キャリアグレードNAT (キャリアグレードナット) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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キャリアグレードNAT (キャリアグレードナット) の読み方

日本語表記

キャリアグレードNAT (キャリアグレードNAT)

英語表記

Carrier-grade NAT (キャリアグレードNAT)

キャリアグレードNAT (キャリアグレードナット) の意味や用語解説

キャリアグレードNAT(CGN)は、インターネットサービスプロバイダ(ISP)がIPv4アドレス枯渇問題に対処するために導入する、大規模なネットワークアドレス変換(NAT)技術である。インターネットの急速な普及に伴い、利用可能なIPv4アドレスが不足し、新たなユーザーやデバイスがインターネットに接続できなくなるという懸念が生じた。CGNは、この状況を緩和し、既存のIPv4アドレスをより多くのユーザーで共有可能にするための解決策の一つとして利用されている。 この技術は、一般的な家庭用ルーターに搭載されているNAT機能の規模を大幅に拡張したもので、ISP側で数万から数百万もの契約者からのトラフィックを処理できるように設計されている。具体的には、ISPのネットワーク内で契約者にはプライベートIPアドレスを割り当て、そのプライベートIPアドレスからインターネットへのアクセス時に、CGNデバイスが少数のグローバルIPアドレスに変換して外部へ通信を行う。これにより、ISPは限られたグローバルIPv4アドレス資源を効率的に多くの契約者で共有できる。 詳細を説明する。インターネットの基盤であるIPv4アドレスは、約43億個という限られた数しか存在しない。インターネットが世界規模で普及し、スマートフォンやIoTデバイスなど、接続される機器が爆発的に増加した結果、このアドレス空間は枯渇寸前となり、新規のアドレス割り当てが困難になった。キャリアグレードNATは、このような状況下で、既存のIPv4アドレスインフラを最大限に活用し続けるための暫定的な手段として導入された。 CGNの基本的な仕組みは、家庭や企業のルーターで行われるNAT(特にNAPT、ネットワークアドレスポート変換)と似ているが、その規模と設置場所が大きく異なる。通常の家庭では、ルーターが家庭内の複数のデバイス(パソコン、スマートフォンなど)にプライベートIPアドレスを割り当て、それらの通信をルーター自身の持つ一つのグローバルIPアドレスに変換してインターネットへ送出する。CGNの場合、この変換がさらに一段階加わる。つまり、契約者のルーターが家庭内のプライベートIPアドレスをISPから割り当てられたプライベートIPアドレス(ISP内の広大なプライベートアドレス空間の一部)に変換し、さらにISPのCGNデバイスが、そのISP内のプライベートIPアドレスを、外部と通信するための共有グローバルIPアドレスに変換する。このため、契約者から見ると「二重NAT」または「多重NAT」の状態となる。 この二重NATは、IPv4アドレスの有効活用という点で大きなメリットがある一方で、いくつかの課題も生じさせる。最も顕著な課題は、外部からの特定の通信が困難になる点である。例えば、オンラインゲームの一部やP2Pアプリケーション、VPN接続、あるいは自宅のサーバーを外部に公開するといった用途では、特定のポートを開放する「ポートフォワーディング」の設定が必須となることが多い。しかし、CGN環境下では、共有グローバルIPアドレスの背後に多数のユーザーが存在するため、ユーザー自身がポートフォワーディング設定を行っても、ISPのCGNデバイスでさらにNATが行われるため、意図した通信が到達しない、あるいは非常に複雑な設定が必要となる場合がある。これにより、ユーザーは外部からの通信が遮断され、サービスの利用に支障をきたす可能性がある。 また、CGNはセキュリティやトレーサビリティの面でも課題を抱える。複数のユーザーが同じグローバルIPアドレスを共有してインターネットにアクセスするため、特定のサイバー攻撃や不正アクセスが行われた場合、ログを解析して実際に通信を行った個別のユーザーを特定することが難しくなる。ISPは、法執行機関からの情報開示要求に対応するため、CGNデバイスの膨大な通信ログを詳細に記録・管理する必要があり、そのためのコストや技術的な負担が増大する。これは、IPアドレスが「誰がどこからアクセスしたか」を特定する重要な手がかりとなるインターネットの原則に反する側面を持つ。 CGNを運用するISPは、膨大な数のセッション(通信接続)を同時に処理する必要があるため、非常に高性能なハードウェアと、詳細な状態管理が可能なソフトウェアを導入しなければならない。これにより、設備投資コストが増加する。さらに、CGNの導入は、インターネットの「エンドツーエンドの原則」を損なう側面も持つ。エンドツーエンドの原則とは、ネットワークの末端にあるホスト同士が直接通信できることを指し、NATはその原則を破るものと考えられている。CGNはその度合いをさらに強めるため、新たなサービス開発やアプリケーションの互換性に影響を与える可能性も指摘される。 キャリアグレードNATは、あくまでIPv4アドレス枯渇に対する一時的な対処策であり、根本的な解決策ではない。インターネットの未来を見据えた根本的な解決策は、IPv6への全面的な移行である。IPv6は、IPv4の約43億個に対し、ほぼ無限ともいえる膨大なアドレス空間(約3.4×10^38個)を提供し、NATを必要としないエンドツーエンドの通信を再び可能にする。多くのISPは、CGNを導入しつつ、並行してIPv6への移行を進めており、デュアルスタック(IPv4とIPv6の両方で通信可能)やNAT64/46といった移行技術も活用しながら、長期的な視点でインターネットの基盤を整備している。CGNは、IPv6への移行が完了するまでの期間、既存のIPv4環境を維持し、ユーザーにインターネット接続を提供し続けるための重要な役割を担っていると言える。しかし、その特性を理解し、将来的なIPv6への移行が不可欠であることを認識しておく必要がある。

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