基幹スイッチ (キカン スイッチ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
基幹スイッチ (キカン スイッチ) の読み方
日本語表記
きかんスイッチ (キカン スイッチ)
英語表記
Core switch (コアスイッチ)
基幹スイッチ (キカン スイッチ) の意味や用語解説
基幹スイッチは、大規模な企業ネットワークやデータセンターにおいて、その名の通り「基幹」を担う、極めて重要なネットワーク機器である。ネットワーク全体の通信を支える中心的な存在であり、多数の通信を集約し、高速かつ安定して転送する役割を持つ。 ネットワークが巨大化し、多数の部門やシステムが接続される現代において、基幹スイッチはネットワークの心臓部として機能する。例えば、数千台のPCやサーバー、各種ネットワーク機器が接続された環境では、それらの間で行き交う膨大なデータを効率的に処理する必要がある。基幹スイッチは、そうした大量のトラフィックを複数の集約スイッチから受け取り、他の集約スイッチや上位のインターネット接続回線、あるいはデータセンター内の異なる区画へ、適切な経路で転送する。このため、ネットワーク全体のパフォーマンスや安定性は、基幹スイッチの性能と信頼性に直接左右されると言っても過言ではない。 基幹スイッチの最も顕著な特徴は、その圧倒的な処理能力と信頼性にある。一般的なアクセススイッチが多数の端末をネットワークに接続する役割を担うのに対し、基幹スイッチは、集約スイッチから集められたデータをさらに高レベルで集約し、ルーティングを行う。これは、ネットワークの階層構造における「コア層」に位置付けられ、ネットワーク全体のバックボーンとして機能することを意味する。コア層は、すべてのトラフィックが通過する最も重要な部分であるため、一切のボトルネックを生じさせず、かつ障害が起こりにくい設計が求められる。 具体的に、基幹スイッチには以下のような機能と性能が要求される。まず、非常に高いフォワーディングレートとバックプレーン容量が必要不可欠である。フォワーディングレートとは、スイッチが単位時間あたりに処理できるパケット数を指し、バックプレーン容量は、スイッチ内部の各ポート間でデータを転送できる総帯域幅を示す。基幹スイッチは、多数のギガビットイーサネットやテンギガビットイーサネット、さらにはフォーティーギガビットイーサネットやハンドレッドギガビットイーサネットといった高速インターフェースを多数収容し、これらのポート間でデータをワイヤースピード(ポートの最大速度)で転送できる能力を持つ。これにより、ネットワーク内の通信が滞ることなく、スムーズに流れることを保証する。 次に、高い信頼性と可用性が求められる。ネットワークの中心で障害が発生すれば、ネットワーク全体が停止してしまう可能性があるため、基幹スイッチは24時間365日無停止での稼働が前提となる。このため、電源ユニット、制御モジュール、ファンといった主要なコンポーネントが冗長化されており、一つが故障しても自動的に予備に切り替わる「N+1」または「N+N」構成が一般的である。また、稼働中に故障した部品を交換できるホットスワップ機能も備えている。さらに、ルーティングプロトコルにおいても、VRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)やHSRP(Hot Standby Router Protocol)のようなファーストホップ冗長化プロトコルを利用し、複数の基幹スイッチ間で仮想的なルーターを形成することで、片方のスイッチが停止しても通信が途切れないようにする。スパニングツリープロトコルや、より高速なルーティング収束を可能にするプロトコル群も、経路の冗長性と障害時の高速な切り替えを実現するために活用される。 また、拡張性も重要な要素である。ネットワークの規模は時間とともに変化し、接続されるデバイス数やトラフィック量は増加していくのが常である。基幹スイッチは、モジュラ型シャーシを採用していることが多く、必要に応じてインターフェースモジュールを追加・交換することで、ポート数を増やしたり、より高速なインターフェースに対応させたりできる。これにより、初期投資を抑えつつ、将来的なネットワークの成長に対応できる柔軟性を提供する。 ルーティング機能も基幹スイッチの重要な役割の一つである。基幹スイッチはレイヤー3スイッチとも呼ばれ、IPアドレスに基づいて異なるIPネットワーク(サブネット))間の通信を中継するルーター機能を持つ。これにより、社内の異なる部門やフロア、VLAN(Virtual Local Area Network)間で、互いに通信することを可能にする。OSPF(Open Shortest Path First)やEIGRP(Enhanced Interior Gateway Routing Protocol)といった内部ルーティングプロトコルや、ISPとの接続に使用されるBGP(Border Gateway Protocol)などの外部ルーティングプロトコルをサポートし、最適な通信経路を動的に決定する。特に、VLAN間ルーティングは、VLANによって分離されたセグメント間での通信を基幹スイッチが仲介することで、ネットワークの効率的な運用とセキュリティの向上に貢献する。 セキュリティ機能も軽視できない。不正なアクセスやDDoS攻撃などからネットワークを守るため、ACL(Access Control List)による通信制御や、DoS攻撃対策機能、ポートセキュリティなどの機能が搭載されている。これにより、ネットワーク全体のセキュリティポリシーを一元的に適用し、脅威からシステムを保護する。 QoS(Quality of Service)も重要な機能の一つである。音声通話やビデオ会議のようなリアルタイム性が求められるアプリケーションは、遅延やパケットロスに非常に敏感である。基幹スイッチは、QoS機能を用いて、特定のトラフィックを優先的に処理することで、これらのアプリケーションの品質を保証する。これにより、重要な業務通信が他の大量のデータトラフィックに埋もれて品質が低下するのを防ぐ。 このように、基幹スイッチは高性能、高信頼性、高拡張性、そして多機能性を兼ね備え、現代の複雑なネットワーク環境において、その中核として不可欠な存在である。システムエンジニアがネットワークを設計・構築する際には、将来のトラフィック予測や必要なポート数、ルーティング要件、可用性レベルなどを総合的に考慮し、適切な基幹スイッチを選定することが、安定したネットワーク運用を実現するための鍵となる。