LVDS(エルブイディーエス)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

LVDS(エルブイディーエス)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

低電圧差動信号 (テイデンサツドウシンゴウ)

英語表記

LVDS (エルブイディーエス)

用語解説

LVDSはLow Voltage Differential Signalingの略称であり、電子機器の内部で高速なデータ伝送を実現するための一つの物理層インターフェース規格である。特に、コンピュータのメイン基板と液晶ディスプレイパネル間の接続や、サーバ、通信機器における基板間のデータ転送など、高速性と信頼性が同時に求められる場面で広く採用されている技術だ。その名称が示す通り、「低電圧」で「差動信号」を扱う点に最大の特徴がある。この二つの要素を組み合わせることで、高速でありながらノイズに強く、かつ低消費電力という優れた特性を実現している。システムエンジニアとしてハードウェアに近い領域を扱う際には、このLVDSの原理を理解しておくことが不可欠となる。

LVDSの根幹をなす技術は差動信号方式である。従来の多くのデジタル信号伝送で用いられてきたのは、1本の信号線とグラウンドとの間の電圧差でデジタル信号の0と1を表現するシングルエンド方式であった。これに対し、差動信号方式では、2本1組の信号線、すなわち差動ペアを使用する。送信側は、この2本の線に互いに逆位相の信号、つまり一方が高電位のとき他方は低電位となるような信号を送出する。受信側では、この2本の信号線の電位差を検出することで、元のデジタルデータを復元する。この方式の最大の利点は、ノイズに対する耐性が非常に高いことである。伝送経路上で外部からノイズが混入した場合、近接して配線された2本の信号線にはほぼ同じようにノイズが乗る。受信側は2本の線の「差」を検出しているため、両方に等しく加わったノイズ成分、いわゆるコモンモードノイズは互いに打ち消し合い、信号への影響を大幅に低減できる。この特性により、シングルエンド方式に比べて信号品質を高く保つことができ、より確実なデータ伝送が可能となる。

次に、LVDSのもう一つの特徴である低電圧について解説する。LVDSで扱う信号の振幅は、一般的に350mV程度と非常に小さい。これは、シングルエンド方式で一般的なTTL(5V)やCMOS(3.3V)などと比較して大幅に低い電圧である。信号振幅を低く抑えることには複数の利点が存在する。第一に、低消費電力化が挙げられる。信号を駆動するために必要なエネルギーは電圧の二乗に比例するため、電圧を低くすることで消費電力を大幅に削減できる。これは特に、バッテリーで駆動するノートパソコンなどのモバイル機器において重要な要素となる。第二に、高速伝送への寄与である。電圧の振幅が小さければ、信号がLレベルからHレベルへ、あるいはその逆へ遷移するのに要する時間が短縮される。これにより、信号のスイッチング速度を向上させることができ、結果としてギガビット毎秒(Gbps)クラスの高速なデータ伝送が実現可能となる。第三に、EMI(Electromagnetic Interference:電磁妨害)の低減である。信号振幅が小さいことに加え、差動信号方式では2本の線から放射される電磁界が互いに打ち消し合うため、外部への電磁ノイズの放出が少なくなる。これにより、他の電子回路への悪影響を抑え、機器全体の安定動作に貢献する。

LVDSは、これらの優れた特性から、様々な用途で標準的なインターフェースとして利用されてきた。代表的な例が、ノートパソコンや液晶モニタ、テレビ内部の映像信号伝送である。メイン基板上のグラフィックスコントローラから液晶パネルのタイミングコントローラへ、膨大な映像データを高速かつ安定して伝送するためにLVDSが用いられる。この分野では、FPD-LinkやOpenLDIといったLVDSをベースとした規格が広く普及した。また、サーバやネットワーク機器のバックプレーン、ストレージ装置など、複数の基板が高速なバスで接続されるシステムにおいても、基板間インターフェースとして重要な役割を担っている。LVDSシステムは、主に信号を生成するドライバ、信号を受信するレシーバ、そしてそれらを接続する伝送路で構成される。伝送路には、特性インピーダンスが制御されたツイストペアケーブルや、プリント基板上の差動配線パターンが用いられる。信号の反射を防ぎ、波形品質を維持するために、レシーバ側には伝送路の特性インピーダンスに合わせた終端抵抗、一般的に100Ωの抵抗が配置される。この終端抵抗を介して、ドライバから送出された微小な定電流が流れ、レシーバで電圧差として検出される仕組みとなっている。近年では、ディスプレイの高解像度化やデータセンターのさらなる高速化に伴い、eDPやMIPI、あるいはSerDes技術をベースとしたさらに高速なインターフェースに置き換えられるケースも増えているが、LVDSで確立された差動信号伝送の基本原理はこれらの後継技術にも引き継がれており、現代の高速デジタルインターフェースを理解する上で非常に重要な基礎知識であると言える。