Lossy圧縮(ロッシーアッシュク)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

Lossy圧縮(ロッシーアッシュク)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

ロッシー圧縮 (ロッシーあっしゅく)

英語表記

Lossy compression (ロッシーコンプレッション)

用語解説

Lossy圧縮(ロッシーあっしゅく)とは、データを圧縮する際に、人間が知覚しにくい一部分を意図的に削除することで、ファイルサイズを大幅に小さくする技術である。この方法は、一度削除したデータを元に戻すことができないため、「非可逆圧縮」とも呼ばれる。主に、画像、音声、動画といったマルチメディアデータの圧縮に用いられる。データの一部を失うという特性を持つが、その代わりに非常に高い圧縮率を実現できる点が最大の特徴である。例えば、デジタルカメラで撮影した高解像度の画像や、高音質の音楽ファイルを、インターネット経由でスムーズに送受信したり、スマートフォンのような限られたストレージ容量を持つデバイスに大量に保存したりできるのは、このLossy圧縮技術の恩恵によるものである。対義語として、データを一切損なうことなく圧縮し、完全に元に戻せる「Lossless圧縮(可逆圧縮)」が存在するが、Lossy圧縮はLossless圧縮に比べて格段に高い圧縮率を達成できる。

Lossy圧縮の基本原理は、人間の知覚能力の限界を利用することにある。人間の目や耳は、受け取る情報すべてを完璧に認識しているわけではない。例えば、非常に細かい色の違いや、非常に高い周波数の音、あるいは大きな音に紛れた小さな音など、知覚が困難、あるいは不可能な情報が存在する。Lossy圧縮は、このような人間には認識されにくい部分のデータを特定し、それを削減または完全に削除することでデータ量を減らす。どの程度の情報を削除するかは「圧縮率」として設定でき、圧縮率を高くすればするほどファイルサイズは小さくなるが、その分、削除される情報量も増えるため、画質や音質の劣化が顕著になる。この圧縮率と品質のトレードオフの関係を理解することが、Lossy圧縮を扱う上で重要である。

具体的な圧縮技術として、いくつかの代表的なフォーマットが存在する。画像圧縮の分野で最も広く利用されているのがJPEG(ジェイペグ)である。JPEGは、画像を小さなブロックに分割し、それぞれのブロックに対して離散コサイン変換(DCT)という数学的な処理を適用する。これにより、画像データは空間的な色の変化の度合いを示す周波数成分に変換される。人間の目は、色の急激な変化(高周波成分)よりも、なだらかな変化(低周波成分)に敏感であるため、JPEGはこの高周波成分の情報を大幅に間引く「量子化」という処理を行う。この量子化の度合いを調整することで圧縮率を変える。また、人間の目は色の情報(色差)よりも明るさの情報(輝度)に敏感であるため、色の情報を間引いて記録するクロマサブサンプリングという技術も併用され、さらなる圧縮率の向上に寄与している。

音声圧縮の分野ではMP3(エムピースリー)が有名である。MP3は、人間の聴覚心理モデルを応用している。人間の耳は、一般的に20ヘルツから20キロヘルツの範囲の音しか聞き取ることができず、この可聴域を外れる周波数の音は削除しても問題がない。さらに重要なのが「マスキング効果」の利用である。これは、ある強い(大きな)音が存在すると、その前後の時間や近い周波数帯にある弱い(小さな)音が聞こえなくなるという聴覚の特性を指す。MP3のアルゴリズムは、このようなマスキングされて聞こえないと判断された音のデータを削除することで、知覚上の音質をほとんど損なうことなく、データ量を大幅に削減する。

動画圧縮ではMPEG(エムペグ)シリーズが標準的に用いられる。動画は静止画の連続であるため、フレーム(各静止画)内での圧縮にはJPEGと同様の技術が利用される。それに加え、動画特有の「時間的な冗長性」に着目する。連続するフレーム間では、背景など変化しない部分が多く存在する。MPEGは、あるフレームの情報を、その前後のフレームとの差分情報だけで記録する「フレーム間予測」という技術を用いる。全てのフレームの情報を完全に記録するのではなく、変化した部分だけの情報を記録することで、データ量を劇的に削減する。この差分情報の算出と記録の過程で、Lossy圧縮が適用される。

Lossy圧縮の最大のメリットは、その高い圧縮率にある。これにより、ストレージ容量の節約や、ネットワーク帯域の負荷軽減に大きく貢献し、現代のストリーミングサービスやオンラインコンテンツ共有の基盤技術となっている。一方で、デメリットはデータの完全性が失われることである。一度圧縮すると二度と元の品質には戻せないため、編集や加工を繰り返す用途には向いていない。Lossy圧縮されたファイルを再度Lossy圧縮すると、劣化がさらに蓄積していく「再圧縮劣化」という問題も発生する。そのため、Lossy圧縮は、最終的にユーザーが閲覧・視聴するための配布形式として用いるのが適切である。写真や音楽、動画などのオリジナルデータや、編集途中のマスターデータは、データの劣化がないLossless圧縮形式か、非圧縮の形式で保存することが推奨される。データの完全性が絶対的に求められるプログラムのソースコードや実行ファイル、文書ファイル、データベースなどの圧縮には、Lossy圧縮を用いることはできない。これらのデータは1ビットでも変化すると正常に機能しなくなるため、Lossless圧縮が必須となる。このように、Lossy圧縮とLossless圧縮はそれぞれの特性を理解し、目的や用途に応じて適切に使い分けることがシステムエンジニアにとって不可欠な知識である。