続され、正常に機能するかをチェックする。この段階で問題が検出されると、ビープ音や画面上のエラーメッセージでユーザーに異常を知らせる。

POSTが正常に完了すると、BIOS/UEFIが本格的に動作を開始する。BIOSは古くから存在する規格であり、ハードウェアの基本的な制御と、OSをどこから読み込むかというブートデバイスの順序を決定する役割を担う。一方、UEFIはBIOSの後継規格であり、より高速な起動、2テラバイトを超える大容量ディスクのサポート、マウス操作が可能なグラフィカルな設定画面、そして「セキュアブート」といった高度なセキュリティ機能を提供する。セキュアブートは、OSのブートローダーが信頼できる発行元によってデジタル署名されている場合にのみ起動を許可する仕組みで、起動プロセスにおけるマルウェアの介入を防止する。BIOS/UEFIはこれらの初期化処理を終えると、設定された優先順位に従って起動デバイス(SSDやHDDなど)を探しに行く。

起動デバイスが見つかると、BIOS/UEFIはそのデバイスの特定の領域、伝統的にはマスターブートレコード(MBR)、現代のシステムではGUIDパーティションテーブル(GPT)から、「ブートローダー」と呼ばれる小さなプログラムをメモリに読み込んで実行する。ブートローダーの主な役割は、ストレージデバイス上に存在するオペレーティングシステム(OS)の本体である「カーネル」を見つけ出し、それをメモリに展開して実行の準備を整えることである。Windowsでは「Windows Boot Manager」、Linuxディストリビューションでは「GRUB(GRand Unified Bootloader)」などが代表的なブートローダーとして知られている。マルチブート環境では、このブートローダーがユーザーにどのOSを起動するかを選択させるメニュー画面を表示する機能も持つ。

ブートローダーから制御を引き継いだOSカーネルは、起動プロセスの中心的な役割を担う。カーネルはOSの心臓部であり、ハードウェアリソースの管理、プロセスのスケジューリング、メモリ管理など、システムの最も基本的な機能を一手に引き受ける。カーネルはまず、自身の機能を完全に動作させるために必要な初期化処理を行う。これには、CPUの動作モードの確定、仮想メモリシステムのセットアップ、そして接続されている全てのハードウェアデバイスを認識し、管理下に置く作業が含まれる。この段階で、システムはハードウェアを抽象化し、ソフトウェアが統一的なインターフェースでハードウェアを扱えるように準備を整える。

カーネルの初期化が完了すると、次に各ハードウェアデバイスを具体的に制御するための「デバイスドライバ」がメモリに読み込まれる。グラフィックカード、ネットワークインターフェース、サウンドカード、USBポートなど、コンピュータに接続されたあらゆる機器は、それぞれ専用のデバイスドライバを必要とする。これらのドライバが正しく読み込まれることで、OSはハードウェアの機能を最大限に活用できるようになる。ドライバの読み込みと並行して、OSの基本的な機能を提供する「システムサービス」や「デーモン」と呼ばれるバックグラウンドプロセスが次々と起動する。これには、ネットワーク接続を管理するサービス、ファイルシステムを監視するサービス、システムの時刻を同期するサービスなどが含まれ、OSが多機能なプラットフォームとして動作するための土台を形成する。

すべての基本的なサービスが起動し、システムが安定すると、いよいよユーザーが直接操作するためのインターフェースが起動する。多くの現代的なOSでは、これはグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を管理するプロセスであり、最終的にログイン画面が表示される。ユーザーがパスワードなどを入力して認証に成功すると、そのユーザー固有のプロファイル、デスクトップ設定、スタートアップアプリケーションなどが読み込まれ、ようやくコンピュータが完全に利用可能な状態となる。

近年のシステム、特にApple Siliconを搭載したMacのような統合型プラットフォームでは、この起動プロセスがさらに高度化し、セキュリティが強化されている。電源投入直後に実行されるBoot ROMは、次の段階のブートローダーであるLLB(Low-Level Bootloader)のデジタル署名を検証する。LLBはさらに次のiBootの署名を検証し、iBootはOSカーネルの署名を検証する。このように、起動の各段階が前の段階の正当性を暗号技術によって検証する連鎖的な仕組み(Chain of Trust)が構築されており、システム全体が信頼できるコードのみで実行されることを保証している。この厳格なプロセスにより、ルートキットのような低レベルで動作するマルウェアの侵入を極めて困難にしている。

以上のように、コンピュータの起動プロセスは、電源投入という物理的なアクションから、OSが提供する高度なユーザー環境が整うまで、ハードウェアとソフトウェアが階層的に連携し合う一連のステップで構成されている。この流れを把握することは、システムがどのように動作しているかを根本から理解する第一歩であり、将来的に発生するかもしれない様々な問題に対処するための重要な知識となる。