【ITニュース解説】Uberがマイクロサービスと大規模計算ワークロードのための大規模なKubernetes移行を完了

2025年09月09日に「InfoQ」が公開したITニュース「Uberがマイクロサービスと大規模計算ワークロードのための大規模なKubernetes移行を完了」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

配車サービスのUberが、コンテナ管理基盤をApache MesosからKubernetesへ大規模移行した。数千のマイクロサービスと大規模な計算処理を、複数のデータセンターやクラウドにまたがって動かす複雑なプロジェクトを完了させた。

ITニュース解説

ライドシェアサービス大手のUberが、自社のサービスを支える巨大なIT基盤システムを、従来の「Apache Mesos」という技術から「Kubernetes」へと全面的に移行させる大規模なプロジェクトを完了した。このニュースは、現代のWebサービスが、いかに複雑で大規模なシステムの上で動いているか、そしてその基盤技術がどのように進化しているかを示す重要な事例である。

まず、この移行の核心であるKubernetesについて理解する必要がある。現代のアプリケーション開発では、「コンテナ」という技術が広く利用されている。これは、アプリケーションを動かすために必要なプログラムやライブラリ、設定ファイルなどを一つの「箱」にまとめ、どんな環境でも同じように動かせるようにする技術だ。しかし、Uberのように何千ものサービスを動かす場合、このコンテナを一つ一つ手動でサーバーに配置し、管理するのは現実的ではない。そこで登場するのが「コンテナオーケストレーションシステム」である。これは、多数のコンテナを自動的に管理する司令塔の役割を担う。具体的には、どのサーバーにどのコンテナを配置するかを最適に決定したり、コンテナやサーバーに障害が発生した際に自動で別の場所でコンテナを起動し直したりすることで、システム全体を安定稼働させる。Uberがこれまで使っていたApache Mesosも、そして今回移行したKubernetesも、このコンテナオーケストレーションシステムの一種だ。

では、なぜUberはMesosからKubernetesへ移行する必要があったのだろうか。その最大の理由は、Kubernetesが現在、この分野における事実上の業界標準(デファクトスタンダード)となっているからである。Googleによって開発されたKubernetesは、現在では多くの企業が参加するオープンソースプロジェクトとして発展しており、世界中の開発者によって機能の追加や改善が活発に行われている。そのため、関連するツールや情報が豊富に存在し、問題が発生した際の解決策も見つけやすい。また、Kubernetesを扱えるエンジニアの数も多く、採用や育成の面でも有利になる。Uberは、こうした技術的な将来性や、活発なコミュニティが作り出す豊かなエコシステムを考慮し、長期的な視点でKubernetesへの移行を決断したと考えられる。

今回の移行対象となったのは、Uberのサービスを構成する「数千のマイクロサービス」と「大規模計算ワークロード」であった。マイクロサービスとは、一つの巨大なアプリケーションを構築するのではなく、機能ごとに独立した小さなサービスの集合体としてシステムを構築する設計手法を指す。例えば、ユーザーのログインを処理するサービス、配車をマッチングさせるサービス、料金を計算するサービスなどが、それぞれ別のプログラムとして開発・運用される。この手法は、機能ごとの開発や修正がしやすくなるという利点があるが、一方で管理すべきサービスの数が爆発的に増えるという複雑さも伴う。また、大規模計算ワークロードとは、膨大な移動データから最適な配車ルートを計算したり、AIを用いて将来の需要を予測したりするような、非常に高い計算能力を必要とする処理のことである。Uberのビジネスの根幹を支えるこれらの膨大な数のサービスと、重い計算処理を、新しい基盤であるKubernetes上で、以前と変わらず、あるいはそれ以上に安定して動かすことが、このプロジェクトの大きな目標だった。

このような大規模なシステムの移行は、決して簡単な道のりではなかった。最大の課題は、24時間365日稼働し続けるサービスを一度も止めることなく、古いシステムから新しいシステムへと切り替えることであった。これは、飛行中の航空機のエンジンを交換するような難易度の高い作業に例えられる。Uberのエンジニアチームは、この課題を克服するために、移行プロセスを自動化するための独自のツールを開発し、人為的なミスを減らしながら効率的に作業を進められるようにした。また、一度に全てのシステムを移行するのではなく、サービスをいくつかのグループに分け、少しずつ段階的に移行させる戦略を取った。これにより、万が一問題が発生しても影響を最小限に食い止め、原因の特定を容易にすることができた。この過程で得られた知見や課題解決のノウハウは、Uberの技術ブログで詳細に公開されており、同様の課題に直面する他の企業やエンジニアにとって非常に価値のある情報となっている。

Uberによるこの大規模移行の成功は、Kubernetesという技術が、世界最大級のトラフィックを扱うサービスの基盤としても十分に耐えうる成熟度と信頼性を備えていることを世界に証明した。システムエンジニアを目指す者にとって、このニュースは単なる技術の入れ替えの話ではない。なぜ新しい技術が選ばれるのかという技術選定の背景、巨大なシステムを無停止で移行するためにはどのような計画と工夫が必要なのかというプロジェクト管理の実際、そして、企業が得た技術的な知見をコミュニティに共有することの重要性など、多くの学びを与えてくれる。現代のITインフラを支える中核技術としてのKubernetesの役割を理解することは、これからのシステム開発において不可欠な知識となるだろう。

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