HDL(エイチディーエル)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
HDL(エイチディーエル)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
高密度論理回路 (コウミツドロンリカイロ)
英語表記
HDL (エイチディーエル)
用語解説
HDLは、Hardware Description Languageの略称であり、日本語ではハードウェア記述言語と訳される。これは、デジタル回路の設計や検証を行うために特化したコンピュータ言語の一種である。一般的なプログラミング言語がコンピュータ上で動作するソフトウェアを作成するために用いられるのに対し、HDLはLSI(大規模集積回路)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)といった物理的な電子回路そのものを設計するために使用される。つまり、HDLで書かれたコードは、最終的に論理ゲートの組み合わせからなるハードウェアの構造や動作を定義する設計図となる。システムエンジニアを目指す者にとって、ソフトウェアだけでなく、その土台となるハードウェアがどのように作られているかを理解することは、システム全体の性能や制約を把握する上で極めて重要である。HDLは、そのハードウェア設計の中核をなす技術である。
HDLの最大の特徴は、ハードウェアが持つ「並行性」を記述できる点にある。ソフトウェアのプログラムは、基本的に記述された命令が上から順に一つずつ実行される逐次処理を前提としている。一方、デジタル回路は多数の素子が同時に、そして並行して動作することで機能を実現している。例えば、コンピュータの内部では、演算装置、記憶装置、制御装置といった複数のブロックが、同じクロック信号に同期しながら一斉に動作している。HDLは、このような複数の処理が同時に進行する様子を自然に記述するための構文を備えている。これにより、設計者は複雑なハードウェアの並行動作を効率的に表現し、シミュレーションを通じてその振る舞いを検証することが可能となる。
HDLによる設計は、いくつかの異なる抽象度で行われる。最も抽象的なレベルが「動作記述(ビヘイビア記述)」である。これは、回路の具体的な構造を意識せず、入出力の関係やアルゴリズムといった機能的な振る舞いを、C言語などの高級言語に近いスタイルで記述する手法である。設計の初期段階で、システムの仕様が正しいかを確認するのに用いられる。次に、実際のハードウェア設計で主流となるのが「RTL(Register Transfer Level)記述」である。これは、回路をレジスタ(一時的にデータを保持する記憶素子)と、レジスタ間でデータを転送・演算する組み合わせ回路の集合体として捉え、その動作を記述する手法である。設計者はクロック信号を基準に、どのタイミングでどのデータがレジスタに格納されるかを意識して設計する。このRTL記述は、EDA(Electronic Design Automation)ツールの一種である論理合成ツールによって、AND、OR、NOTといった基本的な論理ゲートの接続情報(ネットリスト)へと自動的に変換される。最も具体的なレベルが「ゲートレベル記述」であり、論理ゲートの接続関係を直接記述するが、現代の大規模な設計において人間が手で記述することは稀で、主に論理合成後の検証などに用いられる。
代表的なHDLとしては、Verilog HDLとVHDLの二つが広く知られている。Verilog HDLはC言語に似た簡潔な構文を持ち、比較的学習しやすいとされる。機能拡張版であるSystemVerilogは、より大規模で複雑な設計や検証に対応しており、現在の主流となっている。一方、VHDLはプログラミング言語Adaをベースとしており、データ型の定義などが厳格で、記述ルールが厳密であるという特徴を持つ。そのため、記述ミスが検出しやすく、信頼性が求められる大規模なシステムや、航空宇宙分野などで好んで用いられる傾向がある。どちらの言語も機能的に優劣はなく、業界の慣習や設計チームの経験、利用するEDAツールなどによって選択される。
HDLを用いたLSIやFPGAの設計は、一般的に次のようなフローで進められる。まず、設計対象の仕様を決定し、それに基づいてHDLでRTL記述を作成する。次に、作成したRTL記述が仕様通りの論理的な動作をするかを確認するため、機能シミュレーションを行う。ここでは、テストベンチと呼ばれる検証用のHDLコードを作成し、設計した回路に様々な入力パターンを与えて、期待通りの出力が得られるかを検証する。機能的な正しさが確認できたら、論理合成ツールを用いてRTL記述をゲートレベルのネットリストに変換する。その後、配置配線ツールが、ネットリストを物理的なチップ上に配置し、各ゲートを配線で接続する。この物理情報には信号の遅延などが含まれるため、配置配線後のデータを用いて再度タイミングシミュレーションを行い、クロック周波数などの性能要件を満たしているかを確認する。これらの検証を経て、最終的にFPGAにデータを書き込んだり、ASIC(特定用途向け集積回路)として製造されたりして、実物のハードウェアが完成する。
HDLによる設計は、ソフトウェアプログラミングとは思考法が根本的に異なる点を理解する必要がある。前述の並行性に加え、「時間」の概念が極めて重要である。HDLのシミュレーションは時間軸に沿って進み、クロック信号のエッジなど、特定のタイミングでイベントが発生する。また、HDLで記述されたコードが全て物理的な回路になるわけではない。論理合成ツールが解釈し、ハードウェアとして実現可能な記述スタイル、いわゆる「シンセサイザブルな記述」を心掛ける必要がある。例えば、シミュレーションの便宜上使われる遅延指定などは、実際の回路には変換できない。このように、HDLは単なるプログラミングではなく、常にその背後にある物理的な回路を意識しながら記述することが求められる言語である。現代社会を支えるあらゆる電子機器の心臓部である半導体チップは、このHDLによる設計技術によって生み出されている。