LPCM(エルピーシーエム)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
LPCM(エルピーシーエム)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
線形パルス符号変調 (センケイパルスゴウドヘンジョウ)
英語表記
LPCM (エルピーシーエム)
用語解説
LPCMは、Linear Pulse Code Modulationの略称であり、日本語ではリニアPCMまたは線形パルス符号変調と呼称される。これは、アナログ信号である音声をデジタルデータに変換するための、最も基本的かつ代表的な方式の一つである。LPCMの最大の特徴は、音声を圧縮せずにそのままデータ化する点にある。この非圧縮という特性により、変換過程における情報の欠落、すなわち音質の劣化が理論上発生せず、原音に極めて忠実なデジタル音声を生成することが可能となる。その高い忠実性から、音楽CDやDVD-Audio、Blu-ray Disc、さらにはハイレゾリューションオーディオ(ハイレゾ音源)といった高品質なオーディオメディアやフォーマットの基礎技術として広く採用されている。また、WAVやAIFFといった音声ファイル形式も、多くの場合、内部にLPCM形式のデータを格納している。システム開発の現場においても、音声処理やマルチメディアコンテンツを扱う際には、このLPCMが全てのデジタル音声の基準となるため、その原理を理解することは極めて重要である。
LPCMによるアナログ音声のデジタル化プロセスは、主に「標本化(サンプリング)」「量子化」「符号化」という三つの段階を経て実行される。まず、標本化とは、連続的に変化するアナログの音の波(波形)を、一定の短い時間間隔で区切り、その瞬間ごとの波の高さ、すなわち音の振幅を測定する工程である。この測定を行う頻度をサンプリング周波数と呼び、単位はHz(ヘルツ)で表される。例えば、音楽CDで採用されている44.1kHzというサンプリング周波数は、1秒間に44,100回、音の波形を測定することを意味する。この数値が高ければ高いほど、元の波形をより細かく捉えることができ、特に高音域の再現性が向上する。
次に、量子化の工程では、標本化によって得られた各測定点の振幅値を、あらかじめ定められた離散的な数値の段階に割り当てる。この段階の細かさを示す指標が量子化ビット数であり、単位はbit(ビット)で表される。例えば、音楽CDの16bitという仕様は、音の強弱を2の16乗、すなわち65,536段階で表現できることを示す。量子化ビット数が大きいほど、より微細な音量の変化を捉えることが可能となり、ダイナミックレンジ(最も小さい音と最も大きい音の差)が広がり、繊細で表現力豊かな音声を記録できる。LPCMの「リニア(Linear)」という言葉は、この量子化の方式に由来する。リニアPCMでは、音の大小にかかわらず、振幅の大きさと割り当てられる数値の関係が常に一定の比率、つまり線形(比例関係)に保たれる。これにより、元の波形を歪めることなく、忠実にデジタルデータへと変換できる。
最後の符号化は、量子化された数値をコンピュータが直接扱うことのできる0と1の二進数データ(バイナリコード)に変換する工程である。この一連のプロセスを経て、アナログ音声は非圧縮のデジタルデータであるLPCMとして記録される。LPCMデータの情報量は、サンプリング周波数、量子化ビット数、そしてチャンネル数(モノラルなら1、ステレオなら2)によって決まる。例えば、ステレオのCD音質(44.1kHz/16bit)の場合、1秒間あたりのデータ量は「44,100Hz × 16bit × 2チャンネル = 1,411,200bps(約1.4Mbps)」となり、非常に大きなデータ量になる。これがLPCMの唯一とも言える欠点であり、ストレージ容量の節約やネットワーク経由での配信を目的として、MP3やAACのような非可逆圧縮形式や、FLACやALACのような可逆圧縮形式が利用される。これらの圧縮形式も、元をたどればLPCMデータをいかに効率的に扱うかという観点から生まれた技術であり、LPCMはデジタルオーディオの世界における根源的なデータ形式としての地位を確立している。