【ITニュース解説】複数のABB製品における複数の脆弱性

2025年09月10日に「JVN」が公開したITニュース「複数のABB製品における複数の脆弱性」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

ABBの複数の製品に、外部からの攻撃につながるおそれのあるセキュリティ上の弱点(脆弱性)が発見された。これにより、情報漏洩やシステム停止などの被害が発生する可能性があり、注意が必要だ。

出典: 複数のABB製品における複数の脆弱性 | JVN公開日:

ITニュース解説

今回のニュースは、世界的な産業技術企業であるABBが提供する複数の製品に、セキュリティ上の弱点、つまり「脆弱性」が複数発見されたという内容だ。システムエンジニアを目指す上で、このような脆弱性情報は避けて通れない重要な知識なので、その内容と意味を詳しく解説する。

まず、ABBという企業について少し説明しよう。ABBは、電力、産業オートメーション、ロボティクスといった分野で世界的に事業を展開している大企業だ。工場で製品を製造するライン、電力供給システム、ビルディングオートメーションなど、社会のインフラを支える様々なシステムにABBの技術が使われている。今回のニュースで対象となっている製品は、主に「プログラマブルロジックコントローラ(PLC)」や「ヒューマンマシンインターフェース(HMI)」と呼ばれる産業制御システムの一部だ。PLCは工場の機械や設備を自動で制御する小型のコンピュータのようなもので、HMIはオペレーターが機械の状態を確認したり操作したりするための画面のことだと理解すればよい。つまり、私たちの生活の基盤となるような重要なシステムで使われる製品に問題が見つかった、ということになる。

次に、「脆弱性」とは具体的にどのようなものかを説明する。脆弱性とは、ソフトウェアやシステムが持つセキュリティ上の欠陥や弱点のことを指す。これはプログラムのミスや設計上の不備によって生じ、悪意ある第三者(攻撃者)に悪用されると、システムが意図しない動作をしたり、情報が盗まれたり、破壊されたりする可能性がある。今回のABB製品に見つかった脆弱性は一つではなく、複数の種類にわたることが強調されている。

具体的な脆弱性の種類と、それが悪用された場合にどのような影響があるのか、いくつか例を挙げて解説する。

一つ目は「不適切な入力検証」と呼ばれる脆弱性だ。これは、システムに入力されるデータが、正しい形式や内容であるかを十分にチェックしないために発生する。例えば、ウェブサイトの入力欄に通常とは異なる特殊な文字列が入力された際、システムがそれを適切に処理できず、予期せぬ動作を引き起こすことがある。これにより、攻撃者がシステムに不正な命令を送り込んだり、情報を抜き取ったりするきっかけになる可能性がある。関連して「OSコマンドインジェクション」という脆弱性も指摘されており、これは攻撃者がシステムに対して直接、不正なコマンドを実行させることを可能にする。もしこれが工場で稼働しているPLCで悪用されれば、生産ラインの停止や、機械の誤動作、最悪の場合、物理的な被害に発展する恐れもある。

二つ目は「情報漏えい」に関する脆弱性だ。これは、システムが本来公開すべきではない機密情報を、誤って外部に漏らしてしまう弱点だ。例えば、認証情報(ユーザー名やパスワード)が適切に保護されていなかったり、システムの内部情報がウェブサイト経由で簡単に参照できてしまったりするケースだ。これにより、攻撃者はシステムのログイン情報などを手に入れ、不正アクセスを試みることが可能になる。

三つ目は「認証・認可の欠陥」に関する脆弱性だ。認証とは、システムにアクセスしようとするユーザーが、本当にその本人であるかを確認するプロセスだ(例:ログイン時のパスワード入力)。認可とは、認証されたユーザーが、システム内でどの操作を許可されているかを確認するプロセスだ(例:管理者権限と一般ユーザー権限の違い)。これらの仕組みに不備があると、「不適切な認証」や「認証の欠如」といった脆弱性となる。例えば、パスワードを何度も間違えてもアカウントがロックされない、パスワードの強度が不十分である、特定の機能にアクセスする際に認証が不要である、といったケースがこれにあたる。攻撃者はこれらの弱点を突き、正規のユーザーになりすましたり、権限のない操作を実行したりすることが可能になる。

四つ目は「サービス運用妨害(DoS)」に関する脆弱性だ。これは、システムに過剰な負荷をかけたり、特定の処理を繰り返し実行させたりすることで、システムが正常なサービスを提供できなくなる状態に追い込む弱点だ。例えば、短時間に大量のリクエストを送ることで、サーバーが処理しきれなくなり停止してしまうような状況だ。工場でPLCが悪用されれば、生産ラインが停止し、重大な経済的損失や社会的影響を引き起こす可能性がある。

他にも、「クロスサイトスクリプティング(XSS)」と呼ばれる、ウェブページに悪意あるスクリプトを埋め込むことで、利用者のブラウザ上で不正な処理を実行させる脆弱性や、「パストラバーサル」という、本来アクセスできないファイルやディレクトリにアクセスされてしまう脆弱性、さらには「危険なファイルの無制限アップロード」や「暗号強度の不足」といった、様々な種類の脆弱性が今回のニュースでは指摘されている。これらの弱点はそれぞれ異なる手法でシステムに影響を与えるが、最終的にはシステムの安全性や信頼性を損なうという点で共通している。

なぜこのような産業制御システムにおける脆弱性がこれほど重要視されるのか。それは、これらのシステムが、電力、ガス、水道、交通、製造業など、社会の基盤となるインフラや産業を支えているからだ。もしこれらのシステムがサイバー攻撃によって停止したり、誤作動を起こしたりすれば、私たちの日常生活に甚大な影響が出たり、経済的な大損害が発生したりする可能性がある。例えば、工場の生産ラインが停止すれば製品の供給が滞り、電力システムが停止すれば大規模な停電につながりかねない。そのため、産業制御システムに対するサイバーセキュリティ対策は非常に重要であり、今回のような脆弱性情報は迅速に対応する必要があるのだ。

今回の脆弱性に対して、利用者側が取るべき対策も明確に示されている。最も重要なのは、製品を提供しているABBが公開している「セキュリティアドバイザリ」という情報を確認し、それに従ってシステムを「アップデート」することだ。具体的には、ベンダーが提供する修正プログラム(パッチ)を適用したり、製品のファームウェアやソフトウェアを最新バージョンに更新したりする必要がある。これにより、脆弱性が修正され、攻撃者による悪用のリスクを低減できる。また、システムの設定を見直し、不要な機能を無効にしたり、より強力な認証方法を導入したりすることも有効な対策となる。さらに、産業制御システムはインターネットから物理的に隔離する、外部からのアクセスを厳しく制限するといった「多層的な防御」を講じることも推奨される。

システムエンジニアを目指す皆さんにとって、今回のニュースは、単に特定の製品の問題というだけでなく、システム開発や運用におけるセキュリティの重要性を学ぶ良い機会となるだろう。脆弱性は常に存在し、新しいものが日々発見されている。そのため、最新の情報を常に収集し、リスクを評価し、適切な対策を講じることが、システムを安全に保つ上で不可欠となる。セキュリティは、システムが完成した後に付け加えるものではなく、設計段階から考慮すべき要素であり、運用中も継続的に見直しを行う必要があるという意識を持つことが、将来のシステムエンジニアにとって非常に重要だ。