【ITニュース解説】Amazon API Gateway、ヘッダーとパスに基づく動的ルーティングを追加

2025年08月25日に「InfoQ」が公開したITニュース「Amazon API Gateway、ヘッダーとパスに基づく動的ルーティングを追加」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

Amazon API Gatewayに新機能が追加された。HTTPヘッダーの値やURLパスに基づいて、APIへのリクエストの行き先を自動的に振り分けられるようになった。これにより、ウェブサービスの柔軟な運用と効率的な管理が可能になる。

ITニュース解説

Amazon API Gatewayに「ヘッダーとパスに基づく動的ルーティング」という新しい機能が追加された。この機能は、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の運用をより柔軟かつ高度にするもので、システムエンジニアを目指す人にとって、今後のシステム設計や開発において非常に重要な概念となるため、詳しく見ていこう。

まず、Amazon API Gatewayとは何か、という基本的なところから説明する。API Gatewayは、Webサイトやスマートフォンアプリ、IoTデバイスといったクライアントからのリクエストを、バックエンドにあるサーバーやLambda関数などのサービスに安全かつ効率的に転送するための機能を提供するサービスだ。クライアントからのリクエストを受け取り、適切なバックエンドシステムに送る役割を担う。加えて、リクエストの認証、承認、レート制限(一定時間内のリクエスト数を制限すること)、キャッシング(一度取得したデータを一時的に保存して再利用すること)といった様々な処理も実行する。これにより、バックエンドのシステムは純粋なビジネスロジックに集中でき、開発効率が向上し、システムの堅牢性も高まる。

これまでのAPI Gatewayのルーティングは、主にリクエストのURLパスに基づいて行われていた。例えば、api.example.com/users というパスへのリクエストはユーザー管理サービスへ、api.example.com/products というパスへのリクエストは商品管理サービスへ、といった具合だ。これはシンプルで分かりやすいが、複数のサービスやバージョンの切り替えが必要になるような、より複雑な要件に対応しようとすると、設定が煩雑になる場合もあった。

今回導入された「動的ルーティング」は、このルーティングの柔軟性を飛躍的に向上させる機能だ。「動的」とは、リクエストが来たときに、そのリクエストに含まれる情報に基づいてリアルタイムで転送先を変えることができる、という意味である。これまでのルーティングが、あらかじめ決められたパスに応じて固定的に転送先が決まるのに対し、動的ルーティングは、リクエストの内容をその都度判断して最適な転送先を決定する。

この新しいルーティングは、「HTTPヘッダーの値に基づいて」行われることが大きな特徴だ。HTTPヘッダーとは、Webブラウザやアプリがサーバーにリクエストを送る際に、URLやリクエスト本文とは別に付随させる「メタデータ」(付帯情報)のことである。例えば、どの種類のデータを受け取りたいかを示す Accept ヘッダーや、使用している言語を示す Accept-Language ヘッダーなど、様々な標準ヘッダーがある。また、開発者は、これらの標準ヘッダーだけでなく、自分たちで定義したカスタムヘッダー(例:X-Version: v2 のようなもの)をリクエストに含めることも可能だ。

ヘッダーに基づくルーティングのメリットは多岐にわたる。例えば、同じ api.example.com/products というURLパスへのリクエストであっても、クライアントが X-Version: v1 というヘッダーを送ってきたら旧バージョンの商品情報サービスへ、X-Version: v2 というヘッダーを送ってきたら新バージョンのサービスへ、といった具合に振り分けることができる。これは、新しい機能を一部のユーザーにだけ先行公開する「カナリアリリース」や、機能の異なる複数のバージョンを同時に運用する「A/Bテスト」といった手法を非常に容易にする。システム全体を停止することなく、段階的に新機能を導入したり、どちらの機能がユーザーにとって効果的かを検証したりすることが可能になる。また、モバイルアプリとWebブラウザで異なるAPIレスポンスを返したい場合や、地域によって異なるデータを提供したい場合などにも、ヘッダー情報(例えば User-AgentAccept-Language など)を使って柔軟にルーティングできる。

さらに、この機能はヘッダーの値だけでなく、これまでのルーティングの中心だった「URLパスと組み合わせて」利用できる。これは、より複雑で詳細なルーティングルールを設定できることを意味する。例えば、api.example.com/users というパスへのリクエストで、かつ X-Country: JP というヘッダーが付いていれば日本のユーザーデータサーバーへ、X-Country: US というヘッダーが付いていればアメリカのユーザーデータサーバーへ、というように、パスとヘッダーの両方を条件として転送先を決定できる。これにより、単一のAPIエンドポイント(アクセス先)から、バックエンドに存在する多数のマイクロサービスや、地理的に分散されたデータセンターへのリクエストを効率的に振り分けられるようになる。システム全体のアーキテクチャが複雑化する現代において、このような柔軟なルーティングは、システム管理の負荷を軽減し、運用コストを削減する上で非常に有効な手段となる。

この新機能が「カスタムドメイン名用」とされている点も重要だ。通常、AWSが提供するAPI Gatewayの初期ドメイン名(例:xxxx.execute-api.ap-northeast-1.amazonaws.com)は長く、企業にとって使いにくい場合が多い。そのため、企業は自分たちのブランドに合わせて api.mycompany.com のような独自のドメイン名を使いたいと考えるのが一般的だ。これを「カスタムドメイン名」と呼ぶ。今回の動的ルーティング機能は、まさにこのカスタムドメイン名でアクセスされたAPIリクエストに対して、ヘッダーとパスに基づいた柔軟なルーティングルールを適用できるようになった、ということを意味する。これにより、企業はユーザーにとって分かりやすい統一されたドメイン名を提供しつつ、バックエンドでは非常に複雑で高度なサービス振り分けをシームレスに行えるようになる。

システムエンジニアを目指す初心者にとって、この機能の理解は、将来のキャリアにおいて大きな強みとなるだろう。現代のWebサービスは、単一の巨大なシステムで構築されるよりも、マイクロサービスと呼ばれる小さな独立したサービス群を組み合わせて構築されることが増えている。このようなマイクロサービスアーキテクチャでは、多数のAPIが互いに連携し、クライアントからのリクエストを適切に各サービスに振り分ける「API管理」の重要性が増している。API Gatewayの動的ルーティングは、この複雑なAPI管理を強力にサポートするツールとなる。サービスを停止することなく新しいバージョンを導入できること、特定の条件を満たすユーザーにのみ新しい機能を提供できること、複数の地域に分散したシステムを効率的に管理できることなど、今後のシステム開発において非常に価値のある能力を提供する。この機能を使いこなせる知識とスキルは、より柔軟で、高可用性(システムが常に利用できる状態であること)、高拡張性(システムの規模を容易に拡大できること)を備えたシステムを設計・構築するために不可欠だと言えるだろう。