ICMPリダイレクト(アイシーエムピーリダイレクト)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

ICMPリダイレクト(アイシーエムピーリダイレクト)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

ICMPリダイレクト (アイシーエムピーリダイレクト)

英語表記

ICMP redirect (アイシーエムピー リダイレクト)

用語解説

ICMPリダイレクトは、IPネットワークにおいて通信経路の最適化を目的として使用される制御メッセージであり、インターネット制御メッセージプロトコル(ICMP)の一機能として定義されている。ネットワーク上のホスト、例えばPCやサーバーが、ある宛先に対してデータを送信する際、非効率な経路を選択している場合に、ルーターがそのホストに対してより効率的な経路、つまり近道を教えるためにこのメッセージを送信する。具体的には、ホストが設定しているデフォルトゲートウェイが、特定の宛先への最適経路ではない場合に発生する。例えば、あるネットワーク内にルーターAとルーターBが存在し、ホストはルーターAをデフォルトゲートウェイとして設定しているとする。このホストが特定のサーバー宛にパケットを送信した際、そのパケットはまずルーターAに届く。しかし、ルーターAが自身のルーティング情報に基づき、そのサーバーへの最適な次の経由地が同じネットワーク上のルーターBであると判断した場合を考える。このとき、ルーターAはパケットをルーターBへ転送するが、それと同時に、送信元のホストに対して「今後はそのサーバー宛の通信は、直接ルーターBへ送るように」という内容のICMPリダイレクトメッセージを送信する。この通知を受け取ったホストは、一時的に自身のルーティング情報を更新し、以降、その特定のサーバーへの通信はルーターAを経由せず、直接ルーターBへ送信するようになる。これにより、ルーターAを経由するという無駄な一手間が省かれ、ネットワークの通信効率が向上し、ルーターの負荷も軽減される。このように、ICMPリダイレクトは、ネットワーク構成が最適でない場合に、動的に経路情報を修正し、通信の冗長性を排除する役割を担っている。

ICMPリダイレクトの動作をより深く理解するためには、その発生条件と仕組み、そして現代のネットワークにおける位置づけを知ることが重要である。まず、ルーターがICMPリダイレクトメッセージを送信するには、いくつかの厳密な条件を満たす必要がある。第一に、ルーターがパケットを受信したネットワークインターフェースと、そのパケットを転送する先のネットワークインターフェースが同一でなければならない。これは、パケットがルーターに入ってきて、同じネットワークセグメントに再び出ていくという状況を示している。第二に、パケットの送信元ホストが、ルーターと同じネットワークセグメントに接続されている必要がある。第三に、ルーターが自身のルーティングテーブルを参照して決定したネクストホップ、つまり次にパケットを転送すべきルーターもまた、送信元ホストと同じネットワークセグメント上に存在しなければならない。これらの条件が揃ったとき、ルーターは「送信元ホストは、私を経由するよりも直接ネクストホップのルーターに送った方が効率的だ」と判断し、ICMPリダイレクトを送信する。ICMPリダイレクトメッセージの内部には、ホストが経路を修正するために必要な情報が含まれている。主要な情報として、新しくゲートウェイとして使用すべきルーターのIPアドレスが格納されている。ホストはこのIPアドレスを見て、自身のルーティングテーブルを更新する。このとき追加される経路情報は、特定の宛先IPアドレスに対するものであり、「ホストルート」と呼ばれる。これにより、他の全ての通信は従来通りデフォルトゲートウェイへ送られるが、該当の宛先への通信のみが新しい経路をたどるようになる。このホストルートは通常、永続的なものではなく、キャッシュのように一定時間保持された後に破棄される。これは、ネットワーク構成の変更に柔軟に対応するためである。しかし、この機能にはセキュリティ上の重大な懸念が存在する。悪意のある攻撃者がネットワーク内に存在する場合、偽のICMPリダイレクトメッセージを特定のホストに送信することが可能である。ホストがこの偽のメッセージを信用してしまうと、本来の通信経路が攻撃者の用意した不正な機器に変更されてしまう危険性がある。これにより、通信内容が盗聴されたり、改ざんされたりする「中間者攻撃」が成立する可能性がある。このようなセキュリティリスクのため、現代の多くのオペレーティングシステムやネットワーク機器では、セキュリティ対策としてICMPリダイレクトの受信をデフォルトで無視する、あるいは送信機能を無効にする設定が一般的となっている。また、企業などのネットワーク境界に設置されるファイアウォールでは、外部から内部へのICMPリダイレクトメッセージをブロックすることが標準的な運用となっている。その結果、動的な経路最適化という本来の目的でICMPリダイレクトが積極的に利用される場面は減少傾向にある。設計段階で適切なネットワーク構成とルーティング設定を行うことが、より安全で確実な方法と見なされているためである。システムエンジニアを目指す上では、ICMPリダイレクトの仕組みを理解すると同時に、そのセキュリティリスクと現代における使われ方についても認識しておくことが極めて重要となる。