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【ITニュース解説】From Word Predictor to Thinking Partner: The Rise of Thinking Models

2025年09月14日に「Dev.to」が公開したITニュース「From Word Predictor to Thinking Partner: The Rise of Thinking Models」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

Thinking Modelは、従来のLLMが苦手だった複雑な推論問題を解決するため、答えだけでなく思考過程を段階的に示すAIだ。これにより、回答の信頼性が高まり、数学やコーディングなど多段階の問題解決能力が向上する。処理速度やコストは増える。

ITニュース解説

大規模言語モデル(LLM)の分野で「思考モデル」という言葉が注目を集めている。これは単に「モデルが実際に考えている」という意味ではない。より正確には、思考しているように見せるのが非常に得意なモデルだと解釈できる。

従来のLLMは、次の単語を予測することに非常に優れており、流暢な文章を作り出すことが得意であった。しかし、複雑な推論問題に直面すると、時には的外れな、あるいは意味不明な回答をしてしまうことがあった。例えば、友人にラーメンのレシピを尋ねたのに、「もしメイン州を訪れるなら、素晴らしいロブスターラーメンの店がある…」といった、質問とは関係ない話が始まってしまうような状態である。

思考モデルの基本的な考え方はシンプルで、単に答えを出すだけでなく、その答えに至るまでの推論の過程を示すことにある。これにより、LLMの持つ流暢な文章生成能力はそのままに、推論能力の弱点を克服しようとしている。

思考モデルの目的は、流暢なテキスト生成は得意だが、推論には不安定さがあるLLMの課題を解決することだ。解答だけでなく、その過程を一歩ずつ示すことで、信頼性や一貫性が向上し、複数の段階を要する問題の解決能力が高まる。思考モデルは、質問への答えだけでなく、その導出過程をテキスト形式で生成する。これは「答えは知っている」という状態と、「これがデータで、これが私の推論、したがってこれが答えである」という状態の違いに相当する。この違いが、モデルの出力の信頼性と一貫性を大きく向上させる。

具体的な例として、「ジョンはリンゴを3つ持っていて、2つ食べた。いくつ残っているか?」という問題で考えてみよう。従来のLLMは「1」と答えるかもしれないが、文脈上最も可能性が高いように見える単語を推測しているだけで、誤って「2」と答えることもあり得る。しかし思考モデルは、「ジョンは3つのリンゴから始めた→2つ食べた→1つ残った」という推論過程をまず書き出し、それから最終的な答えを出す。これは学校で、答えだけでなく計算過程も書いた生徒の方が信頼されるのと同じ原理である。

思考モデルは、いくつかの重要な進展から生まれた。一つは「思考連鎖プロンプト(Chain-of-Thought prompting)」と呼ばれる手法だ。「段階的に考えよう」といった指示をモデルに与えることで、モデルは答えの前に中間的な推論を生成し、精度が大幅に向上することが分かった。次に、「フィードバックによる強化学習(RLHF/RLAIF)」という手法がある。これは、モデルが単に正しい最終的な答えを出すだけでなく、クリーンで論理的な推論を生成した場合に報酬を与えることで学習を促すものだ。また、言語の流暢さが当たり前になるにつれて、研究者たちは数学、論理パズル、科学的推論のような、より難しいテストを必要とするようになり、思考モデルはその要求に応える形で発展した。

思考モデルには長所と短所がある。長所としては、数学、論理、プログラミングなどの多段階問題解決に強いこと、推論過程を確認できるため信頼性が高いこと、そして不正確な情報を生成する「幻覚現象」を起こしにくいことが挙げられる。一方、短所としては、推論ステップを生成するためにより多くのテキスト(トークン)が必要となり、処理が遅くなること、計算リソースが多く必要となるためコストが高くなること、そして完璧に論理的な推論過程であっても、その推論自体が完全に間違っている可能性もあることだ。例えば、自信満々な生徒が「2+2=5」と説明するようなケースもあり得る。したがって、簡単なタスク(メール作成、要約、翻訳など)には標準のLLMの方が高速で適しているが、コードのデバッグ、科学的分析、数学的証明などの高度な推論が求められる場面では、思考モデルがその真価を発揮する。

思考モデルの学習方法にはいくつかの手法がある。一つは前述の「思考連鎖プロンプト」で、プロンプトに「段階的に解決しよう」といったフレーズを追加するだけで、モデルが学習時に見てきた人間の推論ステップを思い出すように促すものだ。この方法は大規模なモデルや難しい問題でより効果を発揮する。もう一つは「教師ありファインチューニング(Supervised Fine-Tuning)」で、(質問、推論、答え)の組で構成されるデータセットを使ってモデルを学習させる。しかし、このようなデータセットの作成は手間がかかり、他の問題に応用しにくい場合がある。さらに、「強化学習」では、複数の推論候補を生成させ、人間または別のモデルが最も良いものを選び、その推論に対して報酬を与えることでモデルを学習させる。しかし、「良い推論」の定義は主観的でコストもかかる。最後に「蒸留(Distillation)」という方法があり、大規模なモデルが生成した推論過程を、より小さく、実行コストの低いモデルに学習させる。この方法には、教師となる大規模モデルが間違いを犯した場合、生徒である小規模モデルがそれを引き継ぐリスクがある。実際には、これらの方法は通常、プロンプト、ファインチューニング、強化学習、蒸留といったように組み合わせて使用される。

思考モデルの評価は、従来のLLMとは異なる視点が必要だ。最終的な答えが正しいかだけでなく、その答えに至る過程も評価しなければならない。主な評価項目は以下の通りである。

まず「解答の正確性」は、最も基本的な指標であり、モデルが最終的な答えを正しく出したかどうかを測る。数学の問題で正しい数字を出したか、コーディングチャレンジで正しい結果を出したかなどがこれにあたる。しかし、正確性だけでは不十分な場合がある。モデルが完全に意味不明な推論過程を生成しても、偶然にも正しい答えにたどり着く可能性があるからだ。

次に「推論の一貫性」である。思考モデルが推論過程を示す以上、その推論が論理的に首尾一貫しているかを確認する必要がある。各ステップが前のステップから論理的に導かれているか、同じ問題を複数回尋ねたときに推論が一貫しているかなどが評価される。例えば、「ジョンは3つのリンゴを持っていた→2つ食べた→1つ残った」という推論は一貫しているが、「ジョンは3つ持っていた→2つ食べた→なぜか2つ残った」となれば内部矛盾がある。この評価は自然言語で表現されるため難しいが、ルールベースのチェックや、別のLLMを評価者として使用するアプローチがある。

「忠実性」は、推論プロセスが事実に基づいているかどうかを測る指標だ。歴史の問題を解く際に、推論自体は論理的に見えても、「第二次世界大戦は1990年に起こった」と事実と異なる記述があれば、その答えは信頼できないものとなる。事実の正確性を確認することは難しく、構造化された知識源との比較、外部のファクトチェックツールの利用、あるいはLLMを評価者として活用するといった方法がある。

「真の推論かパターン模倣か」という点も重要だ。モデルが本当に推論しているのか、それとも単に既存のパターンを模倣しているだけなのかという深い疑問がある。時には、推論のように見える一般的なステップを繋ぎ合わせるだけで、実際の解答には貢献していない場合がある。これをテストするために、研究者たちは「トラップ問題」を使用し、条件を少し変えたときに推論が適切に変化するか、各ステップが最終結果に意味のある影響を与えているかを確認する。

思考モデルは多段階推論タスクで特に強みを発揮するため、「多段階推論ベンチマーク」が開発されている。MATH、GSM8Kのような数学データセット、ScienceQAのような科学的推論、LogiQA、ARC Challengeのような論理パズルなどがこれにあたる。これらのベンチマークでは、思考モデルは標準のLLMに比べてはるかに大きな性能差を示す傾向がある。

最後に、「人間による評価」も重要だ。現実世界では、ユーザーは答えだけでなく、その理由を知りたいと考えることが多い。そのため、推論が分かりやすいか、簡潔でありながらも薄っぺらくないか、ユーザーが信頼できる証拠を提供しているかなどが評価される。人間による評価はコストが高く、標準化が難しいが、LLMを評価者として利用するなどの自動化手法と組み合わせて活用されている。

これらの評価項目を総合的に見ると、思考モデルの評価は「答えが合っているか」だけでなく、「答えが合っていて、かつ適切な方法で推論したか」という考え方の転換を要求する。これは、正解だけでなく、解答に至るまでの思考過程も評価する、現実の人間に対する評価と似ている。

結論として、思考モデルはLLMを単なる自動補完の域を超えさせるものだ。単に最終的な答えを出すのではなく、思考プロセスを段階的に示す。リソースを多く消費し、まだ完璧ではないが、より強力な推論能力、高い信頼性、そして複雑なタスクでの優れたパフォーマンスを提供する。これは、「答えのみのAI」から「仕事の過程を示すAI」への移行を意味する。従来のLLMが最終的な答えだけを書く学生だとすれば、思考モデルはホワイトボードに解決のステップを詳細に書き出す学生だと言える。そして、特に重要な場面では、後者の方が圧倒的に好ましいと言えるだろう。

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